クリスマスにおすすめの小説をまとめてみました。
キリスト教のイベントだけあって、やっぱり外国文学が強いですね。
子どもたちにも分かりやすい、児童文学の名作もたくさんあります。
クリスマスに向けて、気分を盛り上げてみてはいかがでしょうか。
日本文学から外国文学、大人のミステリーから名作絵本まで。
いつものとおり、年代順で並べています。
ホフマン「クルミわりとネズミの王さま」(1816)
ドイツの児童文学ファンタジーです。
チャイコフスキーのバレエ『くるみ割り人形』の原作としても有名。
部屋のまんなかの大きなもみの木には、金や銀のりんごがたくさんなっていました。そのうえ、さとうをまぶしたアーモンドや、色とりどりのキャンデーや、そのほかありとあらゆるおいしいお菓子が、つぼみがふくらんだり花が咲いたりしたように、どの枝からもいっぱいぶらさがっていました。(ホフマン「クルミわりとネズミの王さま」上田真而子・訳)
夢いっぱいのクリスマス物語です。
ディケンズ「クリスマス・キャロル」(1843)
クリスマス文学を代表する至宝の名作です。
何度も映画化されているので、ストーリーもおなじみですよね。
「クリスマスおめでとう。わたしたちみんなに、神さまのお恵みがありますように!」みんなは、口々にこの言葉をくりかえしました。いちばん最後にティム坊やが、「神さまのお恵みが、みーんなぜんぶにありますように!」と唱えました。(チャールズ・ディケンズ「クリスマス・キャロル」脇明子・訳)
シンプルだけど、何度も読んでも感動できる物語です。
ウィーダ「フランダースの犬」(1872)
イギリス児童文学の名作短篇で、ベルギー北部のフランドル地方が、物語の舞台となっています。
画家を夢見る貧しい少年<ネロ>と愛犬<パトラッシュ>の友情物語。
ちなみに、明治41年に日本で初めて出版されたとき、ネロは<清(きよし)>、パトラッシュは<斑(ぶち)>と翻訳されていました。
その日はクリスマスイブで、風車の家には、炉にくべる樫の丸太や、四角い泥炭がたくさんおいてありました。クリームやはちみつ、肉やパンもいっぱいあって、屋根を支える垂木には、トキワギを編んだ輪がいくつも飾ってあり、キリストの十字架像やハト時計が、こんもりしたヒイラギのツリーのむこうにのぞいて見えました。(ウィーダ「フランダースの犬」野坂悦子・訳)
ネロが葬られた教会は実在するそうですよ。
オルコット「ケイトのクリスマス」(1872)
『若草物語』のルイーザ・メイ・オルコットが書いたクリスマス短篇です。
孤児になった15歳の少女が、孤独なおばあさんと楽しいクリスマスを過ごします。
とんがり帽子をかぶって長靴をはいた陽気なサンタのおじいさんは、鈴を鳴らしながら暖炉から出てくると、しわがれた、それでいて陽気な声でいった。「さあさあ、みんなにプレゼントじゃよ! 輪になってすわって、すわって。すてきな妖精からの贈り物じゃ」(オルコット「ケイトのクリスマス」小松原宏子・訳)
『おばあさまの天使』としても知られる、心温まるお話です。
モーパッサン「クリスマス物語」(1882)
フランス自然主義文学の代表作家、ギ・ド・モーパッサンのクリスマス短篇です。
道で拾った卵を食べたため、悪魔に取り憑かれてしまった女を救うのは、、、
ボナンファン医師は記憶をさぐりながら、小声でくり返した。「クリスマスの思い出? クリスマスの思い出だって?」それから突然、叫んだ。「うん、あるよ。おまけにひどく奇妙な思い出がな。信じられないような話だ。わしは奇跡を見たのだ!」(モーパッサン「クリスマス物語」長島良三・訳)
クリスマスには奇跡が起きるっていうことですね。
モーパッサン「クリスマスの夜食」(1882)
クリスマス・イブに亡くなったお爺さんの物語。
死んだお爺さんを弔うため、遺族はクリスマスの夜食を食べていますが、、、
「旦那さま方、今夜がクリスマスのお夜食だってことをご存じでしょうか?」私たちはなにも知らなかった。カレンダーはほとんど見なかったからだ。いとこが言った。「それじゃ、今夜は真夜中のミサがあるな。一日じゅう鐘が鳴っていたのはそのせいか」(モーパッサン「クリスマスの夜食」長島良三・訳)
貧しい人々の現実が切ない。
ドストエフスキー「クリスマスツリーと婚礼」(1884)
ロシアの文豪ドストエフスキーのクリスマス短篇です。
11歳の美しい少女との結婚を目論む金持ちの打算に対する風刺が描かれています。
彼らはたちまちのうちにクリスマス・ツリーを裸にしてお菓子一つ残さなかった。そしてだれがどれをもらうのか聞きもしないうちに、早くも玩具を半分はこわしてしまった。(ドストエフスキー「クリスマス・ツリーと婚礼」米川正夫・訳)
米川正夫の古い翻訳には、雰囲気がありますね。
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トルストイ「靴屋のマルチン」(1885年)
「愛のあるところに神あり」のタイトルでも知られるトルストイの民話です。
妻子を亡くした孤独な男が主人公。
「なあ、この子がリンゴひとつ取ろうとした罪をゆるさなかったら、わしらが神さまにおかした罪はとうていゆるされないじゃないか。きょうのところは、わしに免じて……いや、イエスさまに免じて、ゆるしてやってはくれまいか。もうすぐクリスマスなんだから」(トルストイ「靴屋のマルチン」小松原宏子・訳)
困っている人を助ける行いは、すべて神さまのためにした行いだというお話。
チェーホフ「ワーニカ」(1886年)
クリスマスの新聞に発表されたクリスマス物語です。
靴職人からひどい虐待を受けている少年が、クリスマス・イブの夜、故郷の祖父に宛てて救いの手紙を書いているという話。
彼は、おそるおそるドアや窓を見まわしました。靴型の並ぶ棚が右左に広がっています。そのまん中に鎮座する黒ずんだ聖像をちらりと見て、ワーニカはふうっと溜息をつきました。(アントン・チェーホフ「ワーニカ」児島宏子・訳)
未知谷「チェーホフ・コレクション」の絵本は、クリスマス・プレゼントにもぴったり。
チェーホフ「少年たち」(1887年)
ロシアの文豪アントン・チェーホフの短篇小説です。
クリスマス・イブの午後、二人の少年たちがアメリカを目指して家出するものの、すぐに連れ戻されてしまう。
父親と妹たちは腰かけて、少年たちの到着で中断された作業をまた始めた。さまざまな色紙でクリスマスツリー=ヨールカを飾る花や房飾りを作っていたのだ。(アントン・チェーホフ「少年たち」児島宏子・訳)
少年たちのワクワク感が伝わってくるような冒険物語です。
オスカー・ワイルド「幸せの王子」(1888)
アイルランド出身の作家、オスカー・ワイルドの有名な児童文学作品です。
献身的な王子とツバメの物語。
ツバメはやさしくいった。「仲間には、来年の春にまた会えましょう。でも、わたしがいなくなったら、あなたはひとりぼっちですからね。いっしょにクリスマスを迎えましょう」そういいながら、ツバメの胸はかなしみでいっぱいだった。(オスカー・ワイルド「幸せの王子」小松原宏子・訳)
自己犠牲の尊さが、象徴的に描かれた作品です。
コナン・ドイル「青いガーネット」(1892)
シャーロック・ホームズのクリスマス・ミステリーです。
ガチョウの中から出てきた青い宝石の謎に挑む。
クリスマスの二日後の朝のこと。わたしは時候の挨拶をしようと、友人のシャーロック・ホームズを訪ねた。彼は紫色のガウンをはおり、ソファに横たわっていた。(アーサー・コナン・ドイル「青いガーネット」小林司、東山あかね・訳)
クリスマスに読む短篇ミステリーもいいですね。
チェーホフ「首にかけたアンナ」(1895)
アントン・チェーホフのほろ苦い短篇小説。
貧しい家庭の娘が、金持ちの男と結婚して、遊興生活に耽る悪妻となるまでを描いています。
大ホールではすでにオーケストラが鳴りひびき、ダンスがはじまっていた。官舎暮らしになじんだアンナは、明るい光やさまざまな彩りや音楽や喧騒のかもし出す印象に身も心も包まれ、≪ああ、何てすばらしいこと!≫と思った。(アントン・チェーホフ「首にかけたアンナ」中村喜和・訳)
クリスマス舞踏会でデビューするアンナのゴージャズな感じがいい。
ゴーリキー「クリスマスの幽霊」
『どん底』で知られるロシアの小説家ゴーリキーのクリスマス短篇。
貧乏人を主人公にした可哀想なクリスマス物語ばかり書いている小説家のもとへ現れたのは、恐ろしい幽霊でした。
「そうだ、これがおまえの売れそうな小説とやらの、哀れな主人公だ」声はつづけた。「そして、あとの者たちもみなおまえのクリスマス物語の主人公だ──子供、男、それに世間を喜ばすためにおまえが凍死させた哀れな女たちだ」(ゴーリキー「クリスマスの幽霊」押川曠・訳)
貧困問題に対して、直接的な行動を取ろうとしない作家の姿勢を非難した、社会的な短篇小説です。
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オー・ヘンリー「警官と讃美歌」(1904)
ニューヨークを描き続けたオー・ヘンリーのクリスマス物語。
冬が近づく頃、マジソン・スクエアの路上生活者は、なんとか刑務所に入ろうと努力しますが、、、
すみれ色のステインド・グラスの窓ごしに、やわらかい燈火が輝いていた。たぶん、オルガン弾きが、つぎの日曜日の讃美歌をちゃんと弾けるかどうか確かめるために、キイをなでまわしているのであろう。(オー・ヘンリー「警官と讃美歌」大久保康雄・訳)
短篇小説の名手らしい、皮肉な結末に注目です。
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オー・ヘンリー「賢者の贈り物」(1905)
クリスマスの定番ともなった、オー・ヘンリーの名作短篇。
貧しい夫婦が、互いを思ってクリスマス・プレゼントを用意するのですが、、、
本当に大切なものは、互いを思いやる心だった、ということでしょうか。
G・K・チェスタトン「飛ぶ星」(1911)
名探偵<ブラウン神父>シリーズの短篇ミステリー。
タイトルの「飛ぶ星」は、アフリカ産のダイヤモンドの名前でした。
いずれにしても、おれが手がけた最後の犯罪はクリスマスの犯罪、イギリス中流階級の、陽気で、心地よい雰囲気の犯罪、いわばチャールズ・ディケンズ風の犯罪だった。(G・K・チェスタトン「飛ぶ星」二宮磬・訳)
ブラウン神父シリーズ、初期の名作です。
アガサ・クリスティ「クリスマスの悲劇」(1932)
ミス・マープルのクリスマス・ミステリーです。
ちなみに、未婚の老婦人<ミス・マープル>は、エルキュール・ポアロと並ぶ、クリスティ作品の代表的な主人公。
サンダーズさんはふたりのお仲間をその場に残して、まっすぐわたしとミス・トロロープがすわっているところへ近づいてきました。家内へのクリスマス・プレゼントについて、アドバイスをいただけないかと言うのです。イブニング用のバッグなんだとか。(アガサ・クリスティ「クリスマスの悲劇」深町眞理子・訳)
ちょっとクリスマスっぽくない、ハード・ミステリーです。
ケストナー「飛ぶ教室」(1933年)
エーリヒ・ケストナーの代表作であり、ドイツ児童文学の名作。
寄宿学校を舞台にした少年たちの友情に感動します。
両親がキルヒベルクに送ってくれた小包をひらいた。すごいものがはいっていた。母さん手作りのねまき、ウールの靴下、チョコレートでコーティングしたレープクーヘンひと袋。南洋についてのおもしろそうな本、スケッチブック。そしてきわめつけは、ひと箱の高級な色鉛筆だった。(エーリヒ・ケストナー「飛ぶ教室」池田香代子・訳)
クリスマスのクッキー「レープクーヘン」が気になりますね。
デイモン・ラニアン「三人の賢者」(1936)
ブロードウェイの鬼才、デイモン・ラニアンのクリスマス短篇。
意外な展開が、とにかくおもしろい。
ツリーを見ると、おれは、ああ、いいながめだなと思う。同時にちょっとホームシックも感じる──もちろんおれは家にいるとしてもクリスマス・ツリーなんかお目にかからないけどね。(デイモン・ラニアン「三人の賢者」加島祥造・訳)
登場人物は、みんな悪役なのに、なぜかあったかいんだよなあ。
デイモン・ラニアン「ダンシング・ダンのクリスマス」(1936)
徹底してブロードウェイ界隈の作品を書き続けたデイモン・ラニアンから、もうひとつ。
宝石泥棒のギャングが、急きょサンタクロースになって、おばあさんへプレゼントを届けますが、、、
またクリスマスがやってくる──現に今日はクリスマスの前の晩で、おれは西四十七番通りにある「グッド・タイムス(お楽しみ)」チャーリー・バーンスタインの小さな酒場で猛烈に強いトム・アンド・ジェリーを飲みながら、チャーリーに向かって、クリスマスおめでとう、と言ってる。(デイモン・ラニアン「ダンシング・ダンのクリスマス」加島祥造・訳)
コメディタッチのハードボイルドは、ハートウォーミングな大人の物語。
アガサ・クリスティ「ポアロのクリスマス」(1938)
名探偵<エルキュール・ポアロ>の長篇ミステリーです。
クリスマス・イブの夜に起こった、老富豪の密室殺人事件。
今年、川副智子による新訳が登場しました。
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太宰治「メリイクリスマス」(1946)
太宰治にもクリスマス物語がありました。
昔の恋人の娘と再会した男は、今度は、この娘をモノにしてやろうと企みますが、、、
紳士は、ふいと私の視線をたどって、そうして、私と同様にしばらく屋台の外の人の流れを眺め、だしぬけに大声で、「ハロー、メリイ、クリスマアス」 と叫んだ。アメリカの兵士が歩いているのだ。(太宰治「メリイクリスマス」)
若い娘のモデルは、後に新宿バーのマダムとなる林聖子。
広島の原爆被害が生々しく残っていた、昭和21年の作品です。
太宰治「ヴィヨンの妻」(1947)
太宰治の人気作品「ヴィヨンの妻」も、クリスマスの季節が舞台となっています。
クズみたいな男と暮らす、悲しい女の物語。
九時すこし過ぎくらいの頃でございましたでしょうか。クリスマスのお祭りの、紙の三角帽をかぶり、ルパンのように顔の上半分を覆いかくしている黒の仮面をつけた男と、それから三十四、五の痩せ型の綺麗な奥さんと二人連れの客が見えまして、男のひとは、私どもには後向きに、土間の隅の椅子に腰を下しましたが、私はその人がお店にはいってくると直ぐに、誰だか解りました。どろぼうの夫です。(太宰治「ヴィヨンの妻」)
太宰が自殺する前年の作品でした。
エラリー・クイーン「クリスマスと人形」(1948)
アメリカの推理作家、エラリー・クイーンの短篇ミステリー。
天才探偵<エラリイ・クイーン>と予告怪盗との対決の行方は?
「なぜ? 理由なんかあるもんですか! ニューヨークのがきどもをよろこばせるだけですよ。なにしろ、クリスマス前日のナッシュ・デパートです。どのくらいいなか者がおしかけるか、わかったもんじゃありません」(エラリイ・クイーン「クリスマスと人形」宇野利泰・訳)
結構、思い切りクリスマスしていますよ。
サリンジャー「ライ麦畑でつかまえて」(1951)
アメリカ文学の名作「ライ麦畑でつかまえて」も、舞台はクリスマスのニューヨークでした。
浮かれた街をさまよう、行き場のない少年の物語。
その日は月曜日で、クリスマスがもう近かったから、店はみんな開いてた。だから、五番街を歩くのは、そう悪くもなかったんだ。すっかりクリスマスっぽくなっちゃっててさ。(J.D.サリンジャー「ライ麦畑でつかまえて」野崎孝・訳)
社会になじめない少年だって、クリスマスはやっぱり楽しみなんだ。
チャンドラー「長いお別れ」(1953)
アメリカのハードボイルド文学の名作「長いお別れ」は、クリスマスの季節から始まります。
名探偵<フィリップ・マーロウ>と、礼儀正しい酔っぱらい<テリー・レノックス>との友情は、クリスマスから始まりました。
ハリウッド・ブールヴァードの商店はすでに高い値につけかえたクリスマスのがらくたをならべていたし、毎日の新聞はクリスマスの買物を早くすませないと混雑すると叫びつづけていた。どうせ混雑するのだ。毎年、おなじことなのだ。(レイモンド・チャンドラー「長いお別れ」清水俊二・訳)
名言「ギムレットにはまだ早すぎるね」はラストシーンで登場。
カポーティ「クリスマスの思い出」(1956)
トルーマン・カポーティのイノセントなクリスマス・ストーリー。
特別のドラマはないけれど、しみじみとクリスマスっていいなと思います。
エゾイタチの尻尾を入れた靴の箱、古びて今では金色に変色してしまったクリスマス用のモール、銀の星がひとつ、キャンディーみたいなちゃちな電球がいくつかつながった、くたびれきって見るからに危険このうえないコード。(トルーマン・カポーティ「クリスマスの思い出」村上春樹・訳)
これは毎年読みたくなります。
横溝正史「悪魔の降誕祭」(1958)
クリスマスを舞台にした、名探偵<金田一耕助>シリーズのミステリーです。
カレンダーに残された謎と、クリスマスの殺人。
たまきもおいおい落ち着いてきたのであろうか、さきほどのように怯えた色もなく、正面きって金田一耕助を視る口もとには、うつくしい微笑さえたたえていた。「いや、もうまもなくクリスマスがまいりますね」「はあ」「クリスマスにはなにか催しごとのお約束でも……」(横溝正史「悪魔の降誕祭」)
クリスマスに金田一耕助っていうのも、変わっていていいかも。
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小沼丹「黒いハンカチ」(1958)
小沼丹のユーモア・ミステリー『黒いハンカチ』の中の「手袋」は、クリスマス・ミステリーです。
太くて赤い縁のロイド眼鏡がトレードマークの女性教師<ニシ・アズマ>が大活躍。
斯くも多くの群衆が浮れている国民的祭典と思われたものは、実はクリスマスであって、その夜は申す迄も無くクリスマス・イヴに他ならなかった。だから、街に氾濫するメロディも「ホワイト・クリスマス」であり、「ジングル・ベル」であり、「聖しこの夜」等であった。(小沼丹「手袋」)
戦後のクリスマス風景が楽しいですね。
加田伶太郎「クリスマスの贈物」(1960)
<加田伶太郎>は、ミステリー小説をかくときの福永武彦のペンネームです。
サンタクロースになりすました凶悪犯人の計画は、果たして成功するのでしょうか。
窓硝子を締めると、「きよしこの夜」の可愛らしい子供たちの合唱ももう聞えなくなった。その代り高らかな「ジングルベル」だけは、宵のくちの騒々しい街の雰囲気を伝えて、気をそそるように此所まで侵入して来た。(加田伶太郎「クリスマスの贈物」)
ミステリーというか、コメディ小説としても読めそうですね。
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戸板康二「死んでもCM」(1960)
名探偵<中村雅楽>シリーズのクリスマス・ミステリーです。
歌舞伎役者・中村雅楽が、クリスマス・イブの夜に急死した、CMタレントの謎に迫る。
去年のクリスマス・イブは、前の年ほどではなかったが、銀座の表通りは、例のとおり、雑踏が甚だしかった。(戸板康二「死んでもCM」)
市民の間にテレビが普及し始めたこの時代、ミステリー小説も大ブームでした。
山川方夫「メリイ・クリスマス」(1962)
教科書に載っていた「夏の葬列」で有名な山川方夫のクリスマス短篇です。
突然、現れたゴージャスな美女は、身長5cmに満たない小人だった。
ふいに妻がいった。「……そうだわ。今夜は、クリスマス・イヴなんだわ」二人は目を見あった。そのとき二人には言葉は要らなかった。(山川方夫「メリイ・クリスマス」)
SFチックな物語の中に、夫婦の愛が描かれています。
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トーベ・ヤンソン「もみの木」(1962)
ムーミン・シリーズにも、クリスマスの短篇小説があります。
冬眠から目覚めたムーミン一家が過ごすクリスマスとは。
「クリスマスがくるじゃないか! きみたちと、きみたちのねぼうには、まったくいやになっちまうな。クリスマスはもう、あしたにもやってくるんだぞ!」ムーミン家のものたちは、いつものように、応接間で冬眠していました。(トーベ・ヤンソン「もみの木」山室静・訳)
フィリフヨンカやヘムレンなど、ムーミン谷の仲間たちも登場
半村良「マッチ売り」(1963)
直木賞を受賞した初のSF作家・半村良のショートショートです。
バーの女性が好きになった男は、タイムマシンの研究家でした。
「クリスマスを家族とすごそうなんて、いったい誰が言い始めたんだろうねえ。毎年少しずつクリスマスが静かになって行くと思ったら、とうとう今年はこの通りだもの」マダムは三、四年前までの、あのクリスマスの馬鹿騒ぎを懐かしみます。(半村良「マッチ売り」)
アンデルセンの童話へとつながっていく発想、笑います。
星新一「クリスマス・イブの出来事」(1964)
星新一のクリスマス・ショートショートです。
クリスマス・イブの夜おそくに現われた一人の不審者の正体とは?
「いったい、おまえはだれだ」「サンタクロースです」「そんなことはわかっている。名前を聞いているのだ」「ですから、サンタクロースですよ」(星新一「クリスマス・イブの出来事」)
笑うに笑えない、現代社会のクリスマス・ストーリー。
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有馬頼義「聖夜の欲情」(1964)
直木賞作家・有馬頼義のクリスマス物語。
不幸な姉と弟の悲しい近親相姦を描いています。
「素晴らしいクリスマスになった。おめでとう」と、映は云った。映の表情から、とげとげした冷たいものが消えていた。葡萄酒を、春香は、少しなめてみた。幸福であった。(有馬頼義「聖夜の欲情」)
決して有名ではありませんが、自分の大好きな作品です。
カポーティ「あるクリスマス」(1982)
トルーマン・カポーティのイノセントなクリスマス・ストーリーの第2弾。
離れて暮らす父親の家で過ごすクリスマスは、決して楽しいものではありませんでした。
中庭は蝋燭で埋められていた。中庭に通じる三つの部屋も同様だった。客の大半は居間に集まっていた。居間の暖炉で穏やかに燃える炎がクリスマス・ツリーをきらめかせていた。(トルーマン・カポーティ「あるクリスマス」村上春樹・訳)
分かり合えない少年と父親とのすれ違いが切ない。
村上春樹「羊男のクリスマス」(1985)
村上春樹と佐々木マキによるクリスマス絵本です。
クリスマスと羊男とドーナツと双子の女の子。
いかにも80年代の村上春樹っていう感じです。
そしてクリスマス・ケーキがみんなに配られた。「おいしいなあ、もぐもぐ」と言いながら、なんでもなしは三つもケーキを食べた。「羊男世界がいつまでも平和で幸せでありますように」と聖羊上人がお祈りをささげた。(村上春樹「羊男のクリスマス」)
文庫化されていますが、やっぱり大きな絵本で読みたい。
赤川次郎「三毛猫ホームズのクリスマス」(1985)
ユーモア・ミステリー「三毛猫ホームズ」シリーズのクリスマス短篇。
全寮制の女子高を舞台に、男をめぐる殺人事件が勃発。
なんだかんだ、片山晴美さん(21歳)がいいんですよね。
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オールズバーグ「急行『北極号』」(1985)
クリス・ヴァン・オールズバーグの名作絵本を、村上春樹が翻訳。
映画『ポーラー・エクスプレス』の原作です。
なんだって好きなものもらえるんだ、と僕は思った。でも、僕がいちばんほしいものはサンタの大きな袋の中には入っていない。僕が何よりも何よりもほしいのはサンタの橇についた銀の鈴なのだ。(クリス・ヴァン・オールズバーグ「急行『北極号』村上春樹・訳)
夢のあるクリスマス・ストーリーっていいですね。
アン・ビーティ「あなたが私を見つける所」(1986)
アメリカのミニマリスト作家、アン・ビーティのクリスマス短篇です。
クリスマスを兄の家庭で過ごす、38歳の独身女性が主人公。
ツリーにはすでに二、三ダースのクリスマス・ボールと、タイプ用紙を切り抜いて作った星──とがった先のひとつにペーパークリップを通して吊るせるようにしたもの──がいくつか下げられ、飾りつけは完了。ぬいぐるみ動物園から比較的小さな動物たちが選ばれて──熊はもちろん論外だ──飼葉桶のまわりの動物に似せて、ツリーの下に並べられた。(アン・ビーティ「あなたが私を見つける所」道下匡子・訳)
男が自分を見つけてくれる場所は、果たしてどこなのだろうか。
まとめ
個人的にクリスマスが好きなので、思いがけずクリスマスの場面が出てくると嬉しくなります。
クリスマスの小説って、ありそうで、実はそんなにないんですよね。
新しいのを見つけたら、随時追加していきたいと思います。