外国文学の世界

「お洒落名人ヘミングウェイの流儀」文豪のライフスタイルを学ぶ

今村楯夫さんと山口淳さんの共著による「お洒落名人ヘミングウェイの流儀」を読みました。

文豪ヘミングウェイのライフスタイルを理解するのに便利な1冊です。

書名:お洒落名人ヘミングウェイの流儀
著者:今村楯夫、山口淳
発行:2013/10/1
出版社:新潮文庫

作品紹介

created by Rinker
¥112
(2021/09/19 18:34:51時点 Amazon調べ-詳細)

「お洒落名人ヘミングウェイの流儀」は、今村楯夫さんと山口淳さんの共著によるコラム集で、本物にこだわったヘミングウェイのライフスタイルについて検証したものです。

序章である「ホンモノへのこだわり―まえがきに代えて」には、ボストンにある「ジョン・F・ケネディ プレジデンシャル ライブラリー&ミュージアム(JFKライブラリー)」に所蔵されている「ヘミングウェイ所蔵の品々を目の前に取り出していただき、詳細に検分し、また300枚を超えるさまざまな領収書をコピーし、照合し」たとあります。

こうして出来上がったのが、ヘミングウェイに関する研究書ともコラム集ともいえるヘミングウェイをめぐる「モノ」語り、本書『ヘミングウェイの流儀』である(「はじまりは、一枚の領収書だった―あとがきに代えて」)。

なお、単行本は2010年3月に日本経済新聞社から刊行されていますが、文庫化にあたり、「本棚に並んだ黒い手帳」はカットされています。

これは「ヘミングウェイが生前愛用していたと、ほとんど伝説のごとく知られているモレスキン製の黒いハンディなノート」については、「ついに証拠となる確かなものを見つけることができなかった」ために、「ヘミングウェイの愛用品としてこのまま残しておくことが不誠実のように思われたからだ」ということです(「はじまりは、一枚の領収書だった―あとがきに代えて」)。

あらすじ

本書は様々なアイテムを通して、ヘミングウェイの文学作品について再考証を行うという視点に基づき、「アメリカン・カジュアルウェア黄金期の記録」「ナチュラルショルダーとヘミングウェイの時代」「よく書き、よく読み、よく遊ぶ」「ハードボイルド・リアリズムを20世紀デザイン」という4つの大きな章から構成されています。

目次/ホンモノへのこだわり―まえがきに代えて(今村楯夫)///【1 アメリカン・カジュアルウェア黄金期の記録】下着をはくことが私にはフォーマルなのだ[ショーツ]/実用的で長く愛用できるものを選ぶ[サンダル]/ラギッド・スタイルの体現者[レザーベスト]/トレードマークはアバクロでダース買い![サンバイザー]/G・マーフィーの伝説と『エデンの園』[マリンボーダーシャツ]/ヘミングウェイの髭変化[髭]/特注のサファリ・ジャケット[カジュアルジャケット①]/アフリカのカウボーイ[帽子①]/少年時代とニック・アダムズ[ライフスタイル]/マッキノーで鼻高々![コート①]/L.L.ビーンを大いに推奨する[ブーツ]/1917年のプレッピー[ニット]/Tシャツは立派なアウターだ[Tシャツ]/ミリタリーという名の服[ミリタリーウェア]/『スペインの大地』のラグランコート[コート②]/ナチスベルトをチャンピオン巻き[ベルト]/剛胆な米独レイヤードの男[ミリタリージャケット]/キャパとパパとトレンチコート[コート③]/バスク人御用達の縄編底靴[シューズ①]/親友G・クーパーとペアルック[カジュアルジャケット②]/怠け者の靴[シューズ②]/パパは帽子上手[帽子②]/キューバの正装、グアヤベラシャツ[シャツ]/ワイキキのジャックパーセル[スニーカー]/ヨコシマ贔屓[ニット&カットソー]/行きつけの店、アバクロンビー&フィッチ[ショップ]///【2 ナチュラルショルダーとヘミングウェイの時代】/ブルックスでプロポーズ大作戦[スーツ①]/ジャズスーツが正装[ジャケット①]/お洒落な新人見習い記者[ジャケット②]/戦争の足音[軍服]/『日はまた昇る』前夜、はじめての闘牛観戦[スーツ②]/ツイードスーツの矜持[スーツ③]/船上のドレスコード[ジャケット③]/戦う記者のチョークストライプ[スーツ④]/香港ジャケット、スリに一敗[ジャケット④]/フォーマル嫌いのブラックタイ[タキシード]/『午後の死』と伝説の服飾雑誌[雑誌①]/この少女は、いったい誰?[女装]/【3 よく書き、よく読み、よく遊ぶ】/「省略の文体」を支えた本棚[愛蔵書]/第一稿は2Bの鉛筆で書く[鉛筆]/パリで目覚めた絵画の目利き[絵画]/「表2」のパーカー51[万年筆]/『ヘミングウェイごっこ』のコロナ・ポータブル[タオプライター]/雑誌中毒の悼み方[雑誌②]///【4 ハードボイルド・リアリズムと20世紀デザイン】/鼻パッドのノンシャラン![眼鏡]/オルドニェス牧場のルイ・ヴィトン[バッグ①]/ボタの正しい飲り方[酒袋]/父母、祖父からの有形無形の贈り物[スプーン]/行動派の作家にはバブルバックがよく似合う[腕時計]/狩猟ガイドが激賞した世界一のナイフ[ナイフ]/ヴィシーを一杯。ハバナの朝の儀式[ミネラルウォーター]/”キャッチ&イート”派の毛鉤[毛鉤]/『海流のなかの島々』の”揺籠の赤ん坊”[銃①]/渓流で、海で、ハーディーとともに[釣り道具]/秘物に込められた祈り[お守り]/酒と女と想い出のフラスコ[携帯酒瓶]/『エスクァイア』と愛艇ビラール号[船]/カストロが固辞した愛用の銃[銃②]/南の島の愛聴盤[レコード]/共に旅をした、よれよれのダレスバッグ[バッグ②]/スタインベックとビール讃歌[ビール]/フォードからランチアまで[車]/人生を象徴する紋章[紋章]/1961年7月2日、ケチャム。最期の銃[銃③]///はじまりは、一枚の領収書だった(山口淳)/文庫版のためのあとがき(今村楯夫)/ヘミングウェイ年譜協力クレジット/参考文献

マリンボーダーのシャツ、ブルックス・ブラザーズのスーツ、バーバリーのコート、ハーディー・ブラザーズの釣り具、パーカーの万年筆……。ヘミングウェイの小説と人生は様々な<モノ>に彩られている。JFKライブラリーに所蔵される領収書や手紙など厖大な資料や写真をもとにヘミングウェイという作家が体現した「ライフスタイル」を明らかにする。『ヘミングウェイの流儀』改題。

なれそめ

僕は文学者のライフスタイルについて知ることが大好きです。

と言っても別に大げさなことではなくて、誰それはどこのブランドの万年筆を愛用していたとか、下戸で酒が飲めなかったとか、毎朝決まったコースを散歩したとか、そんな感じ。

そして、文学作品の中に登場するものが、果たして作者自身を反映したものであるかどうかを考えたりするのが、無暗に楽しくて仕方ないという趣味を持っています(笑)

本書は、僕のようにマニアックな趣味を持つ人たちのために書かれたヘミングウェイの解体新書です。

遺品はもとより、遺されたメモや領収書、写真などをもとに、ヘミングウェイの愛用品を徹底的に暴き晒したうえで、ヘミングウェイの作品を再検証するという内容は、まさしくマニア好み。

ヘミングウェイが好きな方にも、これからヘミングウェイを読んでみたい方にも、ぜひお勧めしたいヘミングウェイの参考書です。

本の壺

心に残ったせりふ、気になったシーン、好きな登場人物など、本の「壺」だと感じた部分を、3つだけご紹介します。

ヘミングウェイとブルックスブラザーズのスーツ

1921年、21歳のヘミングウェイが、恋人のハドレーの家を訪ねたときの写真が残っている。ヘミングウェイはさりげなく完璧にスーツを着こなしている。肩パッドの薄いナチュラルショルダー、ラペルの幅と独特の返り、ボタンピッチなどを見ると、有名なブルックス・ブラザーズのⅠ型のように見える。(「ブルックスでプロポーズ大作戦」)

カーロス・ベーカーが著した伝記には「3月11日に、彼はブルックス・ブラザーズ仕立ての新しい背広を着て彼女に会いにいった」と記されており、ヘミングウェイが着用していたスーツが、ブルックス・ブラザーズ社製であることが分かります。

この写真こそ、本書『ヘミングウェイの流儀』で表紙に使われている、若きヘミングウェイの写真です。

ワイルドなイメージのあるヘミングウェイですが、アメリカの象徴とも言うべきブルックス・ブラザーズのスーツを着こなしていたなんて、やっぱりさすが。

ちなみに、ヘミングウェイの先輩であるスコット・フィッツジェラルドもブルックス・ブラザーズの信奉者として有名ですが、フィッツジェラルドのブルックス・スーツの着こなしに対して、ヘミングウェイは文句を付けたこともあったそうです(怖)

ヘミングウェイと万年筆パーカー51

パーカー51がヘミングウェイ愛用の1本だったことは疑う余地がない。というのも、いくら大金を積まれても未知のものや自身が使ったことがないものの宣伝には加担しないと公言していたヘミングウェイ自身が、『ライフ』誌の表2(表紙の裏側)に掲載されたパーカーの広告に進んで出ているからである。(「『表2』のパーカー51[万年筆]」)

万年筆の名品として知られるパーカー51は、創業51周年にあたる1939年に設計が完成し、1941年から1970年までロングセラーを続けました。

「ニブ(ペン先)のほとんどが覆われたボディーデザインが特徴で、シルエットはP-51ムスタング戦闘機を、キャップはエンパイアステートビルをモチーフにしていた」と言われているそうです。

1947年の『ライフ』の表2に掲載された広告には、ヘミングウェイの写真も掲載されています。

ヘミングウェイとマリンボーダーシャツ

キーウエスト、そしてキューバへとヘミングウェイが海釣りの魅力に足を踏み入れ始めた頃、釣りをするときにまるでユニフォームのように頻繁に着ている横縞のシャツがある。フランス海軍が19世紀後半からユニフォームとして採用したことや、画家のピカソや藤田嗣治が着用していたことでも知られるボーダー柄のシャツがそれだ。(「G・マーフィーの伝説と『エデンの園』[マリンボーダーシャツ]」

マリンボーダーシャツの他にも、バスクシャツやフレンチセーラーシャツ、ブルトンマリン、漁師シャツなど様々な呼び名のあるこのシャツの起源には、大きく二つの説があります。

ひとつは「大航海時代に活躍したバスク人の船乗りたちが16世紀頃から着ていたものがそのルーツという説」で、もうひとつは「ケルト文化の影響が色濃いブルターニュを起源とする説」です。

漁師のシャツだったボーダーシャツを、リゾートファッションとして初めて採り入れたアメリカ人画家ジェラルド・マーフィーは、ヘミングウェイの遺作『エデンの園』のモデルとなりました。

ヘミングウェイは高級ニットブランド「アヴォンチェリ」のボーダーニットを愛用するなど、とにかく横縞デザインが好きだったようですね。

読書感想こらむ

ヘミングウェイの作品が特別に好きだという人ではないにしても、文豪ヘミングウェイが愛した名品と聞けば、きっと気になるのではないでしょうか。

本書では、ブルックスブラザーズのスーツマリンボーダーシャツのほかにも、ジャックパーセルのスニーカーバーバリーのコートルイ・ヴィトンのバッグロレックスのバブルバックアバクロンビー&フィッチなどのファッションアイテムがたくさん登場します。

また、釣りが大好きだったヘミングウェイの愛したハーディーの釣り具や、マクギンティの毛鉤なども紹介されていて、釣りに興味のある方には垂涎ものの情報ではないでしょうか。

なにより、ヘミングウェイのバックボーンとなっていたライフスタイルを理解しておくことで、ヘミングウェイの文学に対する理解は一層深まるだろうと、僕は感じました。

これからも、いろいろな文学者のライフスタイルについて、勉強していきたいと思います。

まとめ

「お洒落名人ヘミングウェイの流儀」は、文豪ヘミングウェイのライフスタイルに関する解説書です。

ヘミングウェイのファンだけではなく、大人のライフスタイルに憧れる方にお勧め。

著者紹介

今村楯夫(アメリカ文学研究家)

1943年(昭和18年)、静岡県生まれ。

日本ヘミングウェイ協会会長。

日本におけるヘミングウェイ研究の第一人者として知られる。

山口淳(ライター)

1960年(昭和35年)、兵庫県生まれ。

ファッション誌や旅行雑誌などに寄稿。

著書に『ビームスの奇跡』など。

created by Rinker
¥112
(2021/09/19 18:34:51時点 Amazon調べ-詳細)

ABOUT ME
じゅん
庄野潤三生誕100年を記念して、読書ブログを立ち上げました。村上春樹さんと庄野潤三さんの作品をゆるゆる楽しんでいます。