外国文学の世界

メアリー・ロビスン「アマチュアの星案内」幸せな家族の形は多様だ

メアリー・ロビスン「アマチュアの星案内」あらすじと感想と考察

メアリー・ロビスン「アマチュアの星案内」読了。

本作「アマチュアの星案内」は、1983年(昭和58年)にクノップフ社から刊行された作品集『アマチュアの星案内』に収録されている短篇小説である。

この年、著者は34歳だった。

原題は「An Amateur’s Guide to the Night」。

日本では、1990年(平成2年)に晶文社から刊行されたアンソロジー『アメリカ小説をどうぞ』(片岡義男編集)に、佐藤ひろみの翻訳で収録されている。

17歳の女子高生と友達親子のママ

本作「アマチュアの星案内」は、母子家庭で暮らす女子高生の物語である。

17歳の<リンディ>の趣味は天体観測だ。

リンディの星好きは近所でも有名になっているくらいだが、家族の人たちは、誰も興味を示してはくれない。

リンディは、<ママ>と、ママのパパ<おじいちゃん>と三人暮らし。

<パパ>は、もう何年も前に家族を連れて引越しをして、今は再婚している。

パパとおじいちゃんは仲良しだったので、おじいちゃんはパパと一緒に暮らした方が良かったんじゃないかと、リンディは、内心考えている。

リンディのママは変わり者だ。

もう35歳だというのに若作りで、リンディの姉という設定で、二人一緒に「男漁り」をしている。

卒業式の前日、リンディは、さりげなくママを卒業式に誘ってみるが、ママは即座に拒絶する。

「リンディ、それは無理よ」まるであたしがガレージを飛び越せとかジョギングでカンサスまで行けって頼んだみたいに、ママは答えた。「ママにはできないわ」(メアリー・ロビスン「アマチュアの星案内」訳・佐藤ひろみ)

ママは、最近で言う「友達親子」だったから、リンディの保護者的な役割を果たすことは難しかったのかもしれない。

予定どおり、ママは卒業式には来なかった。

でも、じっと座っているあいだ、あたしはずっとママのことを考えていた。最後にわかったのは、卒業式っていうのはママの胸をすごくドキドキさせるものだったっていうこと。ママはきっと卒業式の祝辞の ” これから社会に巣だっていく ” っていうところを聞くのが恐かったんだ。(メアリー・ロビスン「アマチュアの星案内」訳・佐藤ひろみ)

こうしてリンディは、高校を卒業した。

幸せな家族には、いろいろな形がある

リンディの家庭で、トラブルを抱えているのは、リンディの母親である。

リンディのママとパパが離婚した原因も、おそらくママにあるとリンディは考えている。

だからこそ、リンディは「おじいちゃんはパパと一緒に暮らした方が楽しいんじゃないか」と考えてしまうのだ(ママはおじいちゃんの実の娘なのに)。

パパから「卒業おめでとう」というカードが届いたとき、リンディは何気なく「パパがまたあたしたちと一緒に暮らすようになったらどうかな?」と二人に訊いてみる。

「戻ってこないほうがいいわ」と、ママはいった。「おまえの言うとおりだ。あいつは戻ってこない方がいい」(メアリー・ロビスン「アマチュアの星案内」訳・佐藤ひろみ)

いつも明るいおじいちゃんの声は、ちょっと怒っているように聞こえて、どうやら大人たちには、リンディの知らない大人の事情というものがあったのかもしれない。

卒業式に来なかったママからは、卒業祝いをもらった。

あたしは今みたいにぐったり疲れてる状態が好き。おじいちゃんが作ってくれた新しいアプリコット色のローブが脚にかかっていて、すごくあたたかい。これ以外の卒業祝いはママからで──ほんとうはおじいちゃんからだ──望遠鏡に関するものばかり。(メアリー・ロビスン「アマチュアの星案内」訳・佐藤ひろみ)

いつもは、リンディの趣味に関心を示してくれないママも、リンディの欲しいものはちゃんと理解してくれていたらしい。

最後にリンディはつぶやいている。

「あーあ、この寝椅子は最高!」あたしは言った。「一生ここにいたいぐらい」(メアリー・ロビスン「アマチュアの星案内」訳・佐藤ひろみ)

「寝椅子」が示しているのは、もちろん、ママとおじいちゃんとで暮らす、三人の家庭のことだろう。

「あーあ、この寝椅子は最高!」というリンディの言葉が、幸せな家族には、いろいろな形があるんだっていうことを表している。

トラブルを抱えたシングルマザーとの生活を、温かく、肯定的に描いた物語。

新しい時代の匂いを感じた。

作品名:アマチュアの星案内
著者:メアリー・ロビスン
訳者:佐藤ひろみ
書名:アメリカ小説をどうぞ
編者:片岡義男
発行:1990/6/30
出版社:晶文社

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やまはな文庫
元・進学塾講師(国語担当)。庄野潤三生誕100年を記念して、読書日記ブログを立ち上げました。いつか古本屋を開業する日のために、アンチトレンドな読書ライフを楽しんでいます。