日本文学の世界

常盤新平「ニューヨークの古本屋」書店巡りで楽しむニューヨーク旅行日記

常盤新平「ニューヨークの古本屋」書店巡りで楽しむニューヨーク旅行日記

常盤新平「ニューヨークの古本屋」読了。

本書は、2004年に刊行されたエッセイ集である。

アーウィン・ショーの『ミックスト・カンパニー』

「ニューヨークの古本屋」は、題名どおり、ニューヨークの古本屋について書かれたエッセイ集である。

ただし、「あとがき」に「書きだしてみると、古本屋だけではすまなくなってきて、記憶にあることを洗いざらい書いてみた」とあるように、古本屋や書籍を中心とした、幅広いニューヨーク日記となっている。

常盤新平のニューヨーク日記の良いところは、取りとめのないことが、取りとめなく書かれていることではないだろうか。

本人は、大岡昇平の『萌野』の紹介にあたり、「大岡さんは常に観察している。飲んで食って、ただ歩きまわって、それだけで満足している私などとはちがう」と、自虐的な書き方をしているが、「飲んで食って、ただ歩きまわって、それだけで満足している」旅行日記の方が、読者にとって自己投影しやすいような気がする。

ちなみに、大岡昇平『萌野』について、著者は「ニューヨークについて書かれた、最もすぐれた旅行記である」と絶賛しているので、いずれ読んでみたいと思った。

「私にとっては書店はニューヨークで最もくつろげる場所の一つ」と書いてあるだけあって、著者のニューヨーク散策は、とにかく書店(古書店が多い)巡りが中心となっている。

読者は、まるで著者と一緒にニューヨークの街を歩きながら、書店巡りをしているような気持ちになることができるだろう。

常盤新平は、アーウィン・ショーの翻訳で知られているが、ニューヨークの古本屋に入って最初に探す本も、アーウィン・ショーの古い短編小説である。

もっとも、1940年代のアーウィン・ショーは、発行部数も少なかったらしく、ほとんどの古書店で、ショーの短編小説を見つけることはできない。

奇跡が起きたのは、コロンヴァス・アヴェニューの七五丁目で開かれているバザール会場だった。

なんでもありの青空市。古着屋が多い。宝石類の露店、ガラス器の店と広いスペースに何列も並んでいる。万年筆屋もある。古本屋が一軒あって、なんとそこにアーウィン・ショーのランダム・ハウス版『ミックスト・カンパニー』がジャケットつきであるではないか。ジャケットの上半分は赤で、そこに「ミックスト・カンパニー」と黒い文字、下半分は黒で「短編全集、アーウィン・ショー、『若い獅子たち』の著者」と赤く抜いてある。一九五〇年刊。(常盤新平『ニューヨークの古本屋』)

アーウィン・ショーに対する常盤新平の情熱は凄い。

ひたすらに欲しいと念じていれば、いつかは欲しい本が手に入るという都市伝説も、あながち嘘ではないような気がしてくる。

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ジェローム・ワイドマンの『東四丁目』

常盤新平がニューヨークの古本屋で発掘した本には、興味深いものが多い。

私は二十代にアーウィン・ショーを知り、三十代のときにゲイ・タリーズを知り、四十代でジョゼフ・ミッチェルを知った。アメリカの小説もノンフィクションも私にはこの三人しかいなかったが、もう一人つけ加えるなら、ロワー・イースト・サイドに生れ育った『東四丁目』の作者、ジェローム・ワイドマンである。(常盤新平『ニューヨークの古本屋』)

ワイドマンの『東四丁目』は、著者にかなり大きな刺激と影響を与えたらしい。

『東四丁目』は、ランダム・ハウス社の作家だったジェローム・ワイドマンが、「ニューヨーカー」へ断続的に発表した自伝的な短編で、現在では、常盤新平の翻訳で読むことができる。

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この『東四丁目』の限定版を、著者はニューヨークの古本屋で発掘した(しかも、著者の署名入り)。

好きな作家の本を入手するというのは、プロの作家にとっても格別の気持ちなのだろう。

古本を好きな人だったら、間違いなく共感できる場面の一つである。

楽しいのは、『東四丁目』を読んだ著者が、永井龍男の『石版東京図絵』を思い出していることである。

私は東京に帰ったら、永井龍男の『石版東京図絵』を読みかえそうと思った。『石版東京図絵』は明治大正の東京下町の貧しく生きた少年が一人の職人に成長していく物語である。それが『東四丁目』のベニー・クレイマー少年と重なるのだ。『東四丁目』によって私はおそまきながら『石版東京図絵』の素晴らしさを知った。(常盤新平『ニューヨークの古本屋』)

常盤新平のエッセイには、上から目線の知ったかぶりがない。

あくまで自然体で、どこまでも等身大で語りかけてくる。

会社の上司にこんな人がいたら、きっと人生は楽しいものになるだろうなあ、という気持ちにさせてくれる、肩肘の張らない読書&旅行日記である。

書名:ニューヨークの古本屋
著者:常盤新平
発行:2004/6/5
出版社:白水社

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じゅん
庄野潤三生誕100年を記念して、読書日記ブログを立ち上げました。庄野潤三さんの作品を中心に、読書の沼をゆるゆると楽しんでいます。