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坂崎重盛「季語・歳時記巡礼全書」歳時記コレクターの俳句エッセイ集

坂崎重盛「季語・歳時記巡礼全書」歳時記コレクターの俳句エッセイ集

坂崎重盛「季語・歳時記巡礼全書」読了。

本書は、文源庫のサイトに連載された「季語道楽」を書籍化した俳句エッセイ集である。

「季語道楽」から「歳時記巡礼」へ

<坂崎>という名前に聞き覚えがあるなあと思っていたら、著者は、アルフィー・坂崎幸之助の叔父さんにあたる人らしい。

物好きな人が集まっている親族という感じがしてくる。

本書は、もともと「季語道楽」というタイトルだったことからも想像が付くとおり、季語についての俳句エッセイだった。

いろいろな歳時記に載っている季語と例句を拾い読みしていくというスタイルのエッセイである。

ところが、著者は歳時記の蒐集家であって、手元には古今東西様々な種類の歳時記があるらしい。

僕も一応、それなりに江戸の復刻物や戦前・戦後の各種歳時記は用意しているものの、利用する機会が多いのは文庫本の歳時記なのです。ただし、これらは各出版社から出ているもの、また、同じ出版社からでも編者や時代によって例句や解説がそれぞれ異なる場合も多いので、新刊が出れば入手するし、手元にない版が古書店で目に留まれば、これも買っておく。(坂崎重盛「季語・歳時記巡礼全書」)

歳時記というのは、俳句を作る際の参考書みたいなイメージもあるが、著者は、俳句と同じくらいに季語や歳時記そのものに深い愛着を感じている。

歳時記は、例句を味わったり、季語を調べるための便でもあるけれど、解説を含めて、じっくりゆっくり、隅から隅まで読み進めると実に興味深く、かつ、ためになる。知らなかったことが山ほど出てくる。(坂崎重盛「季語・歳時記巡礼全書」)

こうして、季語拾い読みだった俳句エッセイは、著者蒐集の変わり種歳時記の紹介エッセイへと変化していく。

季語を極める歳時記コレクター

次々と登場するのは、『ハワイ歳時記』や『沖縄俳句歳時記』であり、『俳句外来語事典』や『平成新俳句歳時記』だったりする。

ここにきて、本書は<歳時記巡礼>の色を濃くしてゆき、季語よりも歳時記の方が主役となる。

古本集めには、いろいろな観点があるとは知っていたけれど、歳時記の蒐集家というのもあるんだなあと感心。

特に、<久米仙俳句>が出てくる、阿部筲人の『俳句──四合目からの出発』(1984)という本は楽しそうだ。

<水増し俳句>とか<めそめそ俳句><分裂症俳句><出刃亀俳句>などといった項目を読んでいるだけで、およそ俳句らしくなくてワクワクしてくる。

やがて、歳時記コレクターの歳時記エッセイは、少しずつ本格的な正統派歳時記の紹介へと発展していく。

最初の頃には、いかにも書き捨てエッセイだったものが、この頃には、ほとんど俳句論のような文章になっていて、本書の最初と終わりだけを読むと、まるで別の本みたいだ。

金子兜太、高浜虚子、山本健吉と、歳時記界の大御所を俯瞰した後は、締めくくりに百科事典のような大物歳時記が登場してくる。

おそらくだけど、著者は、百科事典のような大歳時記よりも、個人が編纂した個性豊かな歳時記の方が好きなのだろう。

ぼくがこれまで、歳時記といえば、あれこれ考えずに、とにかく入手してきたのは、歳時記の「あとがき」を読みたかったからである。ここに編者の俳句世界に対する思い(「思想」といってもいい)、編者の苦労や愚痴、協力をあおいだ結社や同人へのあいさつ、またセールストークといった俗気もうかがえて興味深いからだ。(坂崎重盛「季語・歳時記巡礼全書」)

歳時記を蒐集する楽しみは、そんな個性を味わうところにもあるような気がする。

巻末には、主な引用句の作者別索引が載っているので、意外と便利。

俳句入門というよりは、歳時記の入門書としておすすめしたい。

俳句の好きな方は必読である。

書名:季語・歳時記巡礼全書
著者:坂崎重盛
発行:2021/8/20
出版社:山川出版社

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山川出版社
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やまはな文庫
元・進学塾講師(国語担当)。庄野潤三生誕100年を記念して、読書日記ブログを立ち上げました。いつか古本屋を開業する日のために、アンチトレンドな読書ライフを楽しんでいます。