いろいろの世界

鈴木大拙「禅と日本文化」サリンジャーと松尾芭蕉の俳句

鈴木大拙「禅と日本文化」あらすじと感想と考察

鈴木大拙「禅と日本文化」読了。

本作「禅と日本文化」は、1938年(昭和13年)に英文で刊行された日本文化論である。

原題は『Zen And Japanese Culture』。

加賀千代女と与謝蕪村

サリンジャー『ナイン・ストーリーズ』の一番最後に収録されている短編小説「テディ」の中で、松尾芭蕉の俳句が二句登場している。

その出典と考えられるのが、本書『禅と日本文化』である(詳細は『謎ときサリンジャー』参照)。

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本書は、日本文化の真髄を海外に紹介することを目的としており、美術、武士、剣道、儒教、茶道、俳句が、それぞれ禅との関連で紹介されている。

松尾芭蕉の俳句が登場するのは「第七章 禅と俳句」である。

どうやら、サリンジャーは、本書を読むことで、禅と俳句とを同時に吸収していたらしい。

「禅と俳句」では、松尾芭蕉(1644-1694)、加賀千代女(1703-1775)、与謝蕪村(1716-1783)という三人の俳人が紹介されている。

千代女の作品は「ほととぎすほととぎすにて明けにけり」「朝顔につるべとられて貰い水」のふたつ。

「ほととぎす─」の句は、太宰治の短篇小説「千代女」に登場しているし、「朝顔に─」の句も国民的に知られている有名句であるが、これらの句は、いずれも「我を忘れた無意識」によって詠まれたものであると、著者は指摘している。

同じく、蕪村の「釣鐘にとまりて眠る胡蝶哉」にも「無意識」がある。

こう私がいう意味は、蝶と鐘との表象によって表現される彼の「無意識」への直覚のことである。蕪村の見る蝶の内的生命に関していえば、蝶は鐘が自分と別な存在だとは意識せぬ。事実、自分自身をも意識せぬ。(鈴木大拙「禅と日本文化」北川桃雄・訳)

「鐘はものうげに垂れ、蝶はそれに止って疲れたまま睡ってゆく。やがて震動を感ずるが、それは待ち設けたのでもなければ待ち設けないのでもなかった」。

ここでいう「無意識への直覚」は、本書において非常に重要なキーワードとなっている。

つまり、日本文化の真髄を示す言葉の一つが「無意識への直覚」ということらしい。

松尾芭蕉とサリンジャー

松尾芭蕉の俳句も、無意識への直覚を伝えるものである。

教科書にも採用されている「古池や蛙とび込む水の音」は、芭蕉がまだその師仏頂和尚のもとで参禅していた頃、和尚とのやり取りの中から生まれたものだという。

『今日のこと作麼生(そもさん)』近頃どう暮していられるか。芭蕉答えて、『雨過ぎて青苔湿う』仏頂はさらに、『青苔いまだに生ぜざるときの仏法いかん』『蛙とび込む水の音』と芭蕉は答えた。(鈴木大拙「禅と日本文化」北川桃雄・訳)

無意識を直覚し、古池に飛び込む蛙の句に表現されたのが、芭蕉の「古池や─」の句だったと、著者はかなりの文字数を割いて解説している。

芭蕉からは、もう一句「やがて死ぬけしきはみえず蝉の声」が紹介されている。

蝉は人間の悩みなどは知らぬ。寒くなればいつでも終るべき自分の生命に対して焦らぬ。啼ける間は生きていて、生きている間は永久の命だ。無常を思い煩ってなんの益があろう。(鈴木大拙「禅と日本文化」北川桃雄・訳)

この「やがて死ぬ─」の句は、サリンジャーの「テディ」に登場している作品である。

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「啼ける間は生きていて、生きている間は永久の命だ」という無我の境地は、自分の死を予言する天才少年テディの淡々とした生き様に通じるものがあるかもしれない。

「芭蕉は僧侶ではなかったが、もっぱら禅を修めた」と、本書にはあるから、サリンジャーが俳句と禅とを同時並行的に吸収していた可能性は高い。

テディ少年も、禅と密接に関係する日本文化の影響を受けていたと考えると、その発言の意味についても、少しは理解が進みそうである。

書名:禅と日本文化
著者:鈴木大拙
訳者:北川桃雄
発行:1940/09/30(1964/03/21改版)
出版社:岩波新書

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やまはな文庫
アンチトレンドな文学マニア。出版社編集部、進学塾講師(国語担当)などの経験あり。推しは、庄野潤三と小沼丹、村上春樹、サリンジャーなど。ゴシップ大好き。