サリンジャー「若者たち」読了。
本作「若者たち」は、1940年(昭和15年)3月「ストーリー」に発表された短編小説で、サリンジャーのデビュー作である。
この年、著者は21歳だった。
サリンジャーのデビュー作品
本作「若者たち」は、サリンジャーのデビュー作である。
当時、サリンジャーは、コロンビア大学で短編小説創作の授業を受講しており、その授業の講師が、「ストーリー」誌の編集者でもある<ウィット・バーネット>だった。
伝記映画『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』で、講師のバーネットが、まだ学生だったサリンジャーに、原稿を採用した旨を伝えて、25ドルの原稿料を渡す場面がある。
その作品が、本作「若者たち」である。
「若者たち」は、上流社会で生きる大学生たちの日常を切り取った青春小説である。
彼らの青春は一見華やかで、きらびやかなものだが、実は、浅はかで虚しい。
サリンジャーは、青春の空虚な側面を、都会的な会話文を中心とする小説として描き出している。
パーティーの主催者<ルシル・ヘンダソン>は、モテない女子大生の<エドナ・フィリップ>を、冴えない男子学生<ウィリアム・ジェイソン>とくっつけようと考える。
「ねえったら」ルシル・ヘンダソンはウィリアム・ジェイソン・Jrの腕を取っていった。「ちょっと、紹介したい人がいるの」「だれ?」「女の子。すっごくかわいいんだから」(J.D.サリンジャー「若者たち」金原瑞人・訳)
しかし、紹介されたエドナは、あまり可愛くなかった(かわいかったら、パーティーでも男子学生たちが放っておかないだろう)。
エドナは、ウィリアムの気を惹こうと盛んに話しかけるが、ウィリアムは、小柄なブロンドの女の子のことばかり気にしている。
しかも、ウィリアムは、容姿がイマイチなうえに、女の子の前で親指の逆むけをかみきったりして、全然イケてない男の子だった。
エドナは、ウィリアムをテラスへ誘い出すが、結局、ウィリアムは、大学の課題を終わらせるために、もう帰らなくちゃとかなんとか言って、エドナの元を離れてしまう。
小柄なブロンドの女の子の近くに座ったウィリアムを見て、エドナはルシルにつぶやく。
「べつに何かされたわけじゃないけど、あの人は近づけないでくれる?」
自分を磨き上げる努力もせずに、恋愛の相手を探すことで必死になっている大学生たちの姿は愚かで悲しい。
華やかな上流階級の大学生活を、サリンジャーはそんな物語として社会へ提示したのである。
若者たちの空虚な現実を、都会的な若者の目線から描く
本作「若者たち」で、特に大きなテーマとなっているのは、イマイチな女子大生エドナの孤独感である。
合コンで話し相手もいなくて、寂しそうにしているエドナは頻繁に煙草を吸っている。
エドナは赤い椅子にすわった。この椅子には、だれも座ろうとしなかったらしい。エドナはパーティバッグを開けて、ラインストーンをちりばめた黒い小型のシガレットケースを出して、十数本のなかから一本抜き出した。(J.D.サリンジャー「若者たち」金原瑞人・訳)
オシャレなシガレットケースとたくさんの煙草は、エドナのきらびやかな暮らしを暗示しているが、この合同コンパでエドナは孤独だ。
しかも、その孤独感を見破られまいとして、エドナは虚勢を崩そうとしない。
モテない女子であることを、エドナ本人も決して認めていないのである。
男の子の人気を集めている小柄なブロンドの女の子<ドリス・レゲット>の悪口を、エドナはさりげなくウィリアムに吹きこむ。
確かに、ドリスは馬鹿みたいにキャーキャー笑ってばかりで知性の欠片もないのだが、女子の陰口を男子に吹きこむエドナの姿は、決して美しくない。
「ねえ!」エドナは煙草の先で、大きな赤い椅子の肘掛けを軽くたたきながら声をかけた。「ねえ、ルシル! ボビー! ラジオ、もう少しましなのはやってないの? こんな曲で踊れるわけないでしょ?」(J.D.サリンジャー「若者たち」金原瑞人・訳)
もちろん、彼女に踊る相手はいない(寂しすぎる、、、)。
そして、こんな若者たちの空虚な現実を、都会的な若者の目線から描くのが、当時のサリンジャーという作家のスタイルだった。
都会の中で都会と向き合いながら小説を書き続けたスコット・フィッツジェラルドを意識していたのかもしれない。
こんなオシャレなサリンジャーも悪くないね。
作品名:若者たち
著者:J.D.サリンジャー
訳者:金原瑞人
書名:このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ハプワース16、1924年
発行:2018/06/30
出版社:新潮社
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