庄野潤三の世界

庄野潤三「三河大島」五十代になった庄野夫妻の夫婦二人きりの海水浴

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庄野潤三「三河大島」読了。

本作「三河大島」は、「群像」1979年(昭和54年)1月号に発表された短篇小説である。

作品集では、『屋上』(1980、講談社)に収録された。

「三河大島」は、妻と二人で愛知県の三河大島まで、泊りがけの海水浴へ行った際の体験を素材とした紀行小説である。

海水浴を題材にした夏の小説といえば「蟹」(1959、『静物』所収)を思い出すが、あの頃のように三人の子どもたちが一緒ということはない。

「三河大島」の発表時、庄野さんは既に57歳で、幼い子どもたちを連れて海水浴へ行くには、年を取り過ぎていた。

まだ家に二人、男の子がいるが、それぞれ勤めを持っているので、自分の休みの日に日帰りで海へ行く。こちらは夫婦だけで計画を立てるようになる。そんな白髪頭になってなんで海水浴に行きたがるんだ、いい加減にしたらどうかという者がいるかも知れないが、長年の習慣は年を取ったぐらいで改められるものではない。いずれ海水浴どころではなくなる日が来る。(庄野潤三「三河大島」)

子どもたちが小さい頃は、夏になるとみんなで房州へ出かけ、長女が結婚した後も、親戚のいる広島へ出かけていって、宮島の沖でキスゴ釣りをしたり、船頭さんに船を浜へ着けて貰って泳いだりした年が何度かあるにはあったが、大体そのあたりで終わりになった。

これは、庄野さんの書く家族小説に変化が見られたのと、ほぼ同じ流れだったのに違いない。

庄野さんは、蒲郡のホテルを予約して、台風が接近する中、新幹線で豊橋まで向かう。

新幹線の中でお弁当を食べる場面がいい。

いつも考えることだが、汽車に乗って、昼になり、こうして弁当を取り出す。食べてしまうと、大切な用事はこれで終ったような気持になる。だからなるべく急がずに食べようと心がけるが、実際に風呂敷包みの結び目を解き、中に入っている柳行李の蓋を取って、いざ箸を手に持ったとなると、坂道を駆け出すような勢いで食べてしまう。二人ともそうなる。(庄野潤三「三河大島」)

新幹線の中でお弁当を食べるということは、庄野夫妻にとって、さぞかし大切な儀式であったらしい。

三河大島へ到着するまでの移動が、この短篇小説の見所になっているようだ。

「夫婦の晩年シリーズ」に登場する二人の男女の五十代

ホテルは小高い山の上にあった。

三河大島にいたのは、日盛りを過ぎた午後の三時から四時半まで。

島までは二十分くらいかかったように思う。あまり早く着くよりこのくらいの方がいい。地図帳で見るとすぐ目の前のようだが、そうではない。朝から泳ぎに来ていた人たちが待っていて、入れ替りに乗り込む。降りる客よりもそっちの方が多い。それでも浜にも山を背にした休憩所のあたりにも結構人はいる。(庄野潤三「三河大島」)

海からの帰り、二人は八百屋に寄って桃を四個買うが、咽喉の乾いていた庄野さんは、あっという間に二つの桃を食べてしまう。

浜辺のラジオ放送では「今日は大変暑かった」と言っていたから、中部地方では各地とも記録的な暑さであったらしい。

…新聞に名古屋では明治二十四年の観測開始以来、八月としては十三番目、岐阜では明治十六年に気象台が設立されてから四番目の記録だと出ている。いい日に来たものだ。さあ、そろそろ食堂へ出かける支度をしよう。(庄野潤三「三河大島」)

暑い夏が大好きであった庄野さんにとって、おそらくは最高の海水浴になったに違いない。

あたかも、日記や随筆を綴るかのような庄野さんの紀行小説は、晩年にシリーズで書き続けられた「夫婦の晩年シリーズ」を思い出さずにはいられない。

「夫婦の晩年シリーズ」に登場する二人の男女は、かつてどんな五十代を送っていたのか。

そんなことを考えながら、この頃の小説を読むのも楽しいだろう。

書名:屋上
著者:庄野潤三
発行:1980/2/15
出版社:講談社

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じゅん
庄野潤三生誕100年を記念して、読書日記ブログを立ち上げました。庄野潤三さんの作品を中心に、読書の沼をゆるゆると楽しんでいます。