児童文学の世界

オルコット「おばあさまの天使」家族の絆より大切なものなんて世の中にはないんだ

オルコット「おばあさまの天使」あらすじと感想と考察

女子パウロ会「オルコット小品集 おばあさまの天使」読了。

本作「オルコット小品集 おばあさまの天使」は、1977年(昭和52年)10月15日に女子パウロ会から刊行された児童文学集である。

心温まるいい話『名作クリスマス童話集』

フォレストブックスから出た『名作クリスマス童話集』を買ってきた。

本作『名作クリスマス童話集』は、いわゆる「クリスマスもの」と呼ばれる子ども向け物語を集めた童話集である。

収録作品は、トルストイ「靴屋のマルチン」、ディケンズ「クリスマス・キャロル」、オスカー・ワイルド「幸せの王子」、ホフマン「くるみわり人形」、オルコット「ケイトのクリスマス」の全5篇で、いずれもクリスマスらしくて心温まる「いい話」ばかりだ。

スタンダードな作品が中心なので、クリスマスものを一冊だけ選ぶなら、こんな本を読んでもいい。

童話集とは言っても、子ども向けのものではなく、大人が読むことを前提とした翻訳となっている(童話なので決して難解なものではないが)。

本作のポイントは、<『若草物語』のオルコットによるクリスマス短篇、初邦訳!>で、少なくとも自分は、オルコットの作品を目当てに、この本を購入した。

しかし、肝心のオルコットのクリスマス短篇「ケイトのクリスマス」には、ちょっとした疑問が残った。

もちろん、物語が悪いということではない。

オルコット「ケイトのクリスマス」は、孤児になった少女が、孤独な祖母の家で楽しいクリスマスを過ごすという、いかにもオルコットらしい「孤児もの」の短篇小説である。

ケイトは目をさまし、そこにおばあさまがいることに気づくと、にっこりほほえんでいった。「ああ、おばあさま。わたし、天使の夢を見ていたの。だから、いま、おばあさまの白いガウンと銀色の髪を見て、ほんものの天使が来たと思ったわ」(オルコット「ケイトのクリスマス」小松原宏子・訳)。

原題は紹介されていないが、クリスマスにふさわしい「いい話」であることに間違いない。

問題は、僕は、以前にこの物語の邦訳を既に読んでことがある、ということだ。

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「ケイトのクリスマス」と「おばあさまの天使」

オルコットのクリスマス短篇集に『オルコット小品集 おばあさまの天使』というのがある。

1977年(昭和52年)10月に女子パウロ会から刊行された児童文学集で、オルコットのクリスマスものが、全部で5篇収録されている。

タイトルだけ紹介すると、「テッサのおくりもの」「赤いおさいふ」「小さな紳士」「おばあさまの天使」「パティーの家」で、いずれも貧しかったり、孤児だったりと、かわいそうな子どもたちに喜びを与える内容の物語ばかりだ。

このうち、表題作の「おばあさまの天使」は、原題「KATE’S CHOICE」という作品で、孤児になった少女が、孤独な祖母の家で楽しいクリスマスを過ごすという内容になっている。

「まあ、おばあさま、いまちょうど、天使の夢を見ていたの。白いきものをきて、銀色の髪をして、おばあさま、その中に出てきた天使にそっくりだわ!」「いいえ、おまえこそ、この家の天使ですよ。おまえをてばなすなんて、どうしてそんなことができるだろうね」(オルコット「おばあさまの天使」大久保エマ・訳)

つまり、『名作クリスマス童話集』に収められている「ケイトのクリスマス」(原題「KATE’S CHOICE」)は、『オルコット小品集 おばあさまの天使』の「おばあさまの天使」と同じ作品だった、ということだ。

どうして「初邦訳」などという間違いが起きたのか謎だけれど、別に「初邦訳」じゃないからといって、「ケイトのクリスマス」の価値が落ちるというものではない。

『オルコット小品集 おばあさまの天使』は、<小学中級向き>だったのに対して、『名作クリスマス童話集』は、大人が読んで満足できる内容になっているから、翻訳としては「ケイトのクリスマス」の方が、ずっとしっかりとしている。

だから、僕としては、今回の「ケイトのクリスマス」を読んでおもしろいと思った人には、オルコットのその他のクリスマス短篇を読むことのできる『オルコット小品集 おばあさまの天使』をおすすめしたいと思う。

貧しい少女や孤児の女の子が主人公でも、どこかで救われるストーリー展開となっていて、心が温まる「いい話」ばかりである。

こうしたオルコットの作品から感じることは、困難な環境にあっても、あきらめずに努力することの大切さと、困っている人のために自分の身を削る自己犠牲の精神の尊さである。

例えば、「テッサのおくりもの」は、母親のない12歳の少女テッサが、父親や弟妹たちに楽しいクリスマスを過ごしてもらうために、路上で歌を歌ってお金を稼ごうとする物語である。

多くの大人たちは、困窮のテッサに注意を払おうともしないが、<ローズ夫人>一家は、献身的にテッサの面倒を見ようとする。

「この子のめんどうを、みてやらなくてはならないわ。フレディー、あなたの手袋をもっていらっしゃい。こんなにつめたい手をしているわ。アリスは帽子をもっていらっしゃい。ハンケチもぬれていますからね。モードは、毛皮のえりまきよ」子どもたちは部屋からとびだすと、あっというまにもどってきました。(オルコット「テッサのおくりもの」大久保エマ・訳)

あるべき理想の社会が、オルコットの作品には描かれている。

もちろん、貧しい少女も孤児の女の子も生み出すことのない健全な社会こそ、我々にとっての理想の社会かもしれないが、とりあえず我々にできることとしての理想の社会を、オルコットの作品は描き出そうとしているのだ。

その作品の向こう側にあるものは、もちろん、いつか実現するかもしれない、本当の理想郷の姿である。

クリスマスに与えられた宿題は、なかなか解決することがないけれど、少なくとも、こうした物語を次の世代へと読み継いでいくことくらいは、僕たちの責務なのではないだろうか。

作品名:おばあさまの天使
著者:ルイーザ・メイ・オルコット
書名:オルコット小品集 おばあさまの天使
発行:1977/10/15
出版社:女子パウロ会

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ABOUT ME
やまはな文庫
元・進学塾講師(国語担当)。庄野潤三生誕100年を記念して、読書日記ブログを立ち上げました。いつか古本屋を開業する日のために、アンチトレンドな読書ライフを楽しんでいます。