読書感想文

「文豪きょうは何の日?」毎日が文豪記念日な文学日めくりカレンダー

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「文豪きょうは何の日?」読了。

1920年1月7日、芥川龍之介はインフルエンザにかかって10日間ほど寝込んだ。

1908年5月4日、函館から上京した石川啄木が、金田一京助の助けで本郷にある赤心館に下宿生活をスタートする。

1923年6月9日、有島武郎が軽井沢の別荘浄月庵で自殺、遺体はおよそ一か月後の7月7日に発見された(有島の命日は「星座忌」と呼ばれている)。

1901年10月1日、与謝野晶子と鉄幹が結婚する。媒酌人は木村應太郎だった。

1929年12月10日、太宰治が薬物多量摂取で昏睡状態となる。これが太宰初めての自殺未遂だった。

文学にまつわる記念日には際限がない。

誕生日と命日をはじめ、世の中には様々な種類の記念日があり、それを網羅することなど到底できるものではない。

その1年365日(+閏日)の1日ごとに文学者たちの記録を結び付けたものが、本書『文豪きょうは何の日?』である。

「文豪きょうは何の日?」近現代の日本文学の世界を遊ぶ「文豪きょうは何の日?」近現代の日本文学の世界を遊ぶ

「文豪」の定義は定かではないが、近現代の文壇に登場した文学者たちくらいに広く考えておけばいい。

記念日の定義もないから、誕生日や命日はもちろん、結婚記念日や入学、卒業など人生の節目となった日から、何ということもないことのあった一日まで、幅広く記されている。

むしろ「永井荷風が近所の魚屋から流れてくる匂いや、近所の家から流れてくる蓄音機の音のせいで窓を開けられないことに不満を抱く(1937年8月28日)」などのように、日記に綴られているどうでもいい出来事を取り上げたものに関心が向いてしまう。

荷風の日記のごときものは通読する機会が少ないので、こうした本で落穂拾いのように読んでいくと、意外と楽しい気持ちになるものだ。

本書を支えているものは、文学と触れ合うことの、まさしくその楽しさであって、歴史上の文学者たち(いわゆる文豪)が、いつの時代に、どのような日常を送っていたのかというようなことに、気軽に触れているだけで、近現代の文学好きの人には、時間があっという間に過ぎてしまうだろう。

日めくりカレンダーのようなものだから、頭から順番に読む必要がないので、好きな季節を開いて読んでいくだけで。近現代の日本文学に対する基礎知識が身に付くし、新しい文学世界への扉を開くことにもつながっていく。

「当時12歳の芥川龍之介が、身体が弱いことから通っていたスイミングスクール『日本遊泳協会』の4級の試験に合格する(1904年8月13日)」とか「川端康成が鎌倉の林房雄に招かれてハゼ釣りに行く(1933年10月15日)」など、ほとんど文学豆知識みたいなものであっても、辿って行けば文学の世界へと通じている、大切な糸であることは間違いがない。

文学の楽しみ方というのは一様ではない。

このような本で、文学の世界に遊ぶことも、きっと有意義な時間の過ごし方というものだろう。

夏目漱石が『三四郎』の印税で子どものピアノを買う

6月21日のところには「1909年、夏目漱石が『三四郎』の初版印税を子どものためのピアノ購入代金に充てるよう妻に提案され、しぶしぶ承諾する」とある。

出典は「漱石日記」で、こんな小さなエピソードにも、作家の暮らしぶりが感じられて楽しい気持ちになる。

1908年9月1日から12月29日にかけて朝日新聞に連載された『三四郎』が、春陽堂から刊行されたのは、翌1909年5月のことで、初版二千部の印税は、400円のピアノ購入に充てられた。

「とうとうピヤノを買ふことを承知せざるを得ん事になつた。代価四百円。『三四郎』の初版二千部の印税を以て之に充つる計画を細君より申し出づ。いやいやながら宜しいと云ふ。子供がピヤノを弾いたつて面白味もなにも分りやしないが、何しろ中島先生が無闇に買はせたがるんだから仕方がない」などと綴っているのは、いかにも人間・夏目漱石といったところか。

本書をきっかけとして、広い文学の世界をたっぷりと自由に泳ぎ回りたい。

書名:文豪きょうはなんの日?
発行:2021/6/19
出版社:立東舎

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じゅん
庄野潤三生誕100年を記念して、読書ブログを立ち上げました。村上春樹さんと庄野潤三さんの作品をゆるゆる楽しんでいます。