村上春樹の世界

村上春樹「職業としての小説家」村上春樹は自分語りが好きな作家だと思う

村上春樹「職業としての小説家」あらすじと感想と考察

村上春樹「職業としての小説家」読了。

本作「職業としての小説家」は、2015年(平成27年)に刊行されたエッセイ集である。

この年、著者は66歳だった。

村上文学における陽子夫人の功績はかなり大きい

本書は、村上春樹の「自伝的エッセイ」である(と帯に書いてある)。

しかし、実際に読み終えてみると、前半部は小説家を目指す人への指南書、後半部は、小説家としての村上春樹の変遷を辿った内容となっていた。

前半から後半への移り変わりは顕著で、「小説家がテーマである」という意味では確かに同じ川の流れなんだけど、川の色が突然に変わったかのような違和感を覚える。

最後に出典を見ると、前半部は『MONKEY』連載、後半部は書き下ろしとなっている。

そもそも異なる流れが一冊の本になっていたわけだ。

前半部は、村上春樹自身の体験をもとに、小説家になるためのアドバイスが綴られている。

それで僕は思うのですが、小説家になろうという人にとって重要なのは、とりあえず本をたくさん読むことでしょう。実にありきたりな答えで申し訳ないのですが、これはやはり小説を書くための何より大事な、欠かせない訓練になると思います。(村上春樹「職業としての小説家」)

理由は、「小説というのがどういう成り立ちのものなのか、それを基本から体感として理解しなくてはならない」から。

「特に年若い時期には、一冊でも多くの本を手に取る必要がある」と、村上さんは綴っている。

次に大切なことは、「実際に手を動かして文章を書くより先に、自分が目にする事物や事象を、とにかく子細に観察する習慣をつける」こと。

多くの場合、僕が進んで記憶に留めるのは、ある事実の(ある人物の、ある事象の)興味深いいくつかの細部です。全体をそっくりそのまま記憶するのはむずかしいから(というか、記憶したところでたぶんすぐに忘れてしまうから)、そこにある個別の具体的なディテールをいくつか抜き出し、それを思い出しやすいかたちで頭に保管しておくように心がけます。(村上春樹「職業としての小説家」)

これが、いずれ小説を書くときのための素材(マテリアル)として、頭の中にストックされていくことになる。

小説家を目指す人にとって、以上の二点が、最低限に基本的な訓練ということになるらしい。

おもしろかったのは、書き上げた原稿は、一番最初に奥さんに批評してもらうというルーティーン。

そして、奥さんから指摘された部分は、自分で納得がいかなくても、とにかく絶対に書き直すということ(修正の方向性はともかくとして)。

村上文学において夫人の功績は、決して小さくはないと改めて思った。

なんだか、夫婦でありながらビジネスパートナーでもあるという感じがする。

村上春樹って意外と自分のことを語るのが好きなんだよなあ

後半部は、小説家としての村上春樹の変遷を辿ったもので、実際の作品を参照しながら、かなり冷静な自己分析となっている。

もともと、村上春樹が小説を書き始めたのは「自己満足のため」だった。

『風の歌を聴け』の中に、デレク・ハートフィールドという架空の作家が出てきて、その作品のひとつに『気分が良くて何が悪い?』というタイトルの小説がありますが、まさにそれが、当時の僕の頭の真ん中に腰を据えていた考え方です。気分が良くて何が悪い?(村上春樹「職業としての小説家」)

その後、専業作家となった村上春樹は、単なる自己満足を越えて、本格的な長編小説を次々と書き続けていくことになる。

その最初の作品が『羊をめぐる冒険』だった。

『羊をめぐる冒険』はいろんな事情があって、掲載誌「群像」編集部からは当時けっこう冷ややかな扱いを受けた(と記憶している)のですが、幸いなことに多くの読者の支持を得て、評判も上々で、本も予想以上に売れました。つまり僕は専業作家として、まずは順調なスタートを切ることができたわけです。(村上春樹「職業としての小説家」)

1980年代から1990年代、2000年代へと、村上春樹の作品は、次々とスケールアップしていく。

一人称小説から三人称小説へと変化していったのも、こうした作品の発展と深い関わりを持っていたらしい。

昔から村上春樹のエッセイは読んできたけれど、本作『職業としての小説家』を読んで感じたことは、村上春樹って意外と自分のことを語るのが好きなんだよなあということ。

恥かしいとか何とか言いつつも、綴られているエピソードには、昔から繰り返し語られてきたものも多く(本当か嘘かは別にして)、あ、また、その話ね、と思うことも少なくなかった(別に悪い意味ではなくて)。

自分語りが好きな人じゃないと、ラジオのDJなんてできないよね。

もっとも、昔の印象が残っているためか、村上春樹の話って、どこまで本当で、どこから嘘なのか、未だに分からないと思ってしまう。

何年か経ってから「あれは嘘です」って平気で言われそうだもんね。

書名:職業としての小説家
著者:村上春樹
発行:2015/09/17
出版社:スイッチ・パブリッシング

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やまはな文庫
元・進学塾講師(国語担当)。庄野潤三生誕100年を記念して、読書日記ブログを立ち上げました。いつか古本屋を開業する日のために、アンチトレンドな読書ライフを楽しんでいます。