日本文学の世界

田坂憲二「日本文学全集の時代」高度成長期を駆け抜けた文学全集列伝

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田坂憲二「日本文学全集の時代」読了。

ブログを書くときの参考にでもなるかと思って、昭和時代の文学全集を何冊か買った(もちろん、庄野潤三の作品が収録されているもの)。

せっかくなので、「全著書目録」のページに文学全集も加えようと思って、庄野さん関連のものを探していくと、意外とたくさんある。

文学全集なんて数種類くらいだろうと考えていたが、同じようなタイトルの本が何冊もあるような気がしてきて、いつの間にやら、文学全集の迷宮に入りこんでいた。

考えてみると、文学全集について、真面目に考えたことがない。

文学全集というのは、古本屋でも人気のない本の代表選手みたいなもので、全巻揃いならともかく、端本ともなると店頭ワゴンで100円とか50円とかの値札を付けて積み上げられているようなイメージがある。

この際、昭和時代に刊行された文学全集について、きちんと勉強しておこうと思って読み始めたのが、本書「日本文学全集の時代」である。

ごく簡単にまとめると、「昭和文学全集」(角川書店)と「現代文豪名作全集」(河出書房)が発行された1952年(昭和27年)から、「筑摩現代文学大系」(筑摩書房)が発行された1979年(昭和54年)までが、日本文学全集の最盛期ということになるらしい。

それは、日本の高度経済成長期と、ほぼ時期を同じくしていて、この極めて限られた時代に、多くの出版社が文学全集の発行に参加したため、その全容を正確に把握することは、ほとんど不可能だという。

当時は、いくつもの出版社が、それぞれ複数の企画を刊行しているというから、これを年代順に追っていくと、非常に分かりにくい複雑なものとなってしまう。

そのため、本書では、年代順ではなく、出版社を単位としながら、それぞれの出版社が刊行した文学全集を年代順に紹介するという構成を取っている。

さらに、それぞれの出版社には「<王道>筑摩書房」「<先駆>角川書店」「<定番>新潮社」「<現代>講談社」「<新進>集英社」「<差異>中央公論社と文藝春秋」「<拡大>河出書房」「<教養>学習研究社と旺文社」のように、分かりやすいキーワードが付いているので、それぞれの出版社の立ち位置を簡単に理解できるようになっている。

このうち、筑摩書房は、1953年(昭和28年)に「現代日本文学全集」を刊行後も、「新選現代日本文学全集」「現代日本文学全集(愛蔵版)」「現代文学大系」「現代日本文学全集(定本限定版)」「現代日本文学大系」「日本文学全集」「増補決定版 現代日本文学全集」「現代日本文学」「近代日本文学」「ちくま日本文学全集」と、多くの全集を企画刊行しており、まさしく文学全集の王道を行く感じがする。

「定番」の新潮社は、1959年(昭和34年)から1971年(昭和46年)までの間に、同じ「日本文学全集」のタイトルで、全巻の冊数の異なるシリーズを4種類も刊行しているから、これを端本で集めようと思ったら、自分がどの時代の「日本文学全集」を集めようとしているのかということを覚えておかなければならない。

さらに、新潮社は、1968年に「新潮日本文学」を、1978年からは「新潮現代文学」のシリーズを刊行しているから、新潮社の文学全集を全部集めた場合、想像を絶するボリュームになってしまうことが分かる。

もっとも複雑で分かりにくいのは、複数の出版社が同じようなタイトルの文学全集を刊行していることだろう。

例えば、「日本文学全集」というシリーズの本は、新潮社が改編して四種類を刊行、河出書房も<ワイン・カラー版><豪華版><カラー版><グリーン版>の四種類、集英社も異装版で複数を刊行、さらに、筑摩書房は「現代文学大系」をセット販売する際に「日本文学全集」と改称するなど、「日本文学全集」というタイトルで刊行されたシリーズは、10種類以上になってしまうから、「日本文学全集」というタイトルだけで書籍を特定することは不可能である。

さらに、本書を読み進めていくと、各出版社の文学全集には、読者層を絞った企画が工夫されていて、一概に「文学全集」という分類で考えるのではなく、それぞれの文学全集の特徴をとらえることが大切だということが理解できる。

文学全集という沼にハマってしまいそうな恐怖を覚える、そんな素晴らしい本だった。

書名:日本文学全集の時代
著者:田坂憲二
発行:2018/3/30
出版社:慶應義塾大学出版会

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ABOUT ME
やまはな文庫
元・進学塾講師(国語担当)。庄野潤三生誕100年を記念して、読書日記ブログを立ち上げました。いつか古本屋を開業する日のために、アンチトレンドな読書ライフを楽しんでいます。