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清水一嘉「漱石とその周辺」美禰子のモデルはグルーズの絵画だった!?

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清水一嘉「漱石とその周辺(100年前のロンドン)」読了。

夏目漱石の解説というよりも、夏目漱石が暮らした時代、100年前のロンドンについて綴られている。

思っていたほど、夏目漱石のエピソードは多くはなかったが、いくつか書きとめておく。

美禰子はグルーズの絵のように肉感的で目の大きい美貌の持ち主である。

三四郎は池ノ端で初めて見た美禰子に心ひかれる。美禰子はグルーズの絵のように肉感的で目の大きい美貌の持ち主である。加えて女性の自覚と才能に富み、近代的なセンスにも恵まれている。(「グルーズの絵と漱石」)

夏目漱石『三四郎』に登場するヒロイン「里見美禰子」のモデルは、フランス人画家ジャン・パブティスト・グルーズの「無垢」と「悲しみの習作」で描かれている女性だと、著者は指摘している。

漱石はロンドン滞在中に「ウォレス・コレクション」を訪れて、フレデリック・ミラー著の『ウォレス・コレクションの絵画』という本を購入したのではないか。

「ウォレス・コレクション」は、漱石が毎週火曜日に通ったグロスター・プレースのグレイグ先生のフラットからも遠くないので、その気になればいつでも訪ねることができる距離にあった。

実際、『三四郎』の中にも、美学の先生にグルーズの絵を見せてもらう場面があり、美禰子を見たとき、三四郎は「女の肖像はことごとくヴォラプチュアス(官能的)な表情に富んでいる」という説明を思い出している。

美禰子のモデルがグルーズの作品にあったとしても不思議なことではない。

しかも、グルーズの「無垢」の美女は、小脇に子羊を抱えていて、美禰子のつぶやく「ストレイ・シープ」という言葉につながっていく。

果たして、漱石はグルーズの描いた美女を見ながら『三四郎』を執筆したのだろうか。

平田禿木と下村観山のいた下宿は、夏目漱石がいた下宿と同じところだった

(平田)禿木と(下村)観山のいた「ザ・チェース八一番地」の下宿は漱石がロンドン時代に最後にいた下宿と同一のものなのである。漱石は明治34年7月20日から帰国までの約一年四か月間をここで過ごしている。五度の下宿のなかで最長の滞在期間であった。(「漱石、鈴木禎次、「ザ・チェース八一番地」のことなど」)

平田禿木が漱石が帰国したのと同じ貨客船「博多丸」で横浜を出発したのは、明治36年2月のことで、ロンドンには4月末に到着、9月にオックスフォード入りするまでロンドンに滞在した。

夏目漱石が、イギリス留学を終えて帰国するのは、明治35年12月のことだったから、禿木とは惜しくも入れ違いということだったらしい。

4月にロンドン入りした禿木は、半年前まで漱石が暮らしていた下宿に入って、イギリス生活を開始することになるが、明治期を代表する日本の文学者が、遥かイギリスで同じ下宿を利用していたというのは、何とも興味深い。

書名:漱石とその周辺
著者:清水一嘉
発行:2017/10/16
出版社:松柏社

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じゅん
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庄野潤三生誕100年を記念して、読書ブログを立ち上げました。村上春樹さんと庄野潤三さんの作品をゆるゆる楽しんでいます。