児童文学の世界

ムサトフ「こぐま星座」名もなき星が連帯したとき星座が生まれる

ムサトフ「こぐま星座」あらすじと感想と考察

アレクセイ・ムサトフ「こぐま星座」読了。

本作「こぐま星座」は、1949年(昭和24年)に発表された長編小説である。

この年、著者は38歳だった。

1950年(昭和25年)、スターリン文学賞受賞。

戦争被害者としてのソビエト連邦

歴史の授業において、大戦末期におけるソビエト連邦は、日ソ不可侵条約を一方的に破棄して、降伏寸前の日本へ宣戦布告してきた薄汚い国家として教えられてきた。

しかし、そのソビエトも、ナチス・ドイツの一方的な侵略を受けたという意味においては、戦争の被害者だった。

この物語は、戦争の被害者としてのソビエト連邦を舞台として描かれた児童文学である。

途中まで僕は、この物語は、大戦直後の話かと思いこんでいたけれど、読み進めていくうちに、戦争はまだ終わっていないのだということに気が付いた。

物語は、ドイツ軍の占領から解放された<ストジャールィ村>が舞台となっているが、前線において、戦争はまだ激しく続いていたのである。

だから、日本風に言うと、この物語は<銃後の農村を描いた物語>ということになる。

そこで描かれているのは、戦争で父親や母親を失った子どもたちが、学校の授業とコルホーズの作業を両立させながら、ドイツ軍に破壊されてしまった故郷<ストジャールィ村>の再建に取り組む健気な姿である。

彼らが再建に取り組む集団農場<コルホーズ>が、ソビエト連邦下の農業集団化政策であることは確かだが、少なくとも物語として、共産主義に対する胡散臭い洗脳らしきものは感じられない。

少年少女たちのひたむきに生きる力や、大地や植物に対する農民たちの信仰、そして何より、祖国を守りたいと思う庶民の気持ちに、国境はないのだと感じた。

マルクス主義に理解のあった翻訳者・古林尚としては、もしかするとソビエト連邦に対する幻想のようなものを、この作品に抱いていたのかもしれないけれど。

星座という名の連帯

原作タイトル「ストジャールィ」の意味は、ソビエト内でも地方によって異なるらしく、「牡牛座」だったり、「すばる星」だったり、「おおぐま座」と「こぐま座」をひっくるめて「ストジャールィ」と呼ぶところもあるそうだ。

「見つけた! あったわ!」一ばんはじめに叫んだのは、マーシャだった。「ほら、あそこ、ストジャールィよ……。七つ、小さな星があるでしょう。アンドレイ先生の口ぐせだったわね──『わたしたちの村は、しあわせなんですよ。星座の名まえが、ついてるでしょう』って」(ムサトフ「こぐま星座」)

村の名前に星の名前が付けられているのは、いつか星のように明るく輝く村であってほしいとの願いが込められているらしい。

しかし、僕には、名もない星が、一つの線で結ばれることによって星座としての名前を与えられるというところにこそ、この物語のテーマがあるように思える。

簡単に言ってしまうと、それは、ソビエト人たちの好きな「連帯」というテーマだ。

コルホーズというネットワークの中で、人々は力を合わせて生きている。

しかし、もちろん「連帯」は、ソビエトに固有の言葉ではない。

舞台を北海道の開拓部落に置き換えたところで、この物語は十分に通用するだろう。

物語の終盤に、お転婆少女のマーシャが、「戦争がおわったら……、あたしたちの国は、とても美しくなって、どんなことだって、できるようになるわ」と呟く場面がある。

「わたしも、そうなると思うね」と、先生は答えた。「人間は、大きな夢をいだいているとき、その目的が達成されるものなんだ。ことに、わたしたちのような国のところではね」(ムサトフ「こぐま星座」)

アンドレイ先生の「ことに、わたしたちのような国のところではね」という言葉は、ソビエトで生きる多くの少年少女に勇気と希望を与えたに違いない。

そして、それは、日本の子どもたちにとっても、勇気と希望を与えてくれる言葉だったんだよなあ。

書名:こぐま星座
著者:アレクセイ・ムサトフ
訳者:古林尚
発行:1962/4/10
出版社:岩波少年少女文学全集14

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やまはな文庫
アンチトレンドな文学マニア。出版社編集部、進学塾講師(国語担当)などの経験あり。推しは、庄野潤三と小沼丹、村上春樹、サリンジャーなど。ゴシップ大好き。