村上龍「案外、買い物好き」読了。
本書は、作家・村上龍による買い物エッセイだが、イタリアで購入するシャツの話に、多くのページが割かれている。
<買い物エッセイ集>というよりも、<シャツのエッセイ集>というべきものだが、かといって、特別に専門性が高い内容というわけでもない。
著者も述べているように、本書は、<特別にファッション好きというわけではない、普通の中年男性>が綴った買い物エッセイである。
もっとも、高級なイタリア製シャツを、現地で大量に購入する姿は、あまり<普通の中年男性>とは言えないかもしれない。
特別にファッション好きではない著者は、イタリア製シャツの魅力に憑りつかれていて、イタリアへ行くたびに大量のシャツを買って帰る。
どうして、そんなにイタリアへ行くのかというと、イタリアには友人でサッカー選手の中田英寿が滞在していて、村上龍は、中田の試合を応援するために、たびたびイタリアを訪れているからだ。
著者は、いかにイタリア製シャツが素晴らしいかということを、何度も何度も繰り返し綴っているが、ファッションの専門家ではないので、イタリア製シャツの良さを、明確に伝えることはできていない。
それは、とにかく「着てみれば理解できる良さ」なのだ。
おまけに、執筆活動が忙しくなると、イタリアへ旅行することができないから、必然的に買い物をする機会も少なくなってしまう。
ファッション好きの人だったら、イタリアだろうが国内だろうが、洋服を買いまくるに違いないが、真正のファッショニスタではない著者は、イタリア以外では、ほとんど買い物をすることがない。
このあたりが、無類のファッション好きである松任谷正隆の書いた『僕の散財日記』とは、根本的に異なっているところである。
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それにしても、連載エッセイの中で、「イタリアの青いシャツが素晴らしい」という話が、
あまりに何度も登場してくると、他にネタはないのだろうかと感じてしまう。
時にシャツ以外の話題が提供されることもあるが、イタリアのシャツほどには、何かを伝えようとしているようには、どうも、、、
だから、全体を読み終えての感想となると、どちらかといえば、<それほど買い物が好きではない中年男性が綴った買い物エッセイ>という感じ。
「買い物が好き」という人は、日本だってイタリアだって、シャツだろうが靴だろうが、ジャケットだろうが、バッグだろうが、常に買い続けていなければ安心できないものなのだ。
生まれて初めてネクタイを首に巻いた
ところで、村上龍の話によれば、イタリアの男性は本当にシャツが好きらしい。
それも、ほとんどがブルー系のシャツで、イタリア男性のファッションは、青いシャツをベースにコーディネートしていくことが基本なのだという。
一般に、イタリア・ファッションの基本として知られている「アズーロ・エ・マローネ」は、「青(アズーロ)」と「茶(マローネ)」の組み合わせのこと。
青いシャツに何を組み合わせるかがポイントになるのだが、本書はファッションの指南書ではないから、コーディネート術に関する情報は少ない。
むしろ、「イタリア製の青いシャツが好きだ」という筆者の思い入れこそが、本書のすべてであり、それ以上でもそれ以下でもないだろう。
二十四歳のときに『群像』という文芸雑誌で新人文学賞を取って、その授賞式に出るとき、わたしは生まれて初めてネクタイをいうものを首に巻いた。それも自分のネクタイではなく、そのころ付き合っていた今の妻のお兄さんのものを借りたのだった。(村上龍「案外、買い物好き」)
イタリアでシャツを買うことを覚えた後、村上龍は自分でネクタイを買うようになったそうである。
書名:案外、買い物好き
著者:村上龍
発行:2007/11/25
出版者:幻冬舎
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