日本文学の世界

「文芸レアグルーヴ」ノリで楽しむヒップな渋谷系ブックガイド

「文芸レアグルーヴ」ノリで楽しむヒップな渋谷系ブックガイド

清水浩司・永堀アツオ「文芸レアグルーヴ―いまぼくたちが読みたい日本文学の100冊」読了。

本書「文芸レアグルーヴ」は、「今フィットするグルーヴ(ノリ)を持つ文芸作品」ばかりを集めた、いわゆるブックガイドである。

今フィットするグルーヴを持つ文芸作品

多分にブックガイドらしくないブックガイドである。

タイトルの「レアグルーヴ」という言葉が、そもそも文学関係らしくない。

レアグルーヴという言葉は、クラブ・ミュージック、ファンク、ソウル、ヒップホップなどといった、音楽ジャーナリズムで耳にする言葉であって、文学を語るときに使う言葉ではない。

なぜ、こんな言葉がタイトルに付いているのかというと、それは、このブックガイドが、普段は本を読まない若者たちに向けて発信されているブックガイドだからだ。

たまには一緒に、本でも読んでみませんか?」という呼びかけは、いかにも、それを象徴している。

本書に登場する100冊の本は、二人の著者が、自分たちの趣味で選んだ100冊の本である。

いわゆる名作ガイドでもなければ新刊ガイドでもない。

無理に定義すれば「今フィットするグルーヴ(ノリ)を持つ文芸作品」ということになるのだが、それは、純文学も現代文学も古典的名作も流行小説も含めて、選定の対象になってくるということである。

カテゴリも独特のもので、「カフェ本」「恋と青春本」「人生本」「旅支度本」「ベッド本」の順で、今読みたい100冊の本が紹介されている。

例えば、「カフェ本」のテーマは「コーヒーと短篇集。」で、ここでは、庄野潤三をはじめとして、吉行淳之介や安岡章太郎、小島信夫といった、いわゆる<第三の新人>の短編集が採りあげられている。

かなり地味なセレクトに思われるが、これは、村上春樹の『若い読者のための短編小説案内』の影響だと、はっきり書かれている。

本書は、ライターとエディター二人の共著だが、二人に共通する作家は<村上春樹>ということだったらしい。

だから、本書は<村上春樹>を源流として広がっていった文芸の世界を表現したものということになる。

その村上春樹は、「カフェ本」に初期短篇集『螢・納屋を焼く・その他の短編』(1984)が紹介されている。

紹介文が、また独特で、渋谷で活動している若者たちを意識したような、雑誌『宝島』的な文章である。

このビート感。この世界観。このライフスタイル。現実と夢の隙間に住まう、このバランス。初期ゆえに蒼い結晶は、ひどく近しく胸に残る。マスター・ピーセズ。(清水浩司・永堀アツオ「文芸レアグルーヴ」)

この文章を読んで、『螢・納屋を焼く・その他の短編』をイメージする人は、決して多くはないだろう。

だけど、言ってることは何となく分かるような気もする。

要は「ノリ」の世界なのだ。

文学を音楽に置き換えて鑑賞していく

庄野潤三の『プールサイド小景・静物』はどうだろうか。

そう、庄野の作品は僕の中で思いっきりネオアコと重なるのです。それも80年代中期のエブリシング・バット・ザ・ガールというか、氷のような緊張感。清冽であることの暴力性。──庄野潤三は文学の「ネオアコ」だ!(清水浩司・永堀アツオ「文芸レアグルーヴ」)

文学を音楽に置き換えて鑑賞していく手法は、本書では珍しくない。

さらに、「庄野潤三は文学のネオアコだ」のような、キャッチコピーが楽しくて、赤川次郎は「文学界のニューミュージック」で、太宰治は「ポップアート」になる。

もっとも、選書は意外とオーソドックス。

夏目漱石や梶井基次郎など、若い人にもお勧めの定番作品が並んでいる。

だから、遊んでいるようでいて、割と実用的なのが、この『文芸レアグルーヴ』という本なのだ。

90年代の空気感を残した渋谷系ブックガイドとして読みたい。

なにしろ、帯の推薦文を曽我部恵一(サニーデイ・サービス)が書いているくらいなので。

書名:文芸レアグルーヴ―いまぼくたちが読みたい日本文学の100冊
著者:清水浩司、永堀アツオ
発行:2001/6/1
出版社:マーブルブックス

ABOUT ME
青いバナナ
アンチトレンドな文学マニア。推しは、庄野潤三と小沼丹、村上春樹、サリンジャーなど。ゴシップ大好き。