庄野潤三の世界

読売新聞「庄野潤三 VS 島尾敏雄」家族を描き続けた小説家たち

読売新聞「庄野潤三 VS 島尾敏雄」家族を描き続けた小説家たち

2022年5月22日(日)の読売新聞で、庄野潤三が紹介されていました。

現存作家ではない庄野潤三については、知らない人も多いと思いますので、今回は、改めて庄野潤三とその作品について、ご紹介したいと思います。

庄野潤三は、どんな作家だったのか?

日本の文学史の中で、庄野潤三は「第三の新人」と呼ばれるグループに位置付けられています。

戦後の日本文学は、悲惨な戦場体験を描く「第一次戦後派」「第二次戦後派」から始まりますが、やがて、そうしたリアルな戦場体験を持たない世代が文壇に登場します。

戦場体験を持たない彼らは「第三の新人」と呼ばれて、戦争と向き合う代わりに、自分自身と向き合う私小説を主に発表します。

社会的で重厚な戦後派の作品に対して、個を描く「第三の新人」の作品は、文壇では軽んじられる傾向が強かったようです。

主流派ではないことで「第三の新人」と呼ばれた文学者たちの結束は強く、庄野潤三も、吉行淳之介や安岡章太郎、遠藤周作、島尾敏雄、小沼丹などの同世代作家と深い交流を持ちました。

1955年(昭和30年)に『プールサイド小景』で芥川賞を受賞。

神奈川県生田の我が家をモチーフにした家族小説を、生涯に渡って書き続けました。

近刊として、小学館 P+D BOOKS『せきれい』(2022)があります。

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庄野潤三VS島尾敏雄、あなたはどっち派?

今回、庄野潤三が紹介されているのは、読売新聞文化欄「HONライン倶楽部」の「どっち派?」というコーナーです。

二人の作家を取り上げて、どちらの作家を支持するか、読者に意見を求めるというもので、今回のテーマは「庄野潤三VS島尾敏雄」。

読売新聞文化欄「HONライン倶楽部」の「どっち派?」読売新聞文化欄「HONライン倶楽部」の「どっち派?」

「第三の新人」では仲間同士のこの二人、実は九州帝国大学で共に東洋史を専攻した仲間でもあります。

大学では島尾敏雄が先輩でしたが、文学を愛好する同志として、庄野さんと島尾敏雄は親友のような付き合いをしていたようです。

この大学時代の様子については、庄野潤三の『前途』という長篇小説で詳しく描かれているほか、文学仲間との交流を回想した『文学交友録』でも紹介されています。

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もっとも、穏やかな家族生活を描いた庄野潤三と、夫婦関係の鮮やかな破滅を描いた島尾敏雄とでは、文学のテーマが大きく異なっているので、どちらを支持するかということになると、票は大きく割れそうです。

実際、読売新聞にも<投書での支持が圧倒的に多かったのが、庄野の作品でした>とあります。

今の時代、平穏な日常生活に対する憧れの方が強いのかもしれませんね。

庄野潤三の作品について

1950年代から2000年代まで書き続けた庄野潤三には、多くの作品がありますが、今回は、読売新聞で紹介されている作品を紹介したいと思います。

<「山の上の家」に暮らす一家の生活ぶりをつづった『夕べの雲』を評価する声が多く寄せられました>とある『夕べの雲』は、1964年から1965年にかけて、日本経済新聞に連載された長編小説で、晩年まで庄野さん自身が「自分の代表作」と認めていた作品です。

神奈川県生田の「山の上の家」で暮らす庄野一家をモチーフに、五人家族のささやかな日常生活を繊細な視点で描いています。

大きなストーリーはありませんが、家族の穏やかな幸せを喜ぶ父親の目線から、平穏な家庭生活の一瞬を見事に小説化したことで評価も高く、読売文学賞を受賞しました。

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<芥川賞に輝いた『プールサイド小景』、『静物』への支持も多くありました>とある『プールサイド小景』や『静物』は、庄野文学初期の名作として、今も高い評価を得ています。

あまり知られていませんが、村上春樹も初期庄野文学の支持者であり、『若い読者のための短編小説案内』では、庄野潤三の『静物』を紹介しています。

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意外と新聞紙上に出てこなかったのは、『貝がらと海の音』や『うさぎのミミリー』などで知られる夫婦の晩年シリーズ。

子どもたちが独立して老夫婦二人になった暮らしをテーマに、晩年の庄野さんがライフワークとして書き続けていたもので、現在も静かなブームと言われるほどに、読者からの支持を集めています。

今回、読売新聞では、庄野潤三の仕事を再評価する意味で、あえて『夫婦の晩年シリーズ』から離れたのかもしれないと思いました。

庄野潤三の隠れた名作

管理人自身、庄野潤三には、夫婦の晩年シリーズ以外にも、たくさんの良い作品があると考えています。

新聞紙上で紹介されなかった作品では、初めての五人家族小説『ザボンの花』、生田の五人家族シリーズ『明夫と良二』、家族小説を離れたところでは、アメリカでの暮らしを綴った『ガンビア滞在記』、イギリス旅行の記録『陽気なクラウン・オフィス・ロウ』など、読むべき名作がたくさんあります。

庄野潤三を読んだことがないという方は、ぜひ、この機会に、手に取ってみてはいかがでしょうか。

既に入手困難なものも多いですが、講談社文芸文庫や小学館 P+D BOOKSでは、今も新刊が刊行されています。

それでも入手が難しいものは図書館を利用してみてください。

疲れた気持ちを癒してくれる、温かい何かを感じることができると思いますよ。

まとめ

ということで、以上、今回は、読売新聞文化欄「HONライン倶楽部」の「どっち派?」に掲載されている、庄野潤三の作品についてご紹介しました。

ちなみに、このブログの多くの記事は、庄野潤三に関するものなので、興味のある方はゆっくりしていってください(笑)

ABOUT ME
やまはな文庫
元・進学塾講師(国語担当)。庄野潤三生誕100年を記念して、読書日記ブログを立ち上げました。いつか古本屋を開業する日のために、アンチトレンドな読書ライフを楽しんでいます。