児童文学の世界

ケストナー「エーミールと三人のふたご」少年たちの成長と夏休みの海辺の冒険

ケストナー「エーミールと三人のふたご」あらすじと感想と考察

ケストナー『エーミールと三人のふたご』読了。

本作は『エーミールと探偵たち』の続編に位置付けられる、ケストナーの児童文学小説である。

1929年に刊行された『エーミールと探偵たち』は人気を得て、1931年に映画化されているが、本作では、映画版『探偵たち』のロケ場面に、当の本人たちが偶然に行き会う場面から始まっている。

いわゆるメタフィクションである。

『探偵たち』から二年以上の時が経ち、少しずつ成長したエーミールとかつての探偵たちは、夏休みを利用して、一緒に海岸の別荘へとバカンスに出かける。

彼らの家族や親族などが参加して、旅行はとても賑やかなものになるが、エーミールの心は明るくなかった。

シングルマザーのお母さんに再婚話が持ち上がっていたのだ。

「人生に、ものすごくつらいことは、つきものさ。おれたちには、どうしようもない。でも、なんたって、おまえがつらいほうが、おまえの母さんがつらいより、ましだろ?」「もちろんね。でも、自分がふたりいるような気がする。なにもかもお見通しで、これでいいんだって、うなずいてる自分と、目をつぶって、声を出さないように泣いてる自分と。わかる?」(ケストナー「エーミールと三人のふたご」)

自分の気持ちを悟られまいと、エーミールは夏の旅に出かけてきたのだが、長年に渡って築かれてきた母との絆が壊れてしまいそうで、エーミールは心穏やかではなかった。

やがて、大人たちは少年たちを残して、デンマークまで足を伸ばすことになる。

エーミールと教授とグスタフの三人には、自立のための時間が与えれらたのだが、旅先で知り合った少年のピンチを知って、少年たちの勇敢な活動が始まった。

かつて、仲間たちの絆によって泥棒をつかまえた、あの頃のように。

夏休みの冒険と少年たちの成長

この物語の主題は、三人の少年たちの自立と成長である。

間もなく、それぞれの進路を考えなければならない少年たちは、大学へ進学すべきか、あるいは、どんな職業に就くべきかということで、それぞれの葛藤を抱えている。

加えて、エーミールには母親の再婚という非常に大きな問題が目の前にあった。

結局、彼らは、そうした人生の問題を、自分自身の手で解決していかなければいけないということに気づく。

自分はすすんで大きな犠牲をはらっているのに、それはおくびにも出さないで、ひとの犠牲をありがたく受け入れるのは、簡単なことではないわ。そんなこと、だあれも知らないし、だあれもほめてくれない。でも、いつかはきっと、そのおかげでしあわせになる。それが、たったひとつのごほうびだわね。(ケストナー「エーミールと三人のふたご」)

物憂げなエーミールの様子に気づいていたのは、おばあさん(エーミールのお母さんの母親)一人なのだが、おばあさんは、最後の決断をエーミール自身に託す。

そして、お母さんと離れたくない気持ちを押し殺して、母親の再婚を祝うことに決めとき、エーミールはまた少し大人へと成長していた。

もちろん、この物語は、旅先で置き去りにされた少年ジャッキーの危機を救ったり、ヤシの小島で遭難したりと、ハラハラさせてくれるたくさんのエピソードが次々と登場するから、夏休みのアドベンチャー小説として、お薦めであることは言うまでもない。

田舎の避暑地に映画版『エーミールと探偵たち』がやって来て、エーミールに憧れるたくさんの子どもたちが、力を合わせてジャッキー少年のピンチを救うあたり、児童文学のメタフィクションとして、非常に優れた構成の作品と言えるだろう。

書名:エーミールと三人のふたご
著者:エーリヒ・ケストナー
訳者:池田香代子
発行:2000/7/18
出版社:岩波少年文庫

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やまはな文庫
元・進学塾講師(国語担当)。庄野潤三生誕100年を記念して、読書日記ブログを立ち上げました。いつか古本屋を開業する日のために、アンチトレンドな読書ライフを楽しんでいます。