村上春樹の世界

村上春樹がユニクロに語った安西水丸さんの思い出

村上春樹がユニクロに語った安西水丸さんの思い出

ユニクロが発行する「LifeWear magazine」第4号に、村上春樹のインタビューが掲載されている。

ユニクロの店頭にたくさん置いてあったので一冊もらってきた。

ここに書き留めておこう。

安西水丸さんのイラストが表紙になった

LifeWearは、あらゆる人の生活を、より豊かにするための服。美意識のある合理性を持ち、シンプルで上質、そして細部への工夫に満ちている。生活ニーズから考え抜かれ、進化し続ける普段着です。それは実際にどのような服であって、どのような考えのもとで作られているのかを伝えるために創刊されたのがLifeWear magazineです。

多くのアパレル・ブランドが、雑誌形式による情報発信に取り組んでいる。

単なる商品カタログではない、まさに、ライフスタイルを提案する姿勢を、より鮮明にしていると言えるし、アパレル・ブランドが無償で配布する冊子には、内容的にも上質のものが多い。

本書「Issue 04 2021 Spring & Summer」の表紙は、2014年に惜しまれつつもこの世を去ったイラストレーター、安西水丸さんの作品から編集部が選定したもの。

村上さんとも親交があり、「中国行きのスロウ・ボート」などの表紙イラストを手がけ、絵本「『ふわふわ」などの共著もある。

今回の村上さんのインタビューでは、水丸さんのエピソードも紹介されている。

『ティファニーで朝食を』のジョージ・ペパードとか、『動く標的』のポール・ニューマンを真似して

僕らが若い頃は、〈ヴァンヂャケット〉とかアイビーリーガースタイルが全盛だったので、当時のアメリカ映画で勉強しましたよね。『ティファニーで朝食を』のジョージ・ペパードとか、『動く標的』のポール・ニューマンを真似して、ツイードのジャケットにボタンダウンシャツにタイを締めたり。今はもう誰かの真似はしませんが。(「Interview with Haruki Murakami」)

ユニクロのインタビューなので、当然、ファッションについての話がある。

村上さんがアイビーファッションを好きだったことは、いろいろな文章の中に登場している。

ちなみに、「ダンス・ダンス・ダンス」の主人公は、オレンジのストライプのシャツの上に、カルヴァン・クラインのツイードのジャケットを着て、以前のガールフレンドがプレゼントしてくれたアルマーニのニット・タイを結んで、洗ったばかりのブルージーンズを履いて、買って間もない真っ白なヤマハのテニス・シューズを用意して、中学校の同級生、五反田君へ会いに行く。

それは、彼のワードロープの中でいちばんシックな格好で、映画俳優と一緒に食事をしたことのない彼には、どんな服を着ていけばいいのか、全然分からなかったけれど、中学ぶりに再会した五反田君は、「シックだね」と言ってくれる。

もっとも、そんな彼は、ごく普通のVネックのセーターの上に紺のウィンドブレーカーを羽織り、くたびれたクリーム色のコーデュロイのパンツに、色褪せたアシックスのジョギング・シューズを履いていてという、極めて普通のスタイルだった(五反田君が着こなすと、とても上品に見えたけど)。

あのね村上くん、女の人にチークダンスを誘われたのに踊らないなんて失礼だよ

昔、青山にクラブ風の店がありまして、あの人(安西水丸さん)に連れられて行ったことがあるんです。何人かのホステスの女の人がいたんですけど、そのうちのひとりがチークダンスを踊ろうって僕に言うんですよ。僕は嫌だって断ったら、安西さんは「あのね村上くん、女の人にチークダンスを誘われたのに踊らないなんて失礼だよ」って怒るんですよ。だから、しょうがねぇなぁと思って、一曲踊ったんです。そしたら翌日、あの人は「村上はチークダンスを女と踊ってた」って周りに言いふらしていたんだよ。本当にひどい奴だよ(笑)。

村上朝日堂シリーズのファンにとって、安西水丸さんのエピソードは、とてもうれしい話だ。

村上さんも、こんなふうに水丸さんの話をしているときが、一番村上さんらしく感じてしまう。

村上さんのエッセイでも、水丸さんが登場する場面は、思わず胸がワクワクする。

本当に仲良しだったんだろうなあ、この二人は。

日本の作家という看板を背負って生きていかなきゃいけなかったりする

昔はひとりで好きなことをしてればいいやって感じだったけど、ある程度の年齢になって社会的なポジションができてきて、それなりの責任を果たさなくてはいけないという気持ちが出てきたんです。特に僕は外国に長く暮らしてたんで、そうすると僕がいくら個人的な人間で、周りは関係ないと言っても、日本の作家という看板を背負って生きていかなきゃいけなかったりする。だんだんそういう覚悟をしなければいけないんだなと思ってきたことも、このライブラリーを作る動機ですね。

2021年の秋に開館予定の「早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)」の開館についてのコメント。

村上さんも「日本の作家という看板を背負って生きていかなきゃいけなかったりする」なんていう言葉を口にするようになったんだなあ、、、

書名:LifeWear magazine Issue 04 2021 Spring & Summer
発行:2021/2/19
出版社:株式会社ユニクロ

ABOUT ME
やまはな文庫
元・進学塾講師(国語担当)。庄野潤三生誕100年を記念して、読書日記ブログを立ち上げました。いつか古本屋を開業する日のために、アンチトレンドな読書ライフを楽しんでいます。