読書感想文

渡部さとる「旅するカメラ」ヴィトンのライカ!? 温かい写真コラム

カメラを持って街に出よう。

写真を旅を楽しくしてくれるし、カメラがあればいつもの散歩も旅になる。

プロカメラマンが綴る、あたたかい写真コラム集。

書名:旅するカメラ
著者:渡部さとる
発行:2003/10/20
出版社:枻文庫

作品紹介

「旅するカメラ」は写真家の渡部さとるさんが書いたカメラや写真に関するコラム集です。

初出は、渡部さんのウェブサイト「studio monochrome on the web」に掲載されたもので、2年間に書かれた100本近い文章の中から24本が厳選収録されています。

studio monochrome on the web
http://www.satorw.com/

テーマは「カメラ」あるいは「写真」に関するもので、プロカメラマンとしての経験談から個人的な思い出まで、非常に幅広い内容で構成されています。

渡部さんが撮影した写真も豊富に収録されていて、「コラム写真集」と呼ぶこともできそうです。

渡部さんの「旅するカメラ」はシリーズ化されて、2011年の「旅するカメラ4」まで4冊が出版されていますが、本書はその最初の作品ということになります。

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なれそめ

僕はカメラが大好きです。

もう少し正確に言うとフィルムカメラが大好き。

さらにもっと正確に言うと古いフィルムカメラが大好き。

そんなに高価でも貴重でもないような古いフィルムカメラを買ってきては、街でスナップ写真を撮影し、自宅の洗面台を暗室代わりにしてフィルム現像まで楽しんでいます。

あくまで暇つぶしの趣味と割り切って、あれこれ面倒くさいことにこだわらなければ、フィルム写真も意外と週末の身近な楽しみになると思います。

より深く写真を理解するために、いろいろな本を読みました。

これまでにいろいろな趣味と出会ってきたけれど、僕の師匠はいつでも本です。

好きなときに好きな本を読んで理解を深める。

多少の誤解や間違いは全然ノープロブレムで(適当か)。

渡部さとるさんの「旅するカメラ」シリーズも、僕の写真の教科書となってくれました。

本の壺

「旅するカメラ」は、いろいろな視点の話が登場します。

カメラに注目する

カメラ好きの人は、やっぱりカメラの話に関心が高いようです。

本書でも気になるカメラの話がたくさん登場します。

なにしろ、いちばん最初のコラムは「ライカ」の話。

やっぱりそうきましたか。

写真と言えば「ライカ」、カメラといえば「ライカ」。

渡部さんも、「最初は魅力が理解できなかった」というライカですが、「M3」と「ズマロン35ミリF3.5」を手に入れてからは、すっかりとその魔力に憑りつかれてしまったようです。

元アシスタントの女性カメラマンが買った「ライカⅢc」は「ルイ・ヴィトン」。

もちろん、そんなカメラがあるはずもなく、誰かがライカのボディ革にヴィトンのシグネチャーレザーを張りつけたと思われる代物でしたが、銀座「レモン社」で18万円のプライスタグをつけていたそうです。

隣に「エルメス」の「ライカM3」があったというのも興味深いなあ。

当時の渡部さんが入手したいと考えているカメラが「ベビーローライ」。

ローライフレックスのミニチュアモデルですが、当時既に入手困難だったらしく、銀座「レモン社」で購入した委託品は動作不具合で返品する羽目になってしまい、中古カメラの難しさを物語っています。

「旅するカメラ」を呼んで欲しくなって実際に僕が買ったカメラが「オリンパス OM-1」です。

同世代のカメラマンに、手に入れたオリンパスOM-1Nを見せると、皆なつかしそうに目を細める。彼らの多くが最初に買ったカメラはOM-1だった。20年ぶりに見るOM-1に、写真を始めたころの自分をだぶらせているようだ。そういう僕も、OM-1がすべての始まりだった。(「渡部さとる「旅するカメラ」より」)

カメラマンの仕事に注目する

渡部さんはプロのカメラマンなので、「旅するカメラ」にはプロならではのエピソードがたくさん登場します。

スタジオのタレント撮影でピント合わせに失敗した話を読むと、プロ歴18年のカメラマンにも、そんな失敗があるのかと感心するとともに、普段は何気なく読み捨てている雑誌のグラビア写真にも、業界の様々な悲喜こもごもがあるんだなあと、しみじみとしてしまう。

「旅するカメラ」で多いのが、カメラマンになったばかりの頃や独立したばかりの頃を回想する思い出話

新聞社のカメラマンになったばかりの頃の失敗談や、独立して初めてスタジオ撮影した頃はライティングの知識が全然なかったこと、海外ロケで露出メーターが故障して動転しまくった話、独立したときの売り込み文句が「動いているものにピントを合わせることができる」ということだったこと。

素人が趣味で写真を楽しむ上でも参考となるエピソードがたくさんあります。

渡部さんの話でいちばん技術的に役立ったのは露出の話。

古いフィルムカメラの場合、自分で絞りとシャッタースピードを調節して露出を設定しなければなりませんが、露出メーターを使わずに露出を決めるのは、かなり高度なテクニックです。

ちなみによく晴れた日の光の露出はISO400の場合、シャッタースピードが250分の1秒、絞りはF16と半だ。日中はこの露出から被写体の反射の仕方で増減をかける、ピーカンのときの露出は世界中どこへ行ってもたいした変わりはない。東京も赤道直下も同じだ。日陰に入るとふた絞り開け、影がなくなると3段半開ける。夕暮れどきは60分の1秒で絞りはF5.6。こんな単純な覚えかたで十分だ。(渡部さとる「旅するカメラ」より)。

「ピーカンのときの露出は世界中どこへ行っても同じ」という渡部さんの言葉、今でも好きです。

旅に注目する

本書は「旅するカメラ」なので、カメラが旅をしています。

写真を撮るために旅に行くこともあれば、カメラがあるから旅が楽しいということもある。

「ウィリアム・クライン」「森山大道」「田中長徳」のオリジナルプリントを持っているのが僕の自慢だ。偶然にもその3人がモチーフに選んでいるのがニューヨーク。壁に飾ったプリントを見ているうちに、ここに「渡部さとる」のニューヨークを並べてみたくなった。(渡部さとる「旅するカメラ」より)

それはきっと「偶然」ではなくて、渡部さんはやっぱりニューヨークが好きだっていうことなんですよね、おそらく。

「旅」は遠い国へ出かけることだけを言うのではありません。

渡部さんは学生時代に過ごした街が変貌しつつあることを察知して、東京に残る昔ながらの街並みをスナップして歩くようになります。

20歳のころならもっとワイドなレンズを選んだだろうが、30歳も半ばになると視覚がだんだん狭くなる。写真家・高梨豊のいうところの「焦点距離年齢説」である。要するに年齢が20歳ならレンズは20ミリ。35歳なら35ミリ。50歳になったら50ミリが生理的にピッタリくるという経験論だ。(渡部さとる「旅するカメラ」より)

そんな感じで東京の街を撮り歩く渡部さんの文章は、とても生き生きとしている感じが伝わってきます。

カメラを持って街に出れば、それがもう「旅」ということなんですね、きっと。

読書感想

「旅するカメラ」は写真コラム集ですが、七面倒くさい技術的な話がほとんどありません(せいぜい露出の話くらい)。

さらに、カメラおたくが喜びそうなマニアックなカメラ談義もありません。

テクニック論もカメラ談義もほどほどに抑制されていて、さりげなく紹介されているのが、本書の特徴だと思います。

それは「カメラや写真に興味があるけれど難しそうだな、でもちょっと挑戦してみたいな」と思いながら、チラチラこっちを見ている素人の人たちに、「カメラって全然難しくないよ、写真って本当に楽しいよ」と、温かい笑顔で話しかけてくれているような、そんなコラム。

ずぶの素人の僕がこの本を読んで面白いと思ったのは、素人にも理解しやすいように分かりやすい文章で書かれているからだと思います。

難しい専門用語を連発するようなカメラ本だったら、きっと途中で読むのをやめていますから(笑)

それでいて、プロカメラマンならではのエピソードも豊富だからこそ、コラム集として深みのある本に仕上がっているんでしょうね。

フィルムカメラを始めたばかりの人は要注意です。

泥沼にはまりますよ。

まとめ

親しみやすい文章と優しい人柄が伝わってくる写真とコラムの数々。

フィルムカメラ好きな人にお勧めしたい。

読んでいるだけでカメラ持って旅に出ているような気持ちになれそうです。

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じゅん
庄野潤三生誕100年を記念して、読書ブログを立ち上げました。村上春樹さんと庄野潤三さんの作品をゆるゆる楽しんでいます。