庄野潤三の世界

庄野潤三「せきれい」盟友・小沼丹の死を悼む場面が切ない

庄野潤三「せきれい」あらすじと感想と考察
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小学館の「P+D BOOKS」第七十九回(1月13日)配本&配信予定ラインナップに、庄野潤三の「せきれい」が入っている。

小学館の「P+D BOOKS」第七十九回(1月13日)配本&配信予定ラインナップ小学館の「P+D BOOKS」第七十九回(1月13日)配本&配信予定ラインナップ

これで、2022年にも庄野さんの新刊が出るということになるので、むやみにうれしい。

庄野さんの作品が、小学館 P+D BOOKS から出るのは、「前途」「水の都」「エイヴォン記」「鉛筆印のトレーナー」「さくらんぼジャム」「貝がらと海の音」に続いて7作品目になる。

「エイヴォン記」「鉛筆印のトレーナー」「さくらんぼジャム」のフーちゃん三部作に続いて、夫婦の晩年シリーズの「貝がらと海の音」が出ていたが、次に出るのは、夫婦の晩年シリーズ三作目の「せきれい」となる。

シリーズ二作目の「ピアノの音」は、講談社文芸文庫に入っているので、意図的に飛ばされたものだろう。

「せきれい」も、当時は文春文庫に入っていたが、現在は古本でもなかなか入手しにくい状況だったから、今回のP+D BOOKS刊行はとてもうれしいことだと思う。

夫婦の晩年シリーズは、シリーズの順番に読んでも楽しいし、気が向いたときに気が向いた作品の気が向いたページだけを読んでも楽しい。

ほとんど日記のような体裁になっているから、季節に合わせて読んでいく楽しみもある。

例えば、「せきれい」の第六章は年末年始にかけての話なので、今の季節にぴったり。

クリスマス、成城住友の窓口で庄野家を担当してくれている松本由美子さんからクリスマスカードが届いた。

カードには、庄野さんの『貝がらと海の音』を買って読んでいることなどが書かれていた。

元旦には、恒例の一族揃っての新年会がある。

五時すぎ、みんな席に着き、私の、「皆さん、明けましておめでとうございます」の声で開宴。男はビールで乾杯。おせちの皿のほかにプチトマトとブロッコリーの皿、黒豆となますの大鉢、神戸のローストビーフの大皿とパン、益膳のうな重が並ぶ。このローストビーフをパンに挟んで食べる。おいしい。私はお酒に移ってから、うな重を食べる。これが新年会のたのしみ。(庄野潤三「せきれい」)

「せきれい」では食事の描写が非常に具体的だが、「作中に食べ物の話がよく出て来る。これは主人公の夫婦が食べるのが好きであることに注目した編集長の庄野音比古さんのヒントによる」と、あとがきに書かれている。

普通の日本人の日常生活の中に、季節感が美しく描かれているのが、庄野さんの作品の特徴と言うことができるだろう。

盟友・小沼丹の死を悼む

老夫婦の日常を綴った「せきれい」の中には、文壇史上の大きな出来事が含まれている。

庄野さんの盟友でもあった、小沼丹の死だ。

悲しき知らせ(九日)。夕方、吉岡達夫から電話かかり、「小沼が昨日のお昼、十二時半に病院で肺炎で亡くなった。家族だけで葬儀をすませて、小沼はもうお骨になって家に帰った。さっき、奥さんから電話があった」という。(庄野潤三「せきれい」)

小説家・小沼丹が亡くなったのは、1996年(平成8年)11月8日だから、これで、この小説が、1996年から1997年にかけての庄野潤三の生活を題材にしたものだということが分かる。

当時、小沼丹は78歳、庄野さんよりも三つ年上の先輩だった。

この後、庄野さんは、阪田寛夫と一緒に「くろがね」で、小沼さんの追悼の会を開いている。

小沼丹に師事した大島一彦さんのエッセイにも登場しているが、「くろがね」は庄野さんと小沼さんがこよなく愛したお店だった。

書名:せきれい
著者:庄野潤三
発行:1998/4/10
出版社:文藝春秋

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じゅん
庄野潤三生誕100年を記念して、読書日記ブログを立ち上げました。庄野潤三さんの作品を中心に、読書の沼をゆるゆると楽しんでいます。