いろいろの世界

野田知佑「のんびり行こうぜ」カヌー犬ガク初登場のアウトドアエッセイ集

「人間らしい暮らし」は川の上にある?

日本で最も有名なカヌーイストが綴る、カヌーと暮らしのエッセイ集。

日本初のカヌー犬となる「犬ガク」初登場!

書名:のんびり行こうぜ
著者:野田知佑
発行:1990/2/25
出版社:新潮文庫

作品紹介

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「のんびり行こうぜ」は、カヌーイスト・野田知佑さんによるカヌーと暮らしを綴ったエッセイ集です。

初出は、アウトドア雑誌「BE-PAL」(小学館)連載で、単行本も1986年(昭和61年)に小学館「Be-pal books」から刊行されています(新潮文庫版は1990年刊)。

1984年秋から1986年冬までの日々の暮らしが日記のように綴られています。

「BE-PAL」連載エッセイ集のひとつで「川を下って都会の中へ」「ガリバーが行く」「小ブネ漕ぎしこの川」「北の川から」「南の川まで」と続くシリーズの第1弾でした。

1990年代に巻き起こるカヌーブームを導いた名著。

なれそめ

僕がアウトドアにハマった理由のひとつが、野田知佑さんのエッセイ集でした。

とにかく都会を離れて田舎暮らしをしたいとばかり考えていて、週末になると、キャンプ道具を積んで山や川や海へと逃避していた頃のことです。

本を読むのも林間のキャンプ場でマクラーレンのガダバウトチェア(現在は廃番)に座ってという具合で、年間で100泊くらいはキャンプ暮らしをしていたような気がします。

アウトドア雑誌「BE-PAL」に連載されていた野田さんのエッセイは、当時、アウトドアズマンを志す若者たちのバイブル的な存在でした。

もともと英語教師だったという野田さんの文章からは、そこはかとなくアメリカ文学の匂いが漂っていて、だからといって別に難解な部分もなく、読者を引き込ませる魅力に溢れた文章。

そして、野田さんの日々の暮らしの中に登場する個性的な仲間たちが、このエッセイ集を盛り上げるのに大きな役割を担っています。

野田さんのカヌー日記は、その後も続きますが、タイトル・内容ともに「のんび行こうぜ」はその最高峰だと、今も僕は考えています。

あらすじ

千葉県の亀山湖のほとりに住み、カヌーを漕ぎ、湖に潜り、魚を獲り、捕まえた魚は食べ、夜は酒を飲んで眠る。余分なものを削り取った暮しの中で、季節ごとにその姿を変える亀山湖を見つめ、椎名誠ら、訪れる友人たちと交わり、そして川が削られ、湖が汚されていくことに怒る―1984年の秋から1年半の生活をカヌーイストにしてエッセイストの野田知佑が綴ったエッセイ。 (背表紙の紹介文より)

本の壺

心に残ったせりふ、気になったシーン、好きな登場人物など、本の「壺」だと感じた部分を、3つだけご紹介します。

犬の名前はガク

十月初旬、千曲川で二泊三日のツーリングをした。八ヶ岳でペンションをやっている友人の加藤とその息子、亮(七歳)とこれもペンションのオーナーであるランボーさん。ぼくの小学校の同級生の奥田と生後一ヶ月半の柴犬の雑種犬というパーティ。犬の名前はガク。コロコロして手足が太い少年とよく似ているので、彼の名をつけた。(野田知佑『のんびり行こうぜ』)

野田知佑とともに全国的に有名になったのが、日本初のカヌー犬「ガク」でした。

野田さんの『のんびり行こうぜ』は、生まれて間もないガクの登場とともに始まります。

「この犬はいずれ、日本初めてのカヌー犬として仕込み、川を下る時はいつも連れて行こうと思っている」と野田さんの構想にあるとおり、ガクは日本初のカヌー犬として有名になります。

「コロコロして手足が太い少年」とは、もちろん椎名誠さんの息子で『岳物語』の主人公でもある椎名岳少年のことです。

なお、『岳物語』については、別記事「椎名誠「岳物語」親子であり、友人同士でもあった、二人の男たち」で紹介しているので、併せてご覧ください。

椎名誠「岳物語」親子であり、友人同士でもあった、二人の男たち
椎名誠「岳物語」親子であり、友人同士でもあった、二人の男たち彼の名は岳(がく)。椎名誠の息子である。 椎名誠よりもシーナ的といわれている。 これは、ショーネン・岳がまだ父親を見棄てていない頃の...

“キャッチ・アンド・塩焼き” これがぼくのブラックバスに対する基本姿勢だ

この頃こういったおちょぼ口をした自称アウトドアズ・マンが多くて目ざわりである。十数年前、アメリカからルアー・フィッシングを持ってきた時、日本人はルアー釣りの合理性や面白さよりも、それに付録としてついていたカッコ良さと偽善性をより多く取り入れてしまった。(野田知佑『のんびり行こうぜ』)

野田さんは非常に主義主張のはっきりとした大人でした。

自然破壊やダム建設が嫌いで、偽善的なキャッチ・アンド・リリースが嫌い。

「”キャッチ・アンド・塩焼き” これがぼくのブラックバスに対する基本姿勢だ」ともあるとおり、野田さんは釣り人の偽善的な行為を徹底的に嫌い抜きました。

「キャッチ・アンド・リリース」を提唱する釣り人のロジックには十分ではないところも多く、その中途半端な言動が野田さんの逆鱗に触れていたような気がします。

その頃は「キャッチ・アンド・リリース」を、まるで「自然保護活動」のように唱える釣り人が多かったので、本物の自然保護活動を実践している野田さんには、じれったく思えていたのではないでしょうか。

九十九パーセント君は死ぬだろうが、それは君の問題だからね

「もしぼくがこれからグリーンランドまで行くといったらどうする?」「ぼくの持ってる北極海の情報を全部君に与えて、グッドラックという。それだけだ。九十九パーセント君は死ぬだろうが、それは君の問題だからね」(野田知佑『のんびり行こうぜ』)

『のんびり行こうぜ』には「野田イズム」とも呼ぶべきイデオロギーが随所に満ち溢れている名著ですが、「川下りで死ぬ自由」も、野田さんが提唱するアウトドア哲学のひとつでした。

「われわれは危険を承知で川を下る。だから死ぬときは「納得ーッ」と叫んで死ぬのである。『川下りで死ぬ自由』くらいはあってもいい」というのが、野田さんの一貫した生き方でした。

危ないことは何でもかんでも中止にされてしまう当時の風潮を、野田さんは「まるで子どものようだ」と糾弾し、自立した大人として生きることの大切さを、カヌーを通して説きました。

考えてみると、あの頃の野田さんは、いろいろなことに怒り、苛立ち、文句を言っていたような気がしますが、その怒りは、ボーっと生きている日本人への焦りだったのかもしれませんね。

読書感想こらむ

野田さんのエッセイは、ただのエッセイではない。

ページを繰るごとに、ハッとさせられる哲学的な名言が随所に散りばめられている。

しかも、それが説教じみているわけではなくて、押しつけがましいわけでもない。

一人の大人として自分の主張を淡々と述べながら「何か文句でもあるの?」とまったく先方の反応を気にもかけないスタイルが野田さん流だった。

つまらないことを言う連中を「馬鹿め」と一刀両断に切り捨てる。

あまりに歯切れの良い文章が人気を博していたので、アウトドア雑誌「アウトドア」では野田さんの人生相談なる連載が始まったくらいだったけれど、読者からのつまらない相談にも「君は馬鹿か」を連発し、あまりにくだらない人生相談ばかりなので、とうとう連載をやめてしまったらしい。

僕は「自立した大人」という言葉の意味を、野田さんの生き方から学んだような気がする。

そういう意味で『のんびり行こうぜ』は、今も僕の人生の教科書である。

野田さんに「馬鹿め」と言われるような大人にだけはなりたくないから。

まとめ

カヌーを通して語られる野田さんの人生哲学。

自由に生きるということの意味を、野田さんが教えてくれた。

アウトドアへ出る前に読んでおきたい名作。

著者紹介

野田知佑(カヌーイスト)

1938年(昭和13年)、熊本県生まれ。

カヌーを暮らしをテーマにしたエッセイで、日本ノンフィクション賞・新人賞や毎日スポーツ人賞文化賞などを受賞している。

『のんびり行こうぜ』刊行時は、48歳だった。

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じゅん
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庄野潤三生誕100年を記念して、読書ブログを立ち上げました。村上春樹さんと庄野潤三さんの作品をゆるゆる楽しんでいます。