読書感想文

三品輝起「すべての雑貨」雑貨業界が抱える自己矛盾と自己批判

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日本中に雑貨関係の書籍が溢れかえるようになったのは、一体いつのことだっただろうか。

日常生活の様々な場面に「雑貨的」なものが登場し、もはや「雑貨」という言葉そのものが、「豊かな暮らし」とともに、オシャレで洗練されたライフスタイルを代弁する言葉となってしまった。

本書「すべての雑貨」の著者は、そんな雑貨を提供する雑貨店店主であり、多様な商品を供給する側の立場から、日本中に溢れかえる「雑貨」について論じている。

著者は「世界がじわじわと雑貨化している気がする」と指摘しながら、自分が生きる雑貨の世界が刻一刻と膨張し続けている現状を憂い、そのはかなくも幻想的な繁栄の歴史を、やや感傷的に振り返ってみせる。

一般書店の雑貨コーナーに平積みされている書籍のほとんどは、心地良くて豊かな暮らしを彩るアイテムを紹介するためのカタログ的なものであるのに対して、「すべての雑貨」の中には、「シンプルで豊かな暮らし」も「雑貨店を始めるためのマニュアル」も登場しない。

そこに書かれているのは、雑貨業界が抱える自己矛盾であり、雑貨業界に関わる一人のプロフェッショナルとしての自己批判である。

これまで「雑貨」とは呼ばれていなかったあらゆる物が、次々に「雑貨」と呼ばれる商品となり、今や、人々が雑貨だと思えば、何もかもが雑貨の仲間入りをする時代となった。

そんな「雑貨社会」の構築を後押ししてきたのが、日本の巨大な雑貨マーケットであり、著者もその大きな枠組みの中で商いをして利潤を追求する一人の商人なのだ。

MUJI BOOKSは効果的なディスプレイ

今回の改装の目玉は、二万冊の本の導入であった。長いエスカレーターをのぼった二階のメインフロアには、商品棚のあいだをぬうように縦横無尽に無垢材の書棚が配されていた。レジを見るかぎり本を買っているひとはほとんどおらず、売上はあまりないはずなのに、なんでそんなに本をどっさりおくのか。(「これは本ではない」)

2015年にリニューアルした有楽町の無印良品には、巨大な書籍コーナーが誕生した.

有楽町無印は、2019年に銀座へと移転したが、「ずっといい言葉」とともに本のある暮らしを提案する「MUJI BOOKS」は、銀座無印においても素晴らしい充実ぶりを見せつけている。

無印良品における書籍コーナー充実の目的について、著者は「同社が提案するライフスタイルをより深い広がりをもって想像させるねらいがある」と指摘する。

無印良品的世界観を一層高めるためのディスプレイとして、書籍コーナーは間接的にも有効な投資であり、書籍を販売することそのものが目的ではないと、著者は考えているのだ。

著者の言うとおりに「商業施設の内装において、本をディスプレイ的にあつかうという手法は一般化しつつある」のだとしたら、書籍は、むしろ雑貨的な感覚を有するアイテムとして、存在意義を見出していくのかもしれない。

ムーミン雑貨にムーミン哲学は必要ない

ためしにアマゾンの検索バーに「ムーミン」といれてみると、もはや物語は忘れられ雑貨のキャラクターとしてしか認識されなくなっていることがわかる。彼らはもともと、戦中に執筆された不穏な童話にひょっこり顔をだし、その後、四半世紀にわたって書きつらねられたムーミン・サーガのなかで、言葉とともに生きてきたはずなのに。それは九冊の文庫本として残されているが、ムーミン雑貨を愛することと小説全巻を通読することは、あまり関係ないのかもしれない。(「十一月の谷」)

ムーミンが優れた児童文学を離れて、高い利益率を誇る優秀な雑貨キャラクターへと変身したのは、一体いつの頃からだっただろうか。

もはや、ムーミン物語を知らないで、ムーミン雑貨を愛することは当たり前であり、殊更にそのことを取り上げて声高に批判する意義さえ失われている時代だ。

真剣に雑貨を愛する著者は、そのような現実に雑貨業界の矛盾を見出し、不安を抱き、将来を憂いているのだろうか。

もとより、ムーミン雑貨には、ムーミン文学が有する哲学やメッセージ性が求められるはずもなく、「かわいいか、かいくないか」だけがすべてである。

そこに疑問を抱いた者は、雑貨マーケットの大きな枠組みの中から弾き出されるか、自己矛盾を抱えながら中途半端に生き続けていくだけだ。

余計なことを考えるなよ。

本書「すべての雑貨」は、雑貨周辺で生きている人々に対して、そんな言葉を語りかけているような気がする。

書名:すべての雑貨
著者:三品輝起
発行:2017/4/25
出版社:夏葉社

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じゅん
庄野潤三生誕100年を記念して、読書ブログを立ち上げました。村上春樹さんと庄野潤三さんの作品をゆるゆる楽しんでいます。