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中学生におすすめ!眉村卓「SFジュブナイル小説(学園もの)」名作10選

中学生におすすめ!眉村卓「SFジュブナイル小説(学園もの)」名作10選

1970年代から1980年代にかけて、中高生の間でSF小説が流行したそうです。

なかでも、薬師丸ひろ子主演で映画化された『ねらわれた学園』の作者・眉村卓の作品は、特に人気がありました。

今回は、SF作家・眉村卓の作品の中から、おすすめのジュブナイル小説をご紹介しましょう。

眉村卓って、どんな作家?

眉村卓は日本のSF作家です。

1934年 (昭和9年) に大阪府大阪市西成区で生まれ、大阪大学経済学部卒業後、1957年(昭和32年)、普通のサラリーマンとして就職します。

会社員として働きながら小説を書き始め、1961年(昭和36年)、「下級アイデアマン」が<第1回空想科学小説コンテスト>(のちの<ハヤカワ・SFコンテスト>)佳作第2席に入選して注目を集めます。

1963年(昭和38年)には会社員を辞めて執筆活動に専念するとともに、コピーライターとしての活動も開始しました。

元会社員だった経験を生かしたサラリーマン小説で人気を得ますが、1970年代以降は、中学生や高校生を主人公としたジュブナイル小説が評判となり、多くの名作を残しました。

晩年の2011年には、がんで亡くなった妻に捧げたショートショート作品が『僕と妻の1778の物語』として映画化され、大きな話題を呼びました。

2019年、85歳で逝去。

代表作『ねらわれた学園』『なぞの転校生』などは、青い鳥文庫(講談社)から復刻されています。

ジュブナイル小説とは何か?

眉村卓の代表作となっている作品の多くは「ジュブナイル小説」でした。

「ジュブナイル小説」とは、中高生を対象とした小説のことで、1970年代から1980年代にかけて一般的に使われていた言葉です。

大きな特徴として「中学生や高校生が主人公である」「物語の舞台が学校である」「異性のパートナーが登場する」など、読者層である中高生の共感を得られやすい設定となっていることがあります。

そのため「学園もの」とも呼ばれ、ジャンルによっては「学園ミステリー」などという言い方もあったようです。

「ライトノベル」という言葉が定着するとともに、「ジュブナイル小説」という言葉も徐々に使われなくなりました。

ある意味「ジュブナイル小説」は、1980年代の遺産と言うことができるかもしれませんね。

ここからは、SFジュブナイル小説の人気作家・眉村卓の作品を、おすすめ順に紹介していきたいと思います。

気になる作品があったら、ぜひ読んでみてくださいね。

天才はつくられる(1968年)

「天才になりたい!」

中高生の頃なら、誰しも一度はそんなことを考えたことがあるのではないでしょうか。

しかし、この物語に登場する「天才」には、怪しい謎がありました。

中学生が主人公の超能力ファンタジー。

恐るべき天才少年少女グループがあらわれた! 彼らはテレパシーを修得し、念力で自由に物を動かし、テストでも抜群の成績を修めている。が、彼らは、何か巨大な悪の企みを抱いているらしい……。ある日、ひょんなことから、ちょっぴり超能力を身につけた史郎にも、グループに入るように誘いがきた。そして、断った史郎に、彼らは命を取ると脅しをかけてきたのだ。史郎は、友人の敬子とともに、天才グループと断固闘う決意を固めたが……。スリルあふれる、学園SFサスペンスの傑作。「ぼくは呼ばない」を併録。(角川文庫)

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まぼろしのペンフレンド(1970年)

1974年と2001年にドラマ化されている、眉村卓の代表作品です。

「わたし、やっと人間の気持ちがつかめてきたような気がするの」

ガールフレンドとペンフレンド、二人の女の子の間で、少年は戦った。

中学生が主人公のSFファンタジー。

日常生活の隙間に潜む不安が感じられます。

誰にでもよくある<へんだな……?>と思う一瞬。それが実は、あなたを知らず知らずのうちに、とんでもない事件に引きずり込む前兆であったりするのです。ある日、中学一年の明彦に突然舞い込んだ、見知らぬ女の子からの奇妙な手紙——そこには下手な文章で、”あなたのすべてを詳しく教えて”と書かれ、一万円を同封してあった。好奇心に駆られた彼は、それがこれから日本全国を恐怖のどん底に落しいれる事件の前ぶれとも知らずに、返事を出したのだった。鬼才、眉村卓の描く、SFスリラーサスペンス。表題作他2篇収録。(角川文庫)

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なぞの転校生(1972年)

NHK総合でテレビドラマされた作品で、1998年には、新山千春主演で映画化もされています。

また、2014年にもテレビ東京でドラマ化されるなど、時代を超えて愛されている、眉村卓の代表作です。

「ねえ、理想の世界なんてものは、本当にあるんでしょうか?」

生きる場所を求めてさまよう、現代社会のジプシーたちとの出会いと別れ。

中学生が主人公の異次元ファンタジー。

核戦争への警鐘が感じられます。

中学二年生の広一君のクラスに転校してきた美しい少年。スポーツ万能、成績抜群、あっという間にクラスの人気を独占してしまった。だが時折り見せる彼の謎の部分——雨やジェット機の爆音への度はずれた恐怖、停電の時に手にしていた超能力のペンライト。そして突然悲痛な声で世界の終末を予言する……。クラス一同の深まる疑惑と不安の中で広一君が握った少年の秘密とは……? SF界の鬼才、眉村卓が描くジュニア小説の傑作。(角川文庫)

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ねじれた町(1974年)

「この町では、何があっても、びっくりしちゃいけないわ」

プロポーション抜群の女の子・千恵子が言った、謎の言葉。

この町は、普通の町なんかじゃない!

中学生が主人公の異空間ファンタジー。

そんな馬鹿な! 引っ越してきたQ市の迷い込んだ街角で行夫が見たのは、人力車に昔のポスト…、周囲にあるのは何十年も過去に遡ったような光景だった。それからこのQ市では、奇怪なことばかり起こった。以前、行夫が出したハガキが明治13年に投函されたことになっていたり、鬼・妖怪が出るという噂が拡がったり…。しかも奇怪なのは、この町の人々にとっては、それが日常茶飯事になっていることだった…。狂ったこの町で、行夫たちが体験する恐怖の世界。眉村SFジュブナイルの名作。(角川文庫)

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地獄の才能(1975年)

ガールフレンドの明子が変わり始めたのは、あのハンサムな転校生がやってきてからのことだった。

頭が良くて、スポーツ万能。

だけど、あいつには絶対に何かの秘密がある!

中学生が主人公の超能力ファンタジー。

助けて! だれか来て!…続けておきる子供の悲鳴——中学生の俊治が駆けつけてみると、野良犬の群れが子供たちを襲っている。しかもその群れは、訓練された軍隊のように統制がとれ、まるで人間なみの知能を持つ指揮者にひきいられているかのようであった。そんな折、ものすごすぎて、俊治たちには憎たらしい編入性がクラスに入ってきた。英語はペラペラ、スポーツ万能、まるでスーパーマンのような活躍で、あっという間にクラスのヒーローにのし上がってしまったのだ。が、ある日、俊治は、その編入性のそばに、子供たちを襲ったあの野良犬がいるのを見た……。恐るべき異能力を持つ集団との闘いを描く、SFスリラー!(角川文庫)

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ねらわれた学園(1976年)

1981年に薬師丸ひろ子主演で映画化された、眉村卓の代表作です。

「過去を変えなければ、われわれの世界は救われない」

理不尽な理屈で、現代社会の乗っ取りを企む侵略者たちとの闘い。

中学生が主人公のSFファンタジー。

侵略戦争への警鐘が感じられます。

もし、人や物を自由に動かすことができたら——誰しもが夢みる超能力。しかしそれが普通の人間に与えられていないことがどんなに幸福なことかは意外に知られていない……。ある日、おとなしかったはずの少女が突然、生徒会の会長選挙に立候補、鮮やかに当選してしまった。だが会長になった彼女は、魅惑の微笑と恐怖の超能力で学校を支配し始めた。美しい顔に隠された彼女の真の正体は? 平和な学園に訪れた戦慄の日々を描くスリラーの世界! 他に複製人間の恐怖を描いた「0からきた敵」を併録。(角川文庫)

閉ざされた時間割(1977年)

映像化はされていないようですが、人気のあった作品です。

「ここは……どこ? わたしは何をしていたの?」

宇宙からやってきた謎の円盤の目的は何か?

中学生が主人公の宇宙戦争ファンタジー。

この奇妙で恐るべき事件は、中学二年生の良平が珍しく勉強にうち込もうとしている夜に始まった。はじめ良平は、ベランダに映る無気味な人影を見た。そして翌日、彼のノートにはメモした覚えのないないことが書き込まれているのを発見。次には何故か夢遊病のように学内をふらつく先生と生徒を目撃……。いったい何が起きたのか? そして魔の手はついに、ガールフレンドや良平の家族にものびてきた! 人間の乗っ取りを企む借体生物との闘いを描くスリルあふれる眉村卓の傑作SFジュブナイル! 表題作ほか「押しかけ教師」等3篇収録。(角川文庫)

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深夜放送のハプニング(1977年)

1970年代、眉村卓はラジオ番組のパーソナリティも勤めています。

そのときの経験を生かして書かれた作品が「深夜放送のハプニング」でした。

主人公は人気イラストレーターですが、中高生が主要な登場人物として出てくるジュブナイル小説です。

SFというよりもミステリー仕掛けの連作短編小説です。

いつものように、人気イラストレーター島浦紀久夫によるDJ番組”ミッドナイト・ジャンプ”がオン・エアーされた——。しかし、その日不思議なリクエストカードが舞い込んでいた。「ぼくがだれだか、教えてください。ぼくには、自分がだれだか、わからないのです。ぼくは、自分が何歳で、何をしていたのか、まったく知りません……」と書かれていた。このカードを放送したことから、奇怪な事件が相次いで起ったのだった……。甦るミッドナイトSFミステリーの傑作! 同時収録「闇からのゆうわく」(角川文庫)

つくられた明日(1980年)

もしも、書店で購入した本の中に自分の未来が書かれていたとしたら、、、

最初は単なる占いだと考えていた主人公ですが、あまりも現実と合致する「予告」。

そして、突然、謎のサファリルックの男女グループが現れたところから、物語は異常な事態へと発展していきます、、、

“そんな馬鹿なことが……”手にした『未来予告』と題された本をめくるうちに、永山誠一は思わず声を出してしまった。そこには、”あなたは10月31日に重大な危機にされされます”とあり、11月1日以降は空白になっていたのだ。誠一は死を予告されたのだろうか? 奇怪な出来事は次々と起こりはじめていた。先生の交通事故——これは予告どうりだった。そして、続いて起きた友人の失踪に、サファリを着た怪盗団の暗躍。11月1日は、日一日と迫りつつあった! 眉村卓の描く、読み出したらやめられない、学園SFサスペンス!(深夜放送のサスペンス)

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とらえられたスクールバス(1981-1983)

角川文庫にして全3巻という、眉村ジュブナイルの最大長篇傑作。

1986年には『時空の旅人』として、アニメーションで映画化もされました。

未来からやって来た謎の少年アギノ・ジロ。

今やタイムマシンと化したスクールバスに乗って、少年少女たちは過去へと旅をした、、、

中学生が主人公の大長編タイム・スリップ・ファンタジー。

信じられないことが起こった! 得体の知れない少年が乗り込んできて、エンジンをかけた瞬間、信夫たちの乗ったスクールバスは、一気に終戦直後の混乱期にタイム・スリップしてしまったのだ。もう元の世界には戻れない! しかもその少年は、いずれ戦国時代を目指すというのだ。戦国時代などへ行けば、全員いつ殺されるかわからない。信夫たちの行く末には、いかなる試練が待っていることか…? 時間旅行に巻き込まれた少年少女たちのスリルあふれる冒険。(角川文庫)

眉村卓のSFジュブナイル小説の魅力

多くの名作を書き続けた眉村卓ですが、彼のジュブナイル小説の魅力とは、いったい、どんなものだったのでしょうか。

何より明らかなのは、最初に述べたように、読者が共感しやすい工夫が、巧妙に仕掛けられているということです。

主人公を始めとする登場人物は、読者層と同じ中高生(多くは中学生)。

特別な才能を持つわけでもなく、どこにでもいそうな普通の中学生が主人公だから、読者が感情移入しやすい設定となっています。

多くの作品で男の子が主人公ですが、主人公の少年と一緒に、仲良しの女の子が登場しますが、大抵は「友達以上・恋人未満」のようなガールフレンドという、微妙な設定が絶妙です。

学校生活の細かい描写があるところも、読者の感情移入を促しています。

例えば、『天才はつくられる』では、図書委員の少年が主人公ですが、作中では学校図書委員会の活動が、非常に細かく描かれています。

些細なところではありますが、こうした細部をしっかりと書き込むことで、眉村卓の作品にはリアリティが生み出されているのだと思います。

もうひとつの魅力として、主人公は中学生でありながら、自覚と責任を持った一人の人間として描かれているということがあります。

中学生は子供だから大人の意見に従って行動するということではなく、彼らは自分たちの信念と判断によって行動し、大人たちは、そんな彼らを信じて見守ります。

そんな子供と大人との距離感が、ちょうど良い感じだったのではないでしょうか。

眉村卓の作品はSF小説なので、SF的な仕掛けももちろん大きな魅力のひとつになっています。

テレパシーや念力などの超能力、異次元からの訪問者、タイムパトロール、宇宙からの侵略者、、、

奇想天外な展開が次々に起こりますが、意外にも荒唐無稽な印象を与えません。

物語がSF的な仕掛けに頼りすぎていないからです。

例えば、異次元からの訪問者が登場する作品は、「核戦争で生活空間を奪われた異次元の人々が、こっそりと紛れ込んでいる」という設定ですが、ストーリーに必然性があるので、読者は「そんなこともあるかもしれない」と納得してしまうのです(信じるとか信じないということではなくて)。

さらに、ジュブナイルのSF小説の中に、実は社会的なメッセージが織り込まれているところも、眉村文学の大きな魅力のひとつでした。

例えば、超名作『ねらわれた学園』の中に、主人公の父親のこんな台詞があります。

私にすれば、それは超能力であろうとなんであろうとかまわない。理不尽な力で、一見理屈に合っているようなことを押しつけてくるものならなんでもいいのだ。それは、いつの時代、そんな場合にでも、長い準備期間をかけてひそかに用意され、一挙にあらわれて、われわれを制圧する。そして、それが組織化されているものであるがゆえに、あと、長く、猛威をふるうのだ。

『ねらわれた学園』は、未来からの侵略者と戦う物語ですが、主人公の父が語っているのは、明らかに植民地支配を意図する他国からの侵略者のことです。

ロシアがウクライナへ侵略戦争を仕掛けたことと同じことが、『ねらわれた学園』の背景になっている。

そんな隠されたメッセージが、眉村卓作品の大きな魅力だったのではないでしょうか。

多くの作品が1970年代に書かれた古い小説ですが、時代を超えて読み継がれていくべき普遍性が、眉村卓のSFジュブナイル小説にはあるようです。

令和の時代の中高生にも、ぜひ読んでほしい作品群ですね。

まとめ

ということで、以上、今回は、1980年代の中高生に大人気だった、眉村卓のSFジュブナイル小説について、ご紹介しました。

眉村卓の代表作は、講談社の「青い鳥文庫」でも読むことができます(『ねらわれた学園』『なぞの転校生』『まぼろしのペンフレンド』『ねじれた町』の4作品)。

眉村卓デビューは、まず、このあたりからいかがでしょうか。

ABOUT ME
やまはな文庫
元・進学塾講師(国語担当)。庄野潤三生誕100年を記念して、読書日記ブログを立ち上げました。いつか古本屋を開業する日のために、アンチトレンドな読書ライフを楽しんでいます。