庄野潤三の世界

庄野潤三「孫の結婚式」穏やかな老後の生活と懐かしき仲間たちの記憶

庄野潤三「孫の結婚式」読了。

本作「孫の結婚式」は、2002年(平成14年)に刊行された、庄野潤三最後の随筆集である。

この年、著者は81歳だった。

庄野潤三最後の随筆集

久しぶりに庄野さんの本を読んだ。

最近は、いろいろな作家の作品を読んでいるから、ちょっと不安な部分はあったけれど、久しぶりに読む庄野さんの本は、やはり面白かった。

『孫の結婚式』は、庄野潤三最後の随筆集である。

『貝がらと海の音』や『うさぎのミミリー』などでお馴染みとなっている老夫婦の日常生活を綴ったものも良いが、かつての文学仲間に寄せる懐旧の文章には、ハッと胸を打たれるものがある。

例えば「小沼丹」は、生涯の盟友だった小沼丹を偲んだ作品。

「小説もいいし、随筆もいいという作家はそんなにいない」と前置きして、庄野さんは、井伏鱒二と小沼丹の名前を挙げている。

「小沼は小説もいいし、随筆もいい。特に随筆にいい作品が多い」と言った後で、「残念なことに小沼は先年亡くなったので、新しいものをもう読めなくなったのはさびしい」とあるのが切ない。

この随筆は、庄野さんの「寂しさ」が書かせた作品だろう。

随筆のことばかりとり上げたが、小沼の小説には、急な病気で亡くした奥さんのことを書いた「黒と白の猫」という傑作がある。講談社から刊行されて読売文学賞を受賞した『懐中時計』にのっている。ほかに文庫本でいま入手できる小沼の著作は、講談社文芸文庫の『小さな手袋』『懐中時計』『埴輪の馬』『椋鳥日記』があることをお知らせしておきたい。是非読んでほしい。(庄野潤三「小沼丹」)

亡くなった親友に対するリスペクトが感じられる随筆だと思う。

小沼丹と飲み歩いた頃の思い出

「なつかしい思い出」も、小沼丹について書かれた随筆である。

昔、小沢書店から全五巻の『小沼丹作品集』が出た。しっかりとした造本のいい作品集であった。完成したのが昭和五十五年九月。まだ小沼が若くて元気なころであった。完結のお祝いの会があって、少人数ながらこの作品の出版を心からよろこぶ人たちが出席したので、和かな、いい会となった。(庄野潤三「なつかしい思い出」)

この随筆の中で、庄野さんは、小沼さんと飲み歩いていた頃の思い出を綴っている。

また、小沼は私の飲み友達であった。ひところ、よく新宿のデパートの前で待合せて、地下に新しく出来たビアホールへ二人で入った。電話で時間をきめておいて、夕方、会う。ビアホールではいつも海老の串焼きというのをとって、生ビールを飲む。二人ともこの海老の串焼きが気に入っていた。(庄野潤三「なつかしい思い出」)

ビアホールの海老の串焼きは「鉄の串」という短篇小説にも出てくるし、同じく短篇の「秋風と二人の男」は、小沼さんと二人で飲みに出かけていた頃の話が描かれている。

庄野さんが、家族で海へ行った話などをすると、小沼さんはしばらく経って「ふうーん」と言ったという。

「少し間をおいて、「ふうーん」が出るところが感じがあった」という庄野さんのコメントは、いかにも懐かしい友だちを思い出している感じに溢れている。

昔読んだ本を回想する話では、「『エリア随筆』『丹下氏邸』」の中で、『エリア随筆』の話から、イギリスの随筆集の話になるところがいい。

ラムの『エリア随筆』を取り上げたら、ついでに書きとめておきたい本がある。本といっても、これは外語英語部の一年のときに、上田畊甫先生の授業で読んだ教科書である。『現代英国随筆選』。原題のイギリスで活躍した代表的なエッセイストの作品を集めたものである。残念なことにいま、私の手もとに残っていない。ガーディナーや、日本の子供に『クマのプーさん』の作者として親しまれているA・A・ミルンなどが入っていた。(庄野潤三「『エリア随筆』『丹下氏邸』」)

庄野さんの本を読むようになって以来、『現代英国随筆選』を探し続けているが、未だに未読。

庄野さんの随筆集は、知的好奇心を刺激してくれる、最良の教科書でもあった。

書名:孫の結婚式
著者:庄野潤三
発行:2002/9/20
出版社:講談社

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青いバナナ
アンチトレンドな文学マニア。推しは、庄野潤三と小沼丹、村上春樹、サリンジャーなど。ゴシップ大好き。