村上春樹の世界

村上春樹の作品に登場するクリスマス(小説・エッセイ・翻訳)

村上春樹の作品中に登場するクリスマスの場面を集めてみました。

小説やエッセイ、翻訳など、主に1980年代のものが中心となっています。

村上春樹「羊男のクリスマス」(1985)

いよいよクリスマス・イブがやってきた。羊男はドーナツ・ショップから穴の開いていないねじりドーナツをひとかかえ持ってきて、それをナップザックにつめた。これだけあればお弁当がわりになる。そして羊服の胸ポケットに財布と小型の懐中電灯を入れ、ファスナーをしめた。(村上春樹「羊男のクリスマス」)

「羊男のクリスマス」は、佐々木マキのイラスト付きで、村上春樹の文章を楽しむことができる、クリスマスの物語です。

聖羊祭日にドーナツを食べた呪いで、クリスマスソングを作曲することができなくなってしまった羊男は、事件を解決するために、ネジリドーナツを持って冒険に出かけます。

<208>と<209>の双子の女の子たちが登場したりと、80年代村上春樹ワールド満載。

ツイストドーナツを<ねじりドーナツ>と表現するだけで、一層美味しそうですね。なお、ツイストドーナツの発祥は中国だそうです。

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カポーティ「ティファニーで朝食を」(1958)

クリスマス・イブに彼女とマグはパーティーを催した。ホリーは僕に少し早く来てツリーの飾り付けを手伝ってくれないかと言った。どうやってそんな大きなツリーをアパートメントに運び込むことができたのか、いまだに謎である。ツリーのてっぺんは天井に当たって折れ曲がり、下の方の枝は壁から壁にまで達していた。(トルーマン・カポーティ「ティファニーで朝食を」村上春樹・訳)

トルーマン・カポーティの名作を村上春樹が翻訳したものです。

このとき、語り手の<僕>は、ティファニーで買った「聖クリストフォロスのメダル」を、ホリーにプレゼントします。

クリスマス小説ではないけれど、クリスマス・イブのシーンが印象的な作品ですね。

聖人クリストフォロスは旅行者の守護聖人なので、そのメダルは、旅人への贈り物として喜ばれたみたいですね。実際にティファニーでも製作されていたようです。

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チャンドラー「ロング・グッドバイ」(1953)

次に彼の姿を見かけたのは感謝祭の翌週だった。ハリウッド・ブールヴァードに沿って並んだ商店は、高い値札をつけられたろくでもないクリスマス商品であふれかえり始めていた。早いうちにクリスマスのショッピングを済ませておかないとひどいことになりますよと、新聞は日々わめきたてていた。(レイモンド・チャンドラー「ロング・グッドバイ」村上春樹・訳)

ハードボイルド・ミステリーの巨匠、レイモンド・チャンドラーの<私立探偵フィリップ・マーロウ>シリーズの最高傑作を、村上春樹が翻訳した作品です。

従前の訳では『長いお別れ』と訳されていました。

「ギムレットには早すぎるね」という有名な台詞が登場する作品です。

アメリカの感謝祭は、毎年11月の第4木曜日です。「感謝祭の翌週」ということは、ほぼ「12月の始め頃」ですが、随分、早い時期からクリスマス商戦が始まっていたんですね。

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サリンジャー「キャッチャー・イン・ザ・ライ」(1951)

月曜日で、クリスマスも間近に迫っていたし、店という店が開いていた。だからフィフス・アベニューを歩くのはなかなかいい気分だった。あたりはけっこうクリスマスっぽい雰囲気になっていたんだよ。やせこけたサンタクロースたちがあちこちの街角に立ってベルをじゃらじゃらと鳴らし、救世軍の女の子たちもまたベルを鳴らしていた。口紅なんてぜんぜんつけてない女の子たちだよ。(J.D.サリンジャー「キャッチャー・イン・ザ・ライ」村上春樹・訳)

サリンジャーの名作を、村上春樹が翻訳した作品です。

『ライ麦畑でつかまえて』というタイトルの方が有名ですね。

クリスマス・シーズンに家出をした、ニューヨークの少年の物語。

自分の価値観と社会の価値観とのズレが、この物語の大きなテーマとなっています。

「救世軍」は、キリスト教プロテスタントの慈善団体で、年末の<社会鍋>は、日本でも風物詩となっています。「The Salvation Army」を「救世軍」と訳したのは尾崎行雄。

ブライアン「偉大なるデスリフ」(1970)

「ねえ、クリスマスにニューヨークに戻ってきなよ。僕のところに泊ればいい。家族にも会えよ。そうしなよ、ぜったいに楽しいから」「そうしたいのは山々だけどね」とウォーカーは言った。(略)「でもな──ニューヨークは寒い。俺はもう二年もハワイにいるんだぜ。あの寒さに耐えられるかどうか」「しかしクリスマスのニューヨークは素敵だよ。デパートのウィンドゥやら、ロックフェラー・センター、うしろで手をくんでスケートしてるおじいさん、パーク・アヴェニューのクリスマス・ツリー……」(C.D.B.ブライアン「偉大なるデスリフ」村上春樹・訳)

フィッツジェラルドの『偉大なるギャツビー』へのオマージュとして知られる、C.D.B.ブライアンの『偉大なるデスリフ』を、村上春樹が翻訳した作品です。

邦訳版の初版(新潮社)は1987年(昭和62年)。

作品中にも、フィッツジェラルドの名前が、頻繁に登場しています。

フィッツジェラルドの作品が好きな人にお勧め。

ニューヨークのロックフェラー・センターに飾られるクリスマス・ツリーは、毎年、サンクスギビングデー(感謝祭)の翌週の水曜日に点灯されることで有名。

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村上春樹「八月のクリスマス」(1986)

そんなわけで、僕はこれまでずいぶん数多くの珍しいクリスマス・レコードを買い逃してきた。エラ・フィッツジェラルドの古いクリスマス・レコードも買い逃したし、ケニー・バレルのも買い逃した。どういうわけか、僕はいつもいつも夏のさなかに中古レコード店でちょっと珍しいクリスマス・レコードにめぐりあう羽目になるのだ。(村上春樹「八月のクリスマス」)

数ある村上春樹のエッセイの中でも、特別に愛着のある作品が、『ランゲルハンス島の午後』の中の「八月のクリスマス」。

いつも8月に珍しいクリスマス・レコードを見つけては買い逃してきたけれど、今年の夏はバーゲンでたっぷりとクリスマス・レコードを買いまくったというお話です。

8月のホノルルで10枚ものクリスマス・レコードを買って、お店の人から「メリー・クリスマス」を声をかけられたというエピソードが最高です(ネタかもしれないけれど)。

ちなみに、本作に登場するレコードは、フランク・シナトラやパティ・ペイジ、チェト・アトキンズなど。村上春樹的なクリスマスを過ごしたい人は、サブスクの配信で探してみてください。

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村上春樹「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」(1985)

「なかなかうまいじゃない」と彼女がほめてくれた。「拍手できなくて悪いけど、すごく良い唄ね」「ありがとう」と私は言った。「もう一曲唄って」と娘が催促した。それで私は『ホワイト・クリスマス』を唄った。──夢みるはホワイト・クリスマス──(村上春樹「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」)

村上春樹の長編小説『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』では、主人公の<私>が、「ホワイト・クリスマス」を歌うシーンが出てきます(「ハードボイルド・ワンダーランド」の方に)。

「世界の終り」は、雪の降る冬の描写がすごくいいです。

冬になると読みたくなる小説のひとつですね。

「ホワイト・クリスマス」は、ビング・クロスビーの定番曲として有名なクリスマス・ソングです。最初の録音は1942年(昭和17年)。

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カポーティ「クリスマスの思い出」(1956)

まずは豪勢な朝ごはん。思いつくかぎりのものが食卓に揃っている。ホットケーキ、リスのフライから、とうもろこしのグリッツ、とれたての蜂蜜まで。おかげでみんなは上機嫌になるが、僕と親友だけは違う。なにしろ僕らはプレゼントのところに早く行きたくて、それで頭がいっぱいで、ごはんなんてろくに喉を通らないのだ。(トルーマン・カポーティ「クリスマスの思い出」村上春樹・訳)

カポーティのイノセントなクリスマス物語を、村上春樹が翻訳しています。

もっとも、楽しみにしていたプレゼントは、靴下、日曜学校用のシャツ、何枚かのハンカチーフ、お下がりのセーター、子ども向け宗教雑誌の一年分の定期購読券、「幼き羊飼い」という絵本、などというものばかりで、語り手の<僕>は、すっかりとがっかりしてしまうのですが。

少年の日のクリスマスの思い出に。

「リスのフライ」って何かと思ったら「動物のリス肉のフライ」のことらしいです。龍口直太郎の翻訳でも「リスのフライ」となっていました。

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オールズバーグ「急行『北極号』」(1985)

汽車の中は子供たちでいっぱいだった。子供たちはみんなパジャマ姿、寝巻姿だ。僕らはクリスマス・キャロルを唄ったり、中にヌガーが入った雪みたいに真っ白なキャンディーを食べたりした。チョコレート・バーを溶かしたみたいにとろりと濃くて香ばしいココアも飲んだ。窓の外に目をやると、遠くの町や村の灯がちかちかとまたたくのが見えた。急行「北極号」は一路北へとひた走っていた。(C・V・オールズバーグ「急行『北極号』村上春樹・訳」)

クリス・ヴァン・オールズバーグの絵本『急行「北極号」』を、村上春樹が翻訳した作品です。

原題は『The  Polar Express』。

クリスマス・イブの夜、サンタクロースを待ち焦がれる少年の元に、謎の汽車がやってきます。

まるで、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』のように、幻想的な星空の旅──。

大人が読んでも楽しめる絵本ですよ。

『ポーラー・エクスプレス』は、2004年(平成16年)にフルアニメーションで映画化されました。監督は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のロバート・ゼメキス。

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カポーティ「あるクリスマス」(1982)

中庭は蝋燭で埋められていた。中庭に通じる三つの部屋も同様だった。客の大半は居間に集まっていた。居間の暖炉で穏やかに燃える炎がクリスマス・ツリーをきらめかせていた。でも手巻き式のヴィクトローラーにあわせて音楽室や中庭でダンスをしている人たちも数多くいた。(トルーマン・カポーティ「あるクリスマス」村上春樹・訳)

カポーティ最後の作品を、村上春樹が翻訳した短篇小説です。

故郷の街を離れて過ごした、7歳のクリスマスの思い出。

離れて暮らしいている父親との心の距離が、痛々しいまでに切ない感じを与えてくれます。

前述『クリスマスの思い出』と併せて楽しみたいクリスマス物語です。

「ヴィクトローラー」は、昔の蓄音機のこと。電気で動く自動の蓄音機は「電蓄」と呼ばれましたが、ここでは「手巻き式のヴィクトローラー」が登場しています。なにしろ、舞台は1930年(昭和5年)頃のことですからね。

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まとめ

以上、今回は、クリスマスが描かれている村上春樹の作品をご紹介しました。

アメリカ文学を多数訳しているためか、翻訳作品の中にもクリスマスのシーンが多いような感じがしますね。

この中で定番と言えるのは、佐々木マキと共作した『羊男のクリスマス』と、カポーティの翻訳作品『クリスマスの思い出』『あるクリスマス』あたりでしょうか。

オールズバーグの絵本『急行「北極号」』も忘れるわけにはいかない名作ですね。

今年のホリデーシーズンは、村上春樹の作品とともに過ごしてみてはいかがですか?

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じゅん
庄野潤三生誕100年を記念して、読書日記ブログを立ち上げました。庄野潤三さんの作品を中心に、読書の沼をゆるゆると楽しんでいます。