1958年、リオ・デ・ジャネイロで生まれた音楽、ボサノヴァ。その美しいメロディの向こうに広がる世界を知っていますか? ボサノヴァ誕生前夜、歌姫「ナラ・レオンのアパート」に集まった若い才能たち、恋が音楽を生み、せつない気持ちを音楽がなぐさめた日々…豊富なエピソードとちょっとだけマニアックなディスクガイドで紹介する、はじめての人のための、楽しんで読めるボサノヴァの教科書です。(帯の紹介文より)
書名:BOSSA NOVA(ボサノヴァ)
著者:B5 books
発行:2004/8/30
出版社:アノニマ・スタジオ
作品紹介
「ボサノヴァ」は、ボサノヴァ好きな2人(ワインバーのオーナーと雑貨店の店主)によって製作されたボサノヴァの教科書です。
本書の公式サウンド・トラックと位置付けられているCDと同時発売された企画もので、CDを聴きながら本書を読むことで、ボサノヴァに対する理解が一層深まります。
内容としては「ボサノヴァの歴史」と「名盤ガイド」がほとんどで、ボサノヴァ初心者にとっては、まさしく教科書となってくれる必読書です。
文章も平易で(というか、ほとんど語り口調)、マニアックな世界の割には読みやすく工夫されていると思いました。
表紙デザインは、ボサノヴァのヴィジュアル・イメージとして有名な、1960年代のブラジルの音楽レーベル「エレンコ」を思わせる2色刷り。
(目次)「歴史」はじめに/ショーロ/サンバ/ボサノヴァ前夜/ジョビン、ヴィニシウス/ナラ・レオンのアパート/ジョアン・ジルベルト登場/ボサノヴァ誕生/アメリカ人、ボサノヴァに出会う/エレンコ設立、そしてボサノヴァの成熟/エリス登場、そしてドミンゴ/海外流出組ボサノヴァ人の活躍/MPBの流れ/80年代以降のボサノヴァ///「語学」はじめに/発音してみよう/ちょっとだけ文法のはなし/絵で見て単語を覚えよう/歌ってみよう///「コラム」三月の水/ガロートを聴きに/サンバおすすめアルバム/ブラジル人の名前/エレンコ、全ディスク紹介/ドミンゴとヴァガメンチに似ているアルバム/ボサノヴァの出会いアルバム達/EMI77~81年の謎/アレンジャー特集///あとがき/参考資料
なれそめ
僕はボサノヴァ音楽が好きです。
どのくらい好きかというと、クラシックやジャズ、レゲエ、ヒップホップ、ロックンロール、フォークソング、シティポップス、歌謡曲、演歌が好きなのと同じくらいに(つまり、ほとんどの音楽が好き)。
そして、読書家は音楽にも本の世界からアプローチをしなければ気が済みません。
つまり、音楽関係の本も好きなんです。
「B5 books」の『BOSSA NOVA』は先にCDを買ってから、単行本を購入したような記憶がありますが、あるいは、本とCDを同時に買ったのかもしれません。
当時は僕もボサノヴァ初心者で、とにかくいろいろなCDを聴いて、いろいろな本を読んでいました。
あれから15年、今も僕はボサノヴァ初心者のままです(笑)
本の壺
心に残ったせりふ、気になったシーン、好きな登場人物など、僕の「壺」だと感じた部分を、3つだけご紹介します。
ジョアン・ジルベルト登場、そしてボサノヴァ誕生
ジョビンがジョアンをオデオンの重役達に聞かせた時、ある一人がこうつぶやきます。「ジョビンは歌手を連れてくると言ったのに、どうやら腹話術師しか連れてこられなかったようだ」(「ボサノヴァ誕生」より)
1958年、アントニオ・カルロス・ジョビン(トム・ジョビン)の紹介により、ジョアン・ジルベルトが『シェガ・ジ・サウダージ』でレコードデビューを果たしたとき、世界で初めて「ボサノヴァ」が誕生しました。
もっとも、発売元であるオデオンレコードの重役は、囁くようにボソボソと歌うジョアンのボーカルを、はじめ「腹話術師のようだ」と言って拒絶しました。
この囁くように歌うボーカルこそ、ボサノヴァらしさでもあるわけですが、当時のブラジルでは朗々と情熱的に歌い上げる歌手が一般的だったので、仕方ないとも言えそうですね。
ちなみに、ジョアンの囁くような歌い方は、チェット・ベイカーの影響だと言われています。
本書でも、ジョアンがアストラッドを口説いたときの台詞として、「ジョアンとアストラッドとチェット・ベイカーでゼアル・ネヴァー・ビー・アナザー・ユーを永遠に歌い続ける想像上のヴォーカル・トリオを結成しよう」が紹介されています。
アメリカ人、ボサノヴァに出会う
一九六〇年代はじめ、多くのアメリカ人ジャズ・ミュージシャン達がブラジルに演奏のため訪れました。彼らはブラジルで流行っているボサノヴァという未知の音楽の魅力に触れ、ある人達はそれを吸収してアメリカに持ち帰りました。(「アメリカ人、ボサノヴァに出会う」)
1960年代に入り、ボサノヴァはアメリカでブレイクします。
特に、1962年11月21日の「ボサノヴァ・アット・カーネギー・ホール」と呼ばれるニューヨークでのコンサートは、アメリカにおけるボサノヴァ人気を決定的なものとします。
なにしろ、コンサートには、ジョアン・ジルベルトやトム・ジョビン、セルジオ・メンデス、カルロス・リラなど主だったボサノヴァミュージシャンが顔を揃え、観客席には、マイルス・ディヴィスやジェリー・マリガン、トニー・ベネット、ペギー・リーなどが、ボサノヴァを聴くために集まっていました。
このコンサートの翌年、ジョアン・シルベルトはスタン・ゲッツと一緒に『ゲッツ/ジルベルト』を製作しています。
振り返ってみると、どうやらこの時期が、ボサノヴァ音楽にとってもピークだったということが言えるようですね。
ボサノヴァのクールな時代は終わった
カエターノとジルベルト・ジルは投獄され、ロンドンへと亡命することになります。ナラ・レオンも1967年のアルバムを最後にパリへと亡命します。シコ・ヴァルキも1968年にボサノヴァの名盤を発表しますが、その後、イタリアへと亡命します。みんないなくなっちゃいましたね。ブラジル本国のボサノヴァはこんな風に消えていきます。(「エリス登場、そしてドミンゴ」)
1960年代は、全世界的に政治とロックの時代で、それはブラジルでも同じでした。
かつて、ボサノヴァのコンセプトだった海や花や微笑みといった美しい世界は、地方や過去や貧乏や伝統といった世界へと移り変わっていきます。
上流階級の若者による新たな音楽ボサノヴァは、こうして静かにその幕を閉じていきました。
ジョアン・ジルベルトが『シェガ・ジ・サウダージ』を歌ってから、わずか10年、ボサノヴァはあまりにも激しく、そして、あまりにも短いムーブメントだったのです。
読書感想コラム
僕が一番好きなボサノヴァのレコードは、スタン・ゲッツとジョアン・ジルベルトが作った『ゲッツ/ジルベルト』です。
こればかりは絶対に譲れません。
アストラッド・ジルベルトの古いレコードも好きです。
ちょっとアンニュイなウィスパー・ボイスで「♪ディバダバ~」と歌うアストラッドは、やはりボサノヴァ・クィーンとして外せない魅力を持っています。
トム・ジョビンの『ウェイヴ』は完璧なBGMとして忘れられない存在。
上品で落ち着いていてリラックスできるボサノヴァは、やっぱり大人の音楽だなあと思います。
夏の始まりから夏の終わりまで、ボサノヴァを聴かないという日は一日もありません。
最高ですね、ボサノヴァ…
こんな人におすすめ
これからボサノヴァを聴きたいと思っている方。
ボサノヴァが好きだけれど、どんなCDを聴くべきか迷っている方。
もっと深くボサノヴァの歴史を知りたいという方。
著者紹介
林伸次(ワインバーオーナー)
1969年(昭和44年)、徳島県生まれ。
ワインバー「パール・ボッサ」店主。
本書刊行時は35歳だった。
保里正人(雑貨店店主)
1970年(昭和45年)、愛知県生まれ。
雑貨店「サンクデザイン」店主。
本書刊行時は34歳だった。