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秋の夜長の読書タイムに。「秋」が舞台になっているおすすめの文学作品特集。

秋の夜長の読書タイムに。「秋」が舞台になっているおすすめの文学作品特集。

秋が舞台となっている文学作品を集めてみました。

初秋から晩秋まで、いろいろな時期の<秋>が、文学作品の中には登場します。

読書の秋を<秋の小説>で楽しみましょう。

伊藤左千夫「野菊の墓」(明治39年)

歌人としても知られる伊藤左夫夫の人気小説です。

報われることのない、いとこ同士の純愛物語。

ヒロイン・民子が愛した花の名前は<野菊>でした。

夏目漱石が「あんな小説ならば何百編よんでもよろしい」と評したのは有名。

水のように澄みきった秋の空、日は一間半ばかりの辺に傾いて、僕等二人が立って居る茄子畑を正面に照り返して居る。あたり一体にシンとしてまた如何にもハッキリとした景色、吾等二人は真に画中の人である。「マア何という好い景色でしょう」民子もしばらく手をやめて立った。(伊藤左千夫「野菊の墓」)

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夏目漱石「三四郎」(明治41年)

秋の小説といって、真っ先に思い浮かぶのは、日本近代文学を代表する名作、夏目漱石の「三四郎」です。

九州から上京してきた大学生が、美しい女性に魅了されて、こんがらがっちゃうという物語。

当時の大学は秋入学だったので、この小説も九月からスタートします。

昔は秋晴れを「三四郎晴れ」と呼ぶこともあったそうですよ。

そのうち秋は高くなる。食欲は進む。二十三の青年がとうてい人生に疲れていることができない時節が来た。(夏目漱石「三四郎」)

永井荷風「すみだ川」(明治42年)

江戸情緒豊かな作品で知られる永井荷風の代表作です。

幼馴染の女性へのはかない想いに揺れる青年の物語。

浅草を中心とする隅田川の情景が美しく描かれています。

秋の東京文学散歩におすすめ。

残暑の夕日が一しきり夏の盛よりも烈しく、ひろびろした河面一帯に燃え立ち、殊更に大学の艇庫の真白なペンキ塗の板目に反映していたが、忽ち燈の光の消えて行くようにあたりは全体に薄暗く灰色に変色して来て、満ち来る夕汐の上を滑って行く荷船の帆のみが真白く際立った。と見る間まもなく初秋の黄昏は幕の下りるように早く夜に変った。(永井荷風「すみだ川」)

森鴎外「雁」(大正4年)

文豪・森鴎外の有名作品です。

金貸しの愛人になった女性と医学生との報われぬ愛の物語。

舞台は、明治13年(1880年)の無縁坂でした。

本郷・上野の文学散歩でも人気の作品ですね。

無縁坂の人通りが繁くなった。九月になって、大学の課程が始まるので、国々へ帰っていた学生が、一時に本郷界隈の下宿屋に戻ったのである。朝晩はもう涼しくても、昼中はまだ暑い日がある。お玉の家では、越して来た時掛け替えた青簾の、色の褪める隙のないのが、肱掛窓の竹格子の内側を、上から下まで透間なく深く鎖している。(森鴎外「雁」)

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志賀直哉「城の崎にて」(大正6年)

私小説作家・志賀直哉の心境小説です。

交通事故で「死ぬかと思った」著者は、小動物の死を通して、生と死が対極にあるものではないことを理解します。

美しい文章で綴られた小説として、谷崎潤一郎が絶賛したことも有名。

夕方の食事前にはよくこの路を歩いて来た。冷冷とした夕方、淋しい秋の山峡を小さい清い流れについて行く時考える事はやはり沈んだ事が多かった。(志賀直哉「城の崎にて」)

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芥川龍之介「舞踏会」(大正9年)

文豪・芥川龍之介の短編小説です。

鹿鳴館の夜会で、フランス人海軍将校に踊りを申し込まれた女性。

二人で美しい花火を一緒に眺める場面が、とてもロマンチックです。

芥川の中でも人気のある作品なんですよ。

明治十九年十一月三日の夜であった。当時十七歳だった——家の令嬢明子は、頭の禿げた父親と一緒に、今夜の舞踏会が催さるべく鹿鳴館の階段を上って行った。(芥川龍之介「舞踏会」)

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川端康成「伊豆の踊子」(大正15年)

ノーベル文学賞作家・川端康成の初期の名作です。

秋深い伊豆地方の情景が、情緒たっぷりと描かれています。

天城峠、湯ケ野、下田。

秋の伊豆を旅してみたくなりますね。

重なり合った山々や原生林や深い渓谷の秋に見惚れながらも、私は一つの期待に胸をときめかして道を急いでいるのだった。そのうちに大粒の雨が私を打ち始めた。(川端康成「伊豆の踊子」)

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新美南吉「ごん狐」(昭和7年)

童話作家・新美南吉の超有名作品です。

いたずら好きの子狐と貧しい村人とのささやかな交流。

罪を償うことの尊さや難しさが描かれています。

この物語を読むと、必ず栗ご飯が食べたくなる。

或る秋のことでした。二、三日雨がふりつづいたその間、ごんは、外へも出られなくて穴の中にしゃがんでいました。雨があがると、ごんは、ほっとして穴からはい出ました。空はからっと晴れていて、百舌鳥の声がきんきん、ひびいていました。(新美南吉「ごん狐」)

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小川未明「少年と秋の日」(昭和9年)

児童文学者・小川未明の童話(短編小説)です。

心温まる少年同士の交流。

掌篇の作品ですが、しみじみとした味わいがあります。

秋は、こんな童話もいいですね。

もう、ひやひやと、身にしむ秋の風が吹いていました。原っぱの草は、ところどころ色づいて、昼間から虫の鳴き声がきかれたのです。正吉くんは、さっきから、なくしたボールをさがしているのでした。(小川未明「少年と秋の日」)

堀辰雄「風立ちぬ」(昭和11年)

堀辰雄の代表作です。

不治の病(結核)で死と隣り合わせに生きる妻への純愛。

季節が移りゆくサナトリウムでの暮らしが、美しく描かれています。

堀辰雄自身、結核に冒され、48歳で病死しました。

九月になると、すこし荒れ模様の雨が何度となく降ったり止んだりしていたが、そのうちにそれは殆んど小止みなしに降り続き出した。それは木の葉を黄ばませるより先きに、それを腐らせるかと見えた。(堀辰雄「風立ちぬ」)

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太宰治「富嶽百景」(昭和14年)

太宰治の短編小説です(随筆とも言われています)。

師匠・井伏鱒二の紹介で、若い女性とお見合いしたときのことが綴られています(この女性と太宰は結婚します)。

気持ちの変化が、富士山の光景とリンクするように描かれています。

爽やかな小品で、太宰の代表作のひとつとなっています。

昭和十三年の初秋、思いをあらたにする覚悟で、私は、かばんひとつさげて旅に出た。(太宰治「富嶽百景」)

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吉行淳之介「驟雨」(昭和29年)

<第三の新人>吉行淳之介の短編小説です(芥川賞受賞作品)。

売春婦に心を惹かれるサラリーマンの物語。

現代風に言うと「お気に入りソープ嬢」のお話かと。

娼婦の町(赤線地帯)の秋が描かれています。

十月も末に近づき、山村英夫のいる事務室の窓からは、鈴懸の街路樹がその葉群のてっぺんを、黄ばんだ色に変えてゆくのが見られた。(吉行淳之介「驟雨」)

原田康子「挽歌」(昭和31年)

釧路出身の作家、原田康子のデビュー作にして大ベストセラー小説です。

冷え切った夫婦の隙間に忍び込んだ若き女性の残酷な行動。

昼メロ的な不倫ドラマが、多くの女性に支持されました。

読書の秋には、ちょっと歪んだ恋愛小説も似合いそうですね。

秋の公演のための最初の集会があったのは、十月に入って間もなくであった。(原田康子「挽歌」)

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山川方夫「はやい秋」(昭和37年)

夭折の小説家、山川方夫の短編小説です。

夏休みに海で出会った人妻に魅了された男の子の物語。

最後に明かされる人妻の正体とは?

山川方夫は優れた短篇小説の書き手として、高い評価を得ている作家なんですよ。

彼は、あきらめたみたいな、孤独な老人のような笑みをうかべながら、ぼんやりとまた窓の外をながめた。葉の落ちかけた木の梢に落日が赤くまみれ、その向うに、茜色にかがやく秋の夕方の空があった。「ああ、また秋か。ぼく、なんだか自分がひどく子供っぽくなっちゃっているような気がするなあ」(山川方夫「はやい秋」)

庄野潤三「夕べの雲」(昭和40年)

第三の新人として知られる芥川賞作家、庄野潤三の代表作です。

昭和39年9月から日本経済新聞に連載されました。

いずれ忘れてしまうだろう、普通の暮らし。

五人家族の何気ない生活を、季節感たっぷりに描いています。

ぐずついた天気が暫く続いて、やっと秋らしい日和になった。大浦は久しぶりに思い立って、東京の知人の家へ出かけたが、夕方近く、新聞紙でくるんだあまり大きくないものを、大事そうに抱えて帰って来た。(庄野潤三「夕べの雲」)

庄野潤三「秋風と二人の男」(昭和40年)

庄野潤三からもう一遍、こちらは人気の短編小説です。

初秋の風の中、待ち合わせて飲みに出かけた男たちの物語。

短編小説の名手・永井龍男は「神品」と評しました。

作品中の友人<芝原>は、作家の小沼丹がモデルです。

昨日まで八月で、今日から九月だから、それで上着を着て来ればよかったと思うのではない。実際に寒いから、そう思うのだった。家を出る時には、空に太陽が照っていた。そうして、確かに暑かった。(庄野潤三「秋風と二人の男」)

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トーベ・ヤンソン「ムーミン谷の十一月」(昭和45年)

人気のムーミン物語、最後の作品です。

冬眠に入る前の季節、みんなが、癒しを求めてムーミン屋敷に集まってきました。

だけど、ムーミン一家は旅に出て不在です。

他者との微妙な共同生活を、繊細なタッチで描いた名作です。

しとしとと、いつまでも、いつまでも、雨は降りつづきました。秋に、こんなに長雨がふるなんて、いままでにないことでした。(トーベ・ヤンソン「ムーミン旅の十一月」鈴木徹郎・訳)

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小沼丹「落葉」(昭和46年)

<第三の新人>で知られる小沼丹の短編小説です。

<清水町先生>こと井伏鱒二はじめ、懐かしい人たちとの交流を綴っています。

随筆のように自然体で流れていくところがいい。

小沼文学のしみじみとした味わいは、秋にぴったり。

狭い庭の真中辺に漆の木があって、秋になると美しく紅葉する。夏の間は矢鱈に葉を茂らせていて何の風情も無いが、紅葉すると途端に面目を一新する。何の取柄も無いちっぽけな庭が何だか華やいで、垣根の外を通る人が、綺麗だなあ、と感心している声を聞くことがある。(小沼丹「落葉」)

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永井龍男「秋」(昭和50年)

鎌倉文人・永井龍男の代表作品です。

特別のストーリーはありませんが、秋の鎌倉を情緒豊かに描き出しています。

まるで日記のような永井文学の最高傑作のひとつでしょう。

第2回「川端康成文学賞」受賞作品。

鶴ヶ丘八幡の秋祭は、九月十五日からである。いつも表通りの商店の一軒が御神酒所を引き受けるのに、どういう都合か今年は私の家の向こう角の空地に屋台が組み立てられ、毎日子供たちが太鼓をたたきに集まってきた。(永井龍男「秋」)

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村上春樹「羊をめぐる冒険」(昭和62年)

村上春樹の初期の名作長篇小説です。

10月から11月にかけて、もうすぐ雪が降り始める季節の北海道が舞台。

<鼠三部作>の完結編としても有名です。

ハードボイルド・ミステリー小説の要素がたっぷり。

北海道の短い秋はそろそろ終りに近づいていた。厚い灰色の雲は雪の予感をはらんでいた。(村上春樹「羊をめぐる冒険」)

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まとめ

いかがでしたか?

以上、今回は、読書の秋におすすめの文学作品をご紹介しました。

静かな秋は、じっくりと読書をするのにぴったりの季節です。

お気に入りの一冊を探してみましょう。

ABOUT ME
やまはな文庫
元・進学塾講師(国語担当)。庄野潤三生誕100年を記念して、読書日記ブログを立ち上げました。いつか古本屋を開業する日のために、アンチトレンドな読書ライフを楽しんでいます。