庄野潤三の世界

山田詠美「幸せな哀しみの話」~庄野潤三「愛撫」収録

山田詠美「幸せな哀しみの話」~庄野潤三「愛撫」収録
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文藝春秋
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「幸せな哀しみの話」は、「心に残る物語 日本文学秀作選」シリーズの一冊で、山田詠美によって選ばれた8篇の短編小説が収録されている。

庄野潤三「愛撫」収録。

庄野さん以外の顔触れを見ると、中上健次、半村良、赤江瀑、草間彌生、河野多恵子、遠藤周作、八木義徳と、なかなか個性的で硬派なメンツが並んでいる。

「愛撫」は、庄野さんの初期の代表作とも言える作品で、編者(山田詠美)は、あとがきの中で、次のように書いている。

「愛撫」は、愛くるしい文章の流れの中で愛撫をする者とされる者のもどかしさやためらいややりどころのなさが、おかしみのある残酷さを運んで来る。主人公のひろこが、少女から女に、そして妻になって行く過程で受けるいくつかの愛撫。

それは、女学校の頃のクラスエスと呼ぶ特殊な同性間の愛情のさなかのことであり、ヴァイオリンを習いに行った先での先生との関わりの中でのことでもある。圧倒的に受ける側でいるように見える彼女であるが、夫に打ち明けることによって、彼女自身も無意識に与える側になっていく不思議。

夫は、彼女に蛇の交尾が、いかに静かなものであるかを話し出す。<つまり動物の雌雄二匹が生殖の欲望から衝突し営むところの烈しい行為—そういう風なものから非常に遠いものであった。>それから耳を傾ける彼女の人生も、この蛇たちのごとく、倦むほどに愛撫され続けている。(山田詠美「あとがき」)

数ある庄野文学作品の中から、山田詠美がこの作品を選んだ理由は、なんとなく分かるような気がする。

少なくとも、決して意外なチョイスではないだろう。

このたびは、小説のために磨かれた大人の舌にこそ相応しい、幸せな哀しみの味を選ばせていただいた。確かな言葉が、言いようのないやるせなさを引き立てる、美味なる綴れ織りの数々である。(山田詠美「あとがき」)

どうやら、このアンソロジーは、文学の上級者のために編まれたものらしい。

書名:幸せな哀しみの話
編著:山田詠美
発行:2009/4/10
出版社:文春文庫

ABOUT ME
やまはな文庫
元・進学塾講師(国語担当)。庄野潤三生誕100年を記念して、読書日記ブログを立ち上げました。いつか古本屋を開業する日のために、アンチトレンドな読書ライフを楽しんでいます。