庄野潤三の作品案内

庄野潤三「四対一」洋酒天国に掲載された1950年代アメリカの酒文化とガンビア村の写真

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庄野潤三「四対一」読了。

昭和33年、「洋酒天国」29号に、庄野さんの随筆が掲載された。

タイトルは「四対一」で、副題として「オハイオ州ガンビアの話」とある。

このタイトルを見たとき、僕はてっきりガンビア村に留学していた時代に、地元の人たちと飲み比べになって、四人対一人の対決になってしまったのだろうと思った。

「洋酒天国」に載る随筆だからお酒の話でなければならないし、「四対一」という作品名には、何やら怪しげで危険な香りが漂っている。

しかし、実際に読み進めていって、僕の予想はまったく違うことになった。

庄野潤三「四対一」が掲載された「洋酒天国」29号庄野潤三「四対一」が掲載された「洋酒天国」29号

アメリカ留学にあたって、庄野さんの中で大きな不安としてあったのが、禁酒を法律で定めている州が多い中で、自分の滞在するオハイオ州が禁酒州であったなら、どうやってお酒を飲めばいいのだろうということだった。

現地に到着してみると、オハイオ州はお酒を飲んでも大丈夫な州であり、庄野さんは大いに安心するどころか、自分の暮らしているガンビアでは、男も女もたくさんのお酒を飲むので、逆に驚かされるくらいだったらしい。

ガンビアの人たちは、少し離れたところにある隣町のマウント・ヴァーノンにある州直営の販売所まで酒を買いに行った。

ビールやシェリーくらいなら地元の食料品店にもあったが、アルコール度数の強いウイスキーやブランデー、ジンなどのお酒は、この販売所でなければ買うことができなかったからだ。

庄野潤三「四対一」はアメリカの酒文化に関する随筆だった庄野潤三「四対一」はアメリカの酒文化に関する随筆だった

アメリカの人たちはバーボンを好んで飲んだ。

庄野さんも最初はバーボンを飲んで「何というまずいウイスキーだろう」とがっかりするのだが、どこの教授の家に呼ばれても国産のバーボンばかり出されるので、やがてバーボンの味にも親しみ馴れてしまったという。

本場のスコッチは、当時のアメリカでも高級品で、大学の教授くらいでは簡単に買うことができなかったものらしい。

ガンビアにいる間に覚えた酒として、もうひとつ、カクテルのマーティニがある。

近所に住んでいる飲み仲間のエディノワラ氏はマーティニが好きで、「どうしてマーティニを飲まないのか」「わしがつくって上げるから一回ためしてみろ」と、庄野さんに勧めたのがきっかけだった。

エディノワラ氏は「大事なことは、ジンを四、ヴァームースを一の割合でやることだ。三と一の割合でやる家が多いが、これは絶対、四と一でなくてはいかん」と主張した。

つまり、「四対一」という作品名は、エディノワラ氏が教えてくれたマーティニのレシピのことだったのだ。

エディノワラ氏は、「ジンとヴァームースを入れたあと、食塩をほんの少し、入れると。これがコツだ」と言いながら、左の掌にこぼした食塩を右手でつまんで、グラスの中に落とした後で、さらに「大事なことは、残りの塩を左の肩から後ろへ投げ捨てることだ」と言った。

この最後の「大事なことは、残りの塩を左の肩から後ろへ投げ捨てることだ」という部分は、エディノワラ氏がおいしいマーティニを作るうえで、最も大切にしている重要なおまじないだったらしい。

庄野さんはエディノワラ氏の作るマーティニを愛好し、たちまちマーティニ党になってしまったと、この随筆を締めくくっている。

エディノワラ氏というのは、「ガンビア滞在記」や「シェリー酒と楓の葉」「懐しきオハイオ」などのガンビアシリーズで頻繁に登場するミノーのことで、「大事なことは、残りの塩を左の肩から後ろへ投げ捨てることだ」というミノーの言葉は、長編小説の中でも紹介されているが、ガンビアでのお酒の話をテーマに綴った、この随筆では、殊更にマーティニに対する深い愛情が感じられる。

1950年代アメリカの酒文化に関わる随筆として、貴重な記録と言えるだろう。

庄野さんがアメリカで撮影してきた写真

「洋酒天国29号」に掲載された「四対一」の中では、庄野さんがアメリカで撮影してきた写真も、数カット掲載されていて、これも貴重な記録である。

タイトルでは、地元の子どもたちが屋根の上に並んでこちらを見下ろしている写真が使われており、次のページでは「ガンビアの近くの農家の主人と私」というキャプションがついた写真が紹介されている。

随筆「四対一」には、庄野さんがアメリカで撮影してきた写真も掲載されている随筆「四対一」には、庄野さんがアメリカで撮影してきた写真も掲載されている

さらに、次のページには「食料品店ウイルソンの前にミル会社のトラックが着いたところ」や「ガンビアの大通りには、こうしてポーチに腰を下して何時間もじっとしている連中がいる」などのキャプションが付いた写真。

最後のページには「十月の終りになると、ガンビアは枯葉の町となる。どの家でも、家のまわりの落葉を集めて燃やす」という文章とともに、二人の子どもたちが落ち葉を集めている写真がある。

庄野さんのアメリカ留学には、アメリカの文化を日本に紹介することというミッションが課されていたが、庄野さんは様々な場面で、このミッションを誠実に遂行していたらしい。

作品:四対一
著者:庄野潤三
初出:洋酒天国29号(1958/9)

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じゅん
庄野潤三生誕100年を記念して、読書ブログを立ち上げました。村上春樹さんと庄野潤三さんの作品をゆるゆる楽しんでいます。