007シリーズとして人気のイアン・フレミングの長編スパイ小説の第1作です。
初登場のイギリス秘密情報部員・ジェームズ・ボンドがカジノで大活躍。
スリルあり、恋愛あり、大人の娯楽小説をお楽しみください。
書名:oo7/カジノ・ロワイヤル
著者:イアン・フレミング、(訳)井上一夫
発行:1963/6/21
出版社:創元推理文庫
作品紹介
「007/カジノ・ロワイヤル」は、イギリスの作家、イアン・フレミングが書いたスパイ小説です。
イギリス秘密情報部員・ジェームズ・ボンドが活躍する長編スパイ小説で、続編がいくつも書かれる大人気シリーズとなりました。
本国イギリスでは、1953年(昭和28年)に刊行されています。
後に大人気となるジェームズ・ボンドですが、この第1作の時点では、際立ったキャラクターは確立していません。
もっとも、スリルあり、恋愛ありという007路線は、既にこの時点で計算されていたようです。
フィーリップ・マーロウ・シリーズで有名なアメリカのハードボイルド作家、レイモンド・チャンドラーは、この作品を高く評価しており、将来のフレミングの活躍に大きな期待をかけながら、やがて失望したと言われています。
1967年(昭和42年)、イギリスとアメリカの合作で映画化されたほか、2006年(平成18年)にもコロンビアで映画化されました。
なれそめ
ジェームズ・ボンドの「007シリーズ」と言えば、やはり映画を思い浮かべる人の方が多いと思います。
それは「ゴッド・ファーザー」と聞いて、映画を連想する人の方が多いのと同じことで、それだけoo7シリーズの映画に人気があるということだと思います。
もちろん、僕も映画を先に観て、後から原作小説を読みました。
原作物は、一応原作を読んでおかないと納得できない性格なので(まあ、それなりに文学好きを自認しているので)。
シリーズ一連の映画を観た後で読んだということもありますが、映画と原作との落差から受ける違和感というものには、なかなかのものがあります。
まあ、映画の原作物あるあるなので、全然ショックでも何でもないのですが、イアン・フレミングを初めて読むときには注意が必要です。
あらすじ
英国が誇る秘密情報部。なかでもダブル零のコードをもつのは、どんな状況をも冷静に切り抜ける腕ききばかり。党の資金を使い込んだソ連の大物工作員が、カジノの勝負で一挙に穴埋めをはかるつもりらしい。それを阻止すべく、カジノ・ロワイヤルに送り込まれたジェームズ・ボンド。華麗なカジノを舞台に、息詰まる勝負の裏で、密かにめぐらされる陰謀。007ジェームズ・ボンド登場。 (背表紙の紹介文)
本の壺
心に残ったせりふ、気になったシーン、好きな登場人物など、本の「壺」だと感じた部分を、3つだけご紹介します。
ドライ・マーティニはひとつ。ひとつだよ。
「ドライ・マーティニはひとつ。ひとつだよ。深めのシャンペン・グラスにいれたやつだ」「はい、かしこまりました」「ちょっと待った。ゴードンのジンを三に、ウォッカを一、キナ・リレのベルモットを二分の一の割合で。氷みたいに冷たくなるまでよくシェークして、それからレモンの皮をうすく大きく切ったやつをいれる。わかったね?」(イアン・フレミング『007/カジノ・ロワイヤル』)
007シリーズを読む楽しみのひとつが、ジェームズ・ボンドのライフスタイルを読み解くことです。
お酒にもうるさいボンドは、ドライ・マティーニ一杯飲むにも細かいレシピをオーダーして、「このマーティニは、わたしの発明なんだ。いい名前を思いついたら、特許をとろうと思ってますよ」と胸を張っています。
こうしたボンドのライフスタイルにこだわる姿勢は、様々な場面で描かれていて、「ボンドはたっぷりした朝食をとるのが好きだった。冷たいシャワーをあびて、窓の前のデスクに向かう。表のいい天気をながめながら、冷たいオレンジ・ジュース半パイントに、ベーコンいりのいり卵三個、砂糖ぬきのコーヒーを二杯分たいらげた」などと、朝食シーンにも細かい描写を挿入しています。
ジェームズ・ボンドのようなダンディな暮らしに憧れる人には、とても参考になる情報ですね。
女なんてものは、気ばらしのためにいるんだ
ボンドはため息をついた。女なんてものは、気ばらしのためにいるんだ。仕事の上では邪魔になるばかり。セックスで事態を混乱させ、怒りっぽい感情とかその他あらゆる情緒的お荷物で、事態を見る目を曇らせるばかりだ。(イアン・フレミング『007/カジノ・ロワイヤル』)
今回の任務に女性の助手があてがわれたと聞いて、ボンドは「牝め!」と不快感を隠そうともしません。
ビジネス優先のボンドにとって、女性は目ざわりで、仕事の邪魔になるばかりの存在だったんですね。
けれども、実際に現れた美貌のボンドガール・ヴェスター・リンドに、ボンドの心はあっという間に奪われてしまいます。
生涯独身主義を通そうとしていたボンドですが、ヴェスターの前では、自分の主義を変えてもいいとさえ思うようになっていくのですが、、、
乳房が手のなかにあふれ、指に当たった乳首は硬かった
ボンドはベッドから離れると、ヴェスパーのすぐそばにくっついて立った。両腕で彼女をかかえ、左右の胸に片方ずつ手をかける。乳房が手のなかにあふれ、指に当たった乳首は硬かった。(イアン・フレミング『007/カジノ・ロワイヤル』)
美人助手ヴェスパーに心惹かれながらも、ボンドはビジネスを最優先に考える男です。
見事に任務を遂行した後で、いよいよボンドは、お目当ての獲物ヴェスター・リンドの調理にかかります。
もっとも、この頃には、ボンドの心はもうヴェスパーにメロメロ状態なのですが、物語にはまだまだ続きがあります。
あっと驚くようなどんでん返しが用意されているのも、ミステリー小説ならでは。
初期の任務を遂行した後も、ボンドとヴェスパーの二人からは目が離せませんよ。
読書感想こらむ
正直に言って、初めてoo7シリーズを読むまで、僕がこのスパイ小説に求めていたのは、レイモンド・チャンドラーのフィーリップ・マーロウ・シリーズに見られるような高い文学性のあるミステリー小説でした。


けれども、実際に読み終えた「007/カジノ・ロワイヤル」は僕の期待とは違って、文学性の一切を排除した娯楽小説でした。
そして、国際スパイ、カジノ、美人助手、爆弾、拳銃と、読者をハラハラドキドキさせる仕掛けがあちこちにあって、ある意味で、チャンドラー以上に、多くの読者に読んでもらえるように工夫が凝らされている、完璧な娯楽小説でした。
求めるものとは違ったけれど、「oo7/カジノ・ロワイヤル」を読まなければ、僕は007シリーズの原作を理解しないまま、映画だけですべてを知ったような気持ちになっていたはずなので、原作小説を読むことの意義は失われていないと思います。
文学性を問わなければ、随所に描かれているジェームズ・ボンドのダンディなライフスタイルは、やはり世の男性たちの憧れの教科書みたいなものだと思います。
「車がボンドのただひとつの道楽だった。四・五リットルのベントレーで、エムハースト・ヴィリヤーズの加速装置をつけた最後の型だった。1933年に新品同然のを買って、戦争中も大事にしまっておいたのだ」のように、ボンドカーも登場して、男性読者の気持ちをしっかりとグリップしているところはさすが。
息抜きにお勧めしたいミステリー小説です。
まとめ
「007/カジノ・ロワイヤル」は、ジェームズ・ボンドのデビュー作。
ボンドガールやボンドカーも、ちゃんと原作の中で登場しています。
粋なジェームズ・ボンドのライフスタイルに注目です。
著者紹介
イアン・フレミング(小説家)
1908年(明治41年)、イギリス生まれ。
ロイター通信や英海軍情報部などで勤務した。
デビュー作「007/カジノ・ロワイヤル」発表時は45歳だった。
井上一夫(翻訳家)
1923年(大正12年)、東京生まれ。
エド・マクベインの警察小説「87分署」シリーズや、イアン・フレミングのスパイ小説「007」シリーズの翻訳で活躍した。
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翻訳版「007/カジノ・ロワイヤル」刊行時は40歳だった。