庄野潤三の世界

庄野潤三の本「山の上の家」庄野文学の魅力満載!ファン必携の作家案内

最近になって集中して読んでいる庄野潤三さんのガイド本「山の上の家」を読みました。

今なお多くのファンを持つ庄野潤三さん初めての作家案内です。

書名:庄野潤三の本 山の上の家
著者:
発行:2018/7/30
出版社:夏葉社

作品紹介

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「山の上の家」は、芥川賞作家・庄野潤三さんに関する作家案内の本です。

全著作案内をはじめ、随筆集収録作品や短編集収録作品の紹介、単行本未収録の作品や庄野さんの家族の原稿なども収録されています。

タイトルの「山の上の家」は、多くの庄野作品の舞台となってきた、生田市にある庄野潤三さんの住宅のこと。

本書では、山の上にある庄野さんの住宅についても、、カラー写真で詳しく紹介されています。

(目次)山の上の家(写真・白石和弘)///ステッドラーの3Bの鉛筆(佐伯一麦)///庄野潤三の随筆、五つ「わが文学の課題」「息子の好物」「郵便受け」「日曜日の朝」「実のあるもの―わたしの文章作法」///子どもたちが綴る父のこと「私のお父さん(今村夏子)」「父の思い出(庄野龍也)」///庄野潤三を読む/「山の上」という理想郷(上坪裕介)/庄野潤三とその周辺(岡崎武志)///単行本未収録作品「青葉の笛」/庄野潤三全著作案内(宇田智子・北條一浩・島田潤一郎・上坪裕介)/年譜のかわりに/山の上の親分さんとお上さん江/庄野潤三・随筆集収録作品/庄野潤三・短編集収録作品

なれそめ

庄野潤三さんの作品を読みたいと思って探しているときに出会ったのが、この「山の上の家」です。

作品集ではなくて作家案内なのですが、庄野潤三さんの全著作案内が収録されているので、これから庄野潤三さんの作品を読みたいと考えている初心者にとって、この本はとても素晴らしい庄野潤三ガイドになってくれるに違いない。

そんな気持ちで購入しました。

タイトルが「山の上の家」というのも、自分の家を舞台に、そこで生きる自分の家族を登場人物として多くの作品を綴ってきた庄野さんにぴったりで、いかにも庄野潤三さんらしい作家案内だと思います。

装丁も美しくて、本を所有する喜びを感じさせてくれる本です。

本の壺

心に残ったせりふ、気になったシーン、好きな登場人物など、本の「壺」だと感じた部分を、3つだけご紹介します。

僕が夏の頂点であるこの時期を一番愛していたということ

僕が夏の頂点であるこの時期を一番愛していたということは、僕をよく知る幾人かの人が憶えていてくれるだろう。だが彼等も亦死んでしまった時には、もう誰も知らないだろう。それを思うと、僕は少し切なくなる。(庄野潤三「わが文学の課題」)

「山の上の家」では、庄野潤三さんの随筆作品が5編収録されています。

引用の「わが文学の課題」は、昭和24年の「夕刊新大阪」に掲載されたもので、庄野さん28歳のときに書かれたもの。

28歳の青年が、自分の死んだ後の世界のことを考えて切なくなるなんて、すごい感受性だなあと思います。

上坪裕介さんは「『山の上』という理想郷」の中で、「庄野文学の最大の特徴はこの「切なさ」の表現にある」と指摘しています。

それにしても、こんなに古い随筆(70年前!)がちゃんと保存されていて、こうして復刻されたということも素晴らしいことですよね。

庄野さんの随筆を読むだけで、この本の価値はあると思います。

「山の上」は、近くにありそうでいて探しても見つからない。

「山の上」は、近くにありそうでいて探しても見つからない。近所の角をまがるとあるのではないかと思うのに、本当はどこにもない場所。だがどこからともなく、ほがらかな笑い声や楽しそうな歌声が聞こえてくるような気がして、やっぱり近くにあると思えてしまう。(上坪裕介「『山の上』という理想郷」)

「山の上の家」は、決して庄野潤三の文学作品を深く考察するような評論集ではありません。

できるだけリラックスしながら読みたい気軽な読み物ですが、庄野作品の魅力と真面目に向き合った解説も含まれています。

上坪裕介さんの「『山の上』という理想郷」は、多くの庄野作品の舞台となった「山の上」について書かれたもの。

「山の上の家」は単に物語の舞台というだけではなく、庄野文学のアイデンティティそのものと言っていい存在なので、「山の上の家」をどのようにとらえるかによって、庄野文学の楽しみ方は大きく変わりそうです。

これから庄野作品を読みたいという方にとって、良き道案内となってくれそうな解説だと思います。

庄野作品も五百年後、千年後に読まれているはずだ

庄野潤三の作品は、まさしく藤沢が言うような「自分の家の畳の上」に寝転ぶ楽しさと安らぎがある。『徒然草』が七百年を経て読み継がれているなら、私は本気で、庄野作品も五百年後、千年後に読まれているはずだと思っている。(岡崎武志「庄野潤三とその周辺」)

「庄野潤三を読む」のコーナーからもうひとつ、岡崎武志さんの文章もまた素晴らしいもので、岡崎さんは古典「徒然草」を引き合いに、庄野作品も五百年後、千年後まで読み継がれていくはずだと主張しています。

上坪裕介さんの考察とはまた違って、庄野さんに影響を与えた文学者たちを紹介しながら、庄野さんの生い立ちを振り返る内容となっています。

ちなみに、庄野さんは旧制今宮中学の野球部長を務めていたとき、大阪府代表として春の選抜甲子園大会に出場しており、「日本文学史上、いわゆる甲子園の土を指導者として踏んだ文学者は、庄野潤三だけではないか」と、岡崎さんは指摘しています。

庄野さんの経歴を簡単に振り返りたいときに便利な情報がしっかりとまとめられていてお勧めです。

読書感想こらむ

読了後の最初の印象は「買って良かった」でした(笑)

単行本未収録作品や随筆作品を読めることは大きいですが、個人的には「全著作案内」がとても参考になると思いました。

当面の目標である庄野潤三全著作読破(!)に向けて、すごく良い参考書ができた感じです。

ただし、「庄野潤三全著作案内」は四人の方が分担して執筆しており、作品によって作品紹介のアプローチが異なっているところが残念。

全体を通して、情緒的な感想ではなく、客観的な作品案内に徹してもらった方が、著作ガイドとしての意義があったように思います。

そういう作品情報という意味では「随筆集収録作品」や「短編集収録作品」で、作品リストが一覧で整理されているのは、とても便利。

それから、冒頭部分で庄野さんの自宅である「山の上の家」がカラー写真で紹介されているのは、ファンにとってすごく貴重な資料になると思います。

庄野作品では「図書室」や「英二伯父ちゃんのばら」など、庄野邸にまつわるものがたくさん登場するので、「山の上の家」のカラー写真は、庄野作品に対する理解を深める上で、とても役立つ情報なんですよね。

「インド綿の服」で重要な役割を果たした「足柄山の夏子さんの手紙」も収録されるなど、家族から提供されている文章も収録されており、庄野ファンにとっては読みどころ満載の一冊になること間違いなしです。

まとめ

とっても本格的な庄野潤三の作家案内。

庄野作品を読んでから読むか、庄野作品を読む前に読むか。

どっちにしても、庄野文学ファンは必携のガイド本です。

著者案内

庄野潤三(小説家)

1921年(大正10年)、大阪生まれ。

1955年(昭和30年)、「プールサイド小景」で芥川賞受賞。

2009年(平成21年)逝去。88歳だった。

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じゅん
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庄野潤三生誕100年を記念して、読書ブログを立ち上げました。村上春樹さんと庄野潤三さんの作品をゆるゆる楽しんでいます。