庄野潤三の世界

庄野潤三「懐しきオハイオ」で1950年代アメリカの食卓風景を読む

庄野潤三「懐しきオハイオ」あらすじと感想と考察
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「懐しきオハイオ」では、1950年代末期のアメリカの小さな大学村における日常生活が克明に描かれているが、とりわけ興味深いのは、彼らの食文化である。

庄野夫妻は、近所の人々と互いに夕食へ招き合っているが、今回は、庄野夫妻が夕食に招かれた際のメニューを拾ってみよう。

1月1日、ランサムさんからフットボールの実況中継を観に来るように誘われた際のメニューは、ウイスキーとシェリー、ポテトチップスとチーズ・ペーストの鉢、ハーフタイムにサンドイッチとコーヒー。

エリオット家のディナー、ハムとサラダとクラッカー、玉葱を揚げたものなどにラビット・ソース(玉葱にビールを入れ、チーズ、ケチャップ、卵、塩、胡椒を加えたもの)をかけて食べる。

ランドさんの「クロムウェル・コテッジ」での夕食、リビングルームでワインを飲んだ後、ダイニングルームへ移って、フライド・チキンとグリーンビーンズ、ライス、デザートはココナッツパイ。

フレデリックタウンのメソジスト教会では、参加者が一皿ずつ家で料理したものを持ち寄っていて、ベーコン料理、ハム、卵料理、煮豆、ポテト、グラタン風、スパゲッティの入った肉料理、パイや菓子などで、コーヒーを飲んで終わりになる。

パブテスト教会、参加者はめいめいサンドイッチを持参していて、庄野夫妻が教会のリーダーから渡されたのはハムとコンビーフ入りのサンドイッチと生の人参、ピクルス、レタス、チーズ、バナナで、いかにも味気のないものだった。

数学のフィンクバイナーさん宅のパーティー、飲み物はウイスキー、マーティニ、オールド・ファッションド、シェリー、ビール。食事は、七面鳥のローストを細かく切って皿の周りに乗せ、真ん中にマヨネーズの壺を置いたもの、薄く切ったやわらかいパンがそばにあって、七面鳥のローストを挟んで胡椒を乗せて食べる。カリフラワー、ピーマン、胡瓜の生とマヨネーズの皿もあった。

ニコディムさんの家のイースター、ローストハムのかたまり、ローストチキン、ポーランドのハム、ゼラチン・ビーフ(牛肉の煮こごり)、色つきのイースターの卵。豆とセロリを刻んだのが入ったサラダの鉢(これがうまかった)、ビート、パン、ケーキを焼いたのが四つ。ポーランド風のカクテル、ボルドーの白葡萄酒。

ブランドンのメソジスト教会、ベーコンと一緒に豆を煮込んだもの、チキンとヌードルの煮込み、チキン、玉蜀黍、そら豆、じゃがいもを煮たもの、茹で卵、デザートにパイとコーヒー。

マッキー農園の夕食、じゃがいもをたくさん茹でて鉢に入れたもの、グリーンピース、やわらかく炊いた米、チキンをパンと一緒に天火で焼いたグラタン風の料理、ピクルス、クリームソース、ゼリー、パン、細かく刻んで酢につけたキャベツ、コーヒー。

再びマッキー農園、挽肉と貝殻のかたちをしたマカロニ(シェルマカロニ)を天火に入れて焼いた料理、グリーンピース、焼きたてのフランスパンと昨日作ったばかりの自家製バター(これは普通のバターより黄色くておいしい)、ゼリーの中にパイナップルの入ったのがレタスの上に載っている皿。デザートは苺ショートケーキとコーヒー。

コロンバス郊外のキャプテン教授家のディナー、夫人がインドに一年いた間に覚えたシュリンプカレー、ドライ・フィッシュ、ナッツなど四種類のものを添えたサラダ。マーティニとウイスキー、ビール、クリームココア。デザートは、シュークリームの蓋の間にアイスクリームを詰めたもの。

ロングエイカー家のディナー、マーティニ、赤ワイン、バーボン。冷たいポタージュ、七面鳥とチキンにレバーの入ったのを天火で焼いたもの、冷たくしてあるサラダ。冷たくしてあるのが惜しかったが、どれもおいしい。デザートにケーキ。

リッチソン家のディナーはフランス風で、鶏の胸肉(コールドミート)にソースを載せたものに、葱の長いのを三本ほどソテーにしてある。玉葱でなく葱が出るのは珍しい。胡瓜を煮たもの。デザートは苺を載せたパイで、中にクリームチーズが入っている。

ニューヨーク郊外のクイーンズに住む実妹宅の夕食、父母の郷里の徳島風のかきまぜ(まぜずし)とカツレツ(ビフテキとカツレツとどちらがいいかと訊かれて、母がよく作ったビーフカツレツを希望した)、わかめをたくさん入れた味噌汁、塩昆布と山椒、冷えたビール。

日本で知り合ったスカランジェロさんの実家(ニューヨーク郊外のバビロンにある)の夕食、ローストチキン、ビーフステーキ、グリーンピース、じゃがいも、サラダの皿。赤葡萄酒の大きな瓶。

マウント・バーノンのハンガリーから来たコンツ家のディナー、ビールのつまみのクラッカー、ケーキ一切れ。ビールをコップに半分。招待客は、みんな夕食を食べていなかったので、空腹を我慢していたらしい。

ニコディム家の夕食、タンシチューをご飯の上にたっぷりかけて食べる。ビールのバドワイザー。オニオン・スープ、ラディッシュを擦ったのにクリームをかけたもの。デザートはチョコレートのかかったケーキ。いつも食べきれないほど出るのが、ニコディム家のディナーである。

マッキー農園の夕食、大きなローストビーフのかたまり、奥さんの畑で取れたじゃがいもと人参。輪切りにした茹で卵入りのサラダ、大きな更に苺が山盛り。苺は一人一箱の割で、おまけにその下にケーキがある。これにミルクをかけて食べた。アイスティーもおいしかった。

マウント・バーノンのソフィア家のディナー、ビール、ピーナツやつまみ物を盛った皿、庭の炭火で鉄の串に刺した牛肉を焼いて食べる。肉には塩、胡椒、ガーリックをかけてある。牛肉とマッシュルームとグリーンピースをとろ火で煮込んだハッシュドビーフと上手に炊いたライス。生野菜、じゃがいものサラダ。マシマロを炭火で焼いたものとコーヒー。

オールドリッチ夫人のディナー、トマトをたくさん入れた酸っぱいカレーライスを庭のテーブルで食べる。ライスは水が多過ぎたらしく、うまく炊けていなかった。食後に西瓜とティー。

アメリカは、いろいろな国から人が集まっているせいだろうか、夕食メニューは家庭によって様々な、非常にバラエティに富んでいる。

庄野さんが、料理の内容を克明に記録していたのも、食卓風景からアメリカを観察しようとしていたのかもしれない。

書名:懐かしきオハイオ
著者:庄野潤三
発行:1991/9/25
出版社:文藝春秋

ABOUT ME
やまはな文庫
元・進学塾講師(国語担当)。庄野潤三生誕100年を記念して、読書日記ブログを立ち上げました。いつか古本屋を開業する日のために、アンチトレンドな読書ライフを楽しんでいます。