庄野潤三の作品案内

庄野潤三「文学交友録」仲間たちを語る言葉の中にある温かさ

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庄野潤三「文学交友録」読了。

帯文には「初めての文学的自叙伝」とある。

庄野文学に影響を与えた文学者たちが、庄野さんの回想によって綴られているが、あくまでも、影響を受けた文学作品というよりは、影響を受けた文学者たちの回顧録である。

書名が「交友録」なので、交友のあった文学者たちというのが正しい。

仲良しだった文学者たちの思い出を、庄野さんが綴った回想記と言えば、一番近いだろうか。

紹介されている文学者は、吉本正秋、上田畊甫、グレン・ショウ、ヘンリー・ジョンズ、伊東静雄、島尾敏雄、林富士馬、貴志武彦、桜岡孝治、佐藤春夫、藤澤桓夫、長沖一、斉田昭吉、三好達治、坂田寛夫、吉行淳之介、安岡章太郎、近藤啓太郎、福原麟太郎、十和田操、坂西志保、井伏鱒二、河上徹太郎、中山義秀、小沼丹、庄野英二など。

最初の4人は学生時代の先生で、伊東静雄から桜岡孝治までは、小説「前途」の登場人物たちのモデルとなった人たちである。

福原麟太郎と河上徹太郎との交流については、別に「山の上に憩いあり」の作品集がある。

それぞれの文学者たちの交流が、庄野さんの記憶によって語られているが、既に、小説や随筆の中で紹介されているエピソードも少なくない。

例えば、小沼丹のところの「約束した日に新宿まで出かけて行く。ビルの地階のビアホールで、先ず、ジョッキの生ビールから始める。ここで海老の串焼きなんか食べてゆっくりして(略)」という描写は、「鉄の串」という短編小説(作品集「絵合せ」所収)を思い出させる。

交友録には間違いないが、至るところに庄野文学の素材の欠片みたいなものを発見することができて楽しいというのが、本書の魅力なのではないだろうか。

庄野さんをアメリカへ紹介した坂西志保

三十一年七月に近代生活社から東京へ越して来て間もないころの私の一家の生活を素材とした小説『ザボンの花』が出たとき、読売新聞でとり上げて、うんと賞めて下さった。これは散文詩的な要素のある家庭小説だとはじめにいい、また、「日常の生活をよく整理し、人間はどう生きるべきかという大きな問題と取組みながら、それを自分の心の中に秘めて、生活を愛し、はぐくみながら筆を進めて行くこの著者の純真さには心を打たれるものが多分にある。味わいのある小説である」と書いてある。(「十 福原麟太郎・十和田操・坂西志保」)

日本代表の留学生として、庄野さんをロックフェラー財団に推薦したのが、坂西志保であった。

「その後の私の仕事のことを考えると、もし私が『ガンビア滞在記』を書いていなかったとすれば、私の新しい出発点となった『静物』も、その後の『夕べの雲』も書けなかっただろう。坂西さんのおかげである」と書いているように、ガンビアでの暮らしは、その後の庄野文学に大きな影響を与えるものとなる。

庄野さんをロックフェラー財団へ推薦するまで、坂西さんは、庄野さんの作品を読んで、書評を発表したりしていたらしい。

「昭和二十八年に私の最初の作品集『愛撫』が新潮社から出たとき、週刊朝日の書評の頁でとり上げられた。無署名であったが、どなたかから(河盛好蔵さんかも知れない)、「坂西さんです」と教えられた」というのが、庄野さんと坂西さんとの最初の関わりだったようだ。

第三艦隊沈没せんとす。早く帰国して戦列に加わってくれ。

東京会館の授賞式で私は無事に代役を勤めた。ひとこと挨拶せよということであった。そこで私は、安岡がロックフェラー財団の研究員として渡米中であることを会場の皆さんに話した。このとき、私は、「安岡は夫人と一緒にアメリカへ行って居ります」といったあとへ、「治子ちゃんは、日本で幼稚園へ行って居ります」といったら、会場に笑い声が起った。(「九 吉行淳之介・安岡章太郎・近藤啓太郎」)

日本の現代文学史の中で、庄野さんは「第三の新人」というグループに位置付けられている。

「第一次戦後派」「第二次戦後派」に続いて、文壇へ登場した新進文学者たちという意味が込められているが、この章で紹介されている吉行淳之介や安岡章太郎、近藤啓太郎といった作家たちは、みな「第三の新人」として知られる、同世代の仲間たちである。

特に、安岡章太郎夫妻が結婚する時には、庄野夫妻が仲人を務めたというくらい、親密な間柄だった。

庄野さんが、ガンビアへ留学しているとき、「第三艦隊沈没せんとす。早く帰国して戦列に加わってくれ」と手紙に書いてきたのも、安岡章太郎だった。

「第三艦隊」とは「第三の新人」のことだが、庄野さんの不在中に、日本の文壇では有力な若手作家たち(石原慎太郎や大江健三郎、開高健など)が次々に登場・活躍していて、「第三の新人」が霞みつつあったことを、安岡さんは危惧していたらしい。

庄野さんが急病で入院したとき、完成していた短編小説「ガンビア停車場」が、間違いなく雑誌に掲載されるよう、安岡さんが「文学界」の編集長へ働きかけたというエピソードもいい。

本書を読むと、庄野さんは随分と先輩や友人に恵まれていたんだなと思うけれど、これも含めて庄野さんの人柄ということなのかもしれない。

友人を語りながらも、作家自身の人柄を語るものが、交友録というものだという気がする。

「文学交友録」を読みながら、そんなことを感じた。

書名:文学交友録
著者:庄野潤三
発行:1995/3/30
出版社:新潮社

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じゅん
庄野潤三生誕100年を記念して、読書ブログを立ち上げました。村上春樹さんと庄野潤三さんの作品をゆるゆる楽しんでいます。