名著・旧刊

庄野潤三「誕生日のラムケーキ」どんな小さなことでも、喜びの種子になるものを見つけたい

庄野潤三「誕生日のラムケーキ」どんな小さなことでも、喜びの種子になるものを見つけたい

庄野潤三の「誕生日のラムケーキ」を読みました。

優しくて温かくて、仕事で疲れた心が癒されました。

書名:誕生日のラムケーキ
著者:庄野潤三
発行:1991/04/20
出版社:講談社

作品紹介

created by Rinker
¥1,280
(2021/02/25 19:36:11時点 Amazon調べ-詳細)

「誕生日のラムケーキ」は、庄野潤三さんのエッセイ集です。

著者のあとがきには「『ぎぼしの花』から『誕生日のラムケーキ』まで、今度も六年かかった」とあります。

「ぎぼしの花」は「誕生日のラムケーキ」の前に出版された随筆集で、さらにその前に出版されている「御代の稲妻」から6年後に刊行されています。

その「ぎぼしの花」から、今回の「誕生日のラムケーキ」まで、今回もちょうど6年かかったということになります。

ちなみに、庄野さんには、全部で10冊の随筆集があります(自選随筆集「子供の盗賊」(1984)を含まないで)。

庄野潤三さんの随筆集リスト
①自分の羽根(1968)/②クロッカスの花(1970)/③庭の山の木(1973)/④イソップとひよどり(1976)/⑤御代の稲妻(1979)/⑥ぎぼしの花(1985)/⑦誕生日のラムケーキ(1991)/⑧散歩道から(1995)/⑨野菜讃歌(1998)/⑩孫の結婚式(2002)

「①自分の羽根」「②クロッカスの花」「③庭の山の木」「⑨野菜讃歌」は、既に本ブログで紹介済みとなっています。

庄野潤三「自分の羽根」短い文章で綴る暮らしと文学と友情の随筆集
庄野潤三「自分の羽根」短い文章で綴る暮らしと文学と友情の随筆集庄野潤三さんの随筆集「自分の羽根」を読み終えました。 ひとつひとつが短いエッセイなのに、読後の充実感には凄まじいものがあります。 ...
庄野潤三「クロッカスの花」生きることは、船旅のようなものだ
庄野潤三「クロッカスの花」すべての文章は私の人生の備忘録である庄野潤三の随筆集「クロッカスの花」を読みました。 穏やかだけれど信念のある、作者の生き方が伝わってくる随筆集です。 書名...
庄野潤三「庭の山の木」人生はどうしてこんなに楽しいのだろう
庄野潤三「庭の山の木」人生はどうしてこんなに楽しいのだろう庄野潤三さんの「庭の山の木」を読みました。 何度でも読み返したいと思える素敵な随筆集です。 書名:庭の山の木 著者:庄...
庄野潤三「野菜讃歌」平穏な家庭の中にある豊かな暮らしと家族愛
庄野潤三「野菜讃歌」平穏な家庭の中にある豊かな暮らしと家族愛日常生活の中で感じる幸せとは何か。 平穏な暮らしの中でこそ感じることのできる幸福感。 居心地の良いエッセイが、そこにはある。...

暮しのなかに喜びの種子を見つけながら心通わせる家族の四季。親しい友との語らい。故人への思い。文学作品とその周辺への細緻な卓識。清冽な詩情溢れる庄野文学の精髄。(帯文)

あらすじ

「誕生日のラムケーキ」は、新聞や雑誌などに発表された短い随筆を一冊の本に収録したもので「Ⅰ おるす番」「Ⅱ 「夕べの雲」」「Ⅲ 「丑寅爺さんと」と詩碑除幕式」の三部構成となっています。

このうち、「Ⅰ おるす番」には、孫娘フーちゃんが登場する随筆がいくつか収録されています。

ちょうど「誕生日のラムケーキ」が刊行されたときに「海燕」で連載中だった「鉛筆印のトレーナー」(1992年・福武書店)の著者あとがきには、次のように綴られています。

次にフーちゃんのことが本になるのは随筆集『誕生日のラムケーキ』(1991年4月・講談社)で、「おるす番」「たき火」「浦島太郎」「花鳥図」「スープ」「大きな犬」の六篇にフーちゃんが登場する。ここでは、「フーちゃんは、近所に住んでいる次男の三歳になる孫娘」として最初に紹介されている。「おるす番」ほか六篇は、最初、毎日新聞夕刊のコラム「視点」に掲載された。『誕生日のラムケーキ』の目次のはじめの方に並べたのは、ひそかにこれを随筆集の柱にしたいという気持が私にあったからである。(庄野潤三「鉛筆印のトレーナー」)

目次///<Ⅰおるす番>たき火/驢馬/浦島太郎/荒野の苔/長女の宅急便/花鳥図/スープ/誕生日のラムケーキ/大きな犬/赤毛のアン/神奈川と私/一番咲きの薔薇/サヴォイ・オペラ年表/金物屋まで/やきもの好き/九州との縁/今年の秋/春を待つ/私の夏の愉しみ/梨屋のお嫁さん/エイヴォン記/子守りの一日/南足柄行/誕生日のアップルパイ/喜びの種子見つけて/旅のプログラム/剣幸の退団を惜しむ/ウエバーさんの手紙/能登の毛がに///<Ⅱ「夕べの雲」>最初の小説/丹下氏邸・エリア随筆/『ブロードウェイの天使』/井伏鱒二「へんろう宿」/佐藤春夫『お絹とその兄弟』/会計簿と/「チェーホフ読書ノート」/昔のノートから/近況/ユニバーシアード讃歌/慶同ラグビー/コニャック市営競技場/病院の早慶ラグビー/病後の私/日豪ラグビーの思い出/スコットランド応援/米国カナダ遠征/米国ラグビーの将来/フェアプレー/香山蕃『ラグビー』///<Ⅲ「丑寅爺さんと」と詩碑除幕式>聞き手と語り手/老いての物語/一枚の写真/野々上さんの新著/「グラッ返り」/南の島のまどさん/大竹さんから聞いたこと/祝辞/歌集『利根川の漣』/大事なこと/『丘の橋』/島尾敏雄を偲ぶ/気儘な附合い/藤澤さんを偲ぶ/「少年バタシュ」/草野さんを偲ぶ/「ボタンとリボン」/山本さんと牛乳/「イースラー・パレエド」/のびやかに明るく/古木鐡太郎全集/童心/文章の力/井上さんを偲ぶ///あとがき

なれそめ

今年になって読み始めた庄野潤三さんの作品ですが、随筆集は「野菜讃歌」「自分の羽根」「庭の山の木」「クロッカスの花」に続いて5作目ということになります。

「自分の羽根」(1968年)から「野菜讃歌」(1998年)まで、実に30年もの時間差があるのですが、庄野さんの随筆は、不思議にスタンスが全然ぶれることなく、自分の世界観を貫いています。

それは、今回の「誕生日のラムケーキ」(1991年)でももちろん変わらず。

物事との接し方も、好きな文学も、どこまでも庄野流というものがあって、だからこそ、庄野さんのエッセイ集は、どの本のどの作品を読んでも納得させられるのだと思いました。

本の壺

心に残ったせりふ、気になったシーン、好きな登場人物など、本の「壺」だと感じた部分を、3つだけご紹介します。

どんな小さなことであれ、喜びの種子になるものを少しでも多く見つけて、それをたたえる。

世の中生きている間には、いやなことやグチをこぼしたくなることも多いが、言っても仕方のないことは言わない。それより、どんな小さなことであれ、喜びの種子になるものを少しでも多く見つけて、それをたたえる。そのことによって生きる喜びを与えられ、元気づけられる。そういう生き方をしたいと思ってやってきました。(「喜びの種子を見つけて」)

朝日新聞夕刊「余白を語る」(1989年(昭和63年)4月1日掲載)。

庄野潤三という作家の生き方は、多くの作品上で繰り返し表現されていますが、朝日新聞の夕刊に掲載された小さなコラムには、まさしく庄野文学の真髄が描かれています。

言っても仕方のないことは言わない。

どんな小さなことであれ、喜びの種子になるものを少しでも多く見つけて、それをたたえる。

そして、そのことによって生きる喜びを与えられ、元気づけられる。

これは、まさしく庄野文学そのもので、庄野さんの生き方そのものであっただろうと思います。

こういう素晴らしい作品があるから、庄野さんの随筆集を読むのがやめられないんですよね。

青柳瑞穂さんの『ささやかな日本発掘』は、私の好きな随筆集で、この本が身近にあると思うだけで心が豊かになるような気がする。

詩人で「クレーヴの奥方」やモーパッサンの小説などフランス文学の翻訳が多く、また日本の古美術の鑑賞家、目利きとして知られた青柳瑞穂さんの『ささやかな日本発掘』(昭和35年・新潮社)は、私の好きな随筆集で、この本が身近にあると思うだけで心が豊かになるような気がする。(「やきもの好き」)

「東京新聞」1987年(昭和62年)1月5日。

暮らしの中の「喜びの種子」を探し続けた庄野さんは、自分の好きな本について、随筆の中で紹介することも多かったようです(嫌いな本、面白くなかった本のことは、わざわざ書かない)。

庄野潤三というフィルターを通して紹介された本は、それだけで読む価値がある。

庄野さんが紹介する本を次々と読んでみて、今、僕はそんなふうに感じています。

そして、庄野さんのおかげで、僕自身の読書の幅が、今年1年間で飛躍的に広がったことを、とてもうれしく感じています。

青柳瑞穂さんの「ささやかな日本発掘」は、講談社文芸文庫版で購入しました。

created by Rinker
¥905
(2021/02/25 19:36:12時点 Amazon調べ-詳細)

何しろ福原さんが興味を持っておられることが分かっただけで、これは面白そうだと思ってしまう。

福原さんがイギリスの文学についてお書きになる。それを読むと、イギリスのその作者も作中人物も俄に身近な、親しい存在になるから不思議だ。何しろ福原さんが興味を持っておられることが分かっただけで、これは面白そうだと思ってしまう。そうして、もっと詳しくそれについて知りたくなる。大それたことといわねばならない。(「文章の力」)

沖積舎「福原麟太郎随想集・野方閑居の記・栞」1987年(昭和62年2月)。

庄野さんは、福原麟太郎さんについて、非常にたくさんの文章を残されています。

そして、そんな庄野さんのエッセイを読んでいると、「庄野さんは本当に福原さんのことが大好きだったんだなあ」とか、「庄野さんにとって福原文学は、喜びの種子の塊みたいなものだったんだなあ」と、つくづく思ってしまうのです。

福原麟太郎さんという作家を知ることができたこと。

庄野潤三さんの本を読むようになって最大の収穫かもしれません。

読書感想こらむ

「誕生日のラムケーキ」には、1980年代後半に書かれた短いエッセイが多く収録されています。

今から30年以上前に発表された作品がほとんどですが、不思議と時代の違和感というものを感じることはありません。

そもそも、庄野さんのエッセイは、時代を意識して書かれていないということが、その最大の要因でしょう。

タイムレスに楽しむことができる、優しくて温かいエッセイ集。

それが、庄野さんのエッセイ集の魅力ということができそうです。

まとめ

「誕生日のラムケーキ」は、庄野潤三さんの随筆集です。

「喜びの種子」になるようなことだけを探して書かれた、優しくて温かいエッセイたち。

疲れた心を癒したい人にお勧め。

著者紹介

庄野潤三(小説家)

1921年(大正10年)、大阪生まれ。

「第三の新人」として活躍。

「誕生日のラムケーキ」刊行時は70歳だった。

created by Rinker
¥1,280
(2021/02/25 19:36:11時点 Amazon調べ-詳細)

ABOUT ME
じゅん
じゅん
札幌在住の文化系社会人。文学散歩とカフェ読書を楽しんでいます。札幌中央図書館の2階辺りに棲息中。