村上春樹の世界

「柴田元幸ベスト・エッセイ」翻訳家が語るアメリカ文学やロックとは?

言葉をめぐり膨らむ妄想。例文が異常に面白い辞書。「貧乏」と「貧乏性」の違い。名曲の斬新すぎる解釈。そして工業地帯で育った日々の記憶。講談社エッセイ賞受賞作『生半可な学者』、ロックの偉人たちを愛とユーモアたっぷりに語る『ロック・ピープル101』収録作をはじめ、翻訳家として知られる著者が、1980年代から現在まで様々な媒体に発表したエッセイから自選した、文庫オリジナル決定版。(『柴田元幸ベストエッセイ』より)

書名:柴田元幸ベスト・エッセイ
著者:柴田元幸(編著)
発行:2018/10/10
出版社:ちくま文庫

作品紹介

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「柴田元幸ベスト・エッセイ」は、翻訳家として知られる柴田元幸さんのエッセイ集です。

1980年代以降、いろいろな機会に発表された散文が1冊にまとめられていて、統一感まったくなし、ページを開くと話題が変わるという構成。

紙面の隙間を埋めるために書かれたような短いコラムも多く、まさし隙間時間を埋めるための読書にはぴったりだと思います。

(目次)「1 日々の実感」狭いわが家は楽しいか/生半可な学者/ミルキーはママの味/ボーン・イン・ザ・工業地帯/考えもしなかった/目について/あの時は危なかったなあ/そうなったら、なぜ、とは問うまい/ジェネリック/[音楽的休憩]チャック・ベリー/「2 文化の観察」アメリカにおけるお茶漬けの味の運命/甘味喫茶について/聞こえる音、聞こえない音/そして誰もいなくなった/文庫本とラーメン/[音楽的休憩]ビートルズ/「3 勉強の成果」ドゥ・イット・ユアセルフ・ピンチョン・キット/異色の辞書/貧乏について/風に吹かれて/消すもの、消えるもの/コリヤー兄弟/自転車に乗って/フィラデルフィア、九十二番通り/活字について/鯨の回想風/水文学について/[音楽的休憩]キンクス/[音楽的休憩]ハーマンズ・ハミッツ/「4 教師の仕事」ある男に二人の妻がいて/死んでいるかしら/タバコ休憩中/くよくよするなよ/[音楽的休憩]クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル/[音楽的休憩]フェアポート・コンヴェンション/「5 不明の記憶」ロボット/どくろ仮面/バレンタイン/ホワイトデー/テイク・ファイブ/文法の時間/京浜工業地帯のスチュアート・ダイベック/納豆屋にリアリティを奪われた話/ラジオ関東の記憶/ワシントン広場の夜は更けて/「巻末」回顧的解説/出典一覧

「東大の先生って、割とくだらないこと考えてるんだなあ」的なノリで楽しめますよ。

なれそめ

柴田元幸さんを初めて知ったのは『翻訳夜話』(2000年、文春新著)を読んだとき。

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『翻訳夜話』を読もうと思ったきっけかは、村上春樹さんとの共著だったから

つまり僕は、村上春樹さんからの繋がりで柴田先生の作品に入っていった人間だったわけです。

本書『柴田元幸ベスト・エッセイ』は書店の棚で見つけて購入しました。

短いエッセイを集めたエッセイ集が大好きだし、柴田先生の作品もそれなりに読んでいるので、「まあ、読んでおく価値はあるよね」くらいの軽いノリでしたけど、正直に言って。

村上春樹さんのエッセイもどうでもいい話題が多いけど、柴田先生のエッセイも村上さん以上にどうでもいい話題が多いですね、はっきり言って(笑)

心のゆとりが欲しい人におすすめです。

本の壺

本書を読んで、僕の壺だと感じた部分を3か所だけご紹介します。

どうして読書感想文を書くのか?

そもそも、なぜ本だけはいちいち「感想」を持たねばならないのか? 音楽、絵画、映画、ダンス、その他文化的産物はみなそうだが、本もやはり、もっともらしい言葉(感想)にする前に、まずは「味わう」べきものだと思う。もっといえば、一冊の本を読むというのは、一杯のラーメンを食べるのと大して変わらない行為だと考えたい。「ああうまかった」「ああまずかった」が、「ああ面白かった」「ああつまんなかった」というふうに、言葉がちょっと入れ替わるだけの話である。(『文庫本とラーメン』)

テーマは中学や高校時代の「読書感想文」について。

著者は、どうして読書にだけ感想文を書くことを求めるのか?という学校教育の在り方について、ラーメンと文庫本を比較しながら、その意義や必要性を追求しています。

正直に言って「どうして読書感想文を書くのか?」なんていう理由まで考えたことはありませんでした。

「短距離走」といえば走るものだし、「合唱コンクール」と言えば歌うものだったので、読書感想文も、ただ書くものでしかなかったような気がします。

考えてみると、短距離走も合唱も工作も演劇も自分たちで経験すること(実技)は可能だけれど、「小説を書くこと」は子どもたちにとってなかなか難しいかもしれませんね。

「小説を書く」代わりとして「小説を読んだ感想を短い文字数の中で書く」というのが、読書感想文の意義のように思います。

俳句や短歌は授業の中で自作可能なので、あまり読書感想文の対象にはならないだろうし。

ラーメンと文庫本との類似性についての指摘は斬新で、「いつの時代でも、薄めの文庫本は普通の醤油ラーメンあたりと、厚めのやつはチャーシューメンあたりと、価格的にもだいたい対応している」というのは、なるほどと思いました。

ラーメンも文庫本も気軽な庶民の味というわけですね。

イノセンスを具現化したハーマンズ・ハーミッツ

ハーマンズ・ハーミッツを食べ物にたとえれば、「けっこう美味しいジャンク・フード」である。『芸術的』に何があるのか、と問われれば黙り込むしかない。(『「音楽的休憩」ハーマンズ・ハーミッツ』より)

本書には「音楽的休憩」と題された音楽コラムが随所に挿入されていますが、このコラムが個人的にはすごく好きです。

初出は『ロック・ピープル101』(1995、新書館)に掲載されたものですが、アメリカ文学者によるロック・ミュージック論というのは、なかなか楽しいものです。

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本書掲載の中ではハーマンズ・ハーミッツ

毒にも薬にもならない「イノセンス」を具現化したロックバンドとして有名ですが、僕は案外彼らの毒にも薬にもならないイノセンスなポップ・ミュージックが好きです。

だって、社会的メッセージとか高等テクニックとか無秩序的な破壊力とか、いつもいつもそんなややこしいことばかり考えて音楽を聴いていたいわけじゃないから。

「♪ミセス・ブラウン、素敵なお嬢さんをお持ちですね、残念だけど彼女はもう僕のことを愛していないって言うんです、僕があげたプレゼントもみんな返すって言ってるんですけど、取っておいてと伝えてください、でも僕が悲しんでることは言わないで……~」と、元カノのお母さんに話しかける『ミセス・ブラウンのお嬢さん』は、いかにも生徒会の役員的に純情で誠実な男の子をイメージさせてくれます。

終わった恋の心を空っぽの牛乳瓶に託す『ノー・、イルク・トゥデイ』も名曲。

映画『ゴースト/ニューヨークの幻』で幽霊になったサムが歌っていた『ヘンリー8世君』もハーマンズ・ハーミッツのヒット曲でした。

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喧嘩の下町から生まれた東大の先生

僕はいまや「天下の東大」の先生である。世間的には、めったに人に頭を下げなくてもいい、結構な身分である。でも、手拭いを頭に巻いたおじさんたちが黙々と旋盤を回している町工場の並ぶ、夕暮れの街並を自転車で走るとき、僕はいまも、三十年前の、勉強ができることだけが取り柄の、気の弱い、背が伸びないことを気に病んでいる子供に戻っている。(『ボーン・イン・ザ・工業地帯』)

本書を読んでいると、随所に柴田先生の少年時代が語られていて、その中で、少年時代の柴田先生は、大抵の場合「勉強だけが取り柄の少年」として描かれています。

「喧嘩と体育ができることが至上の価値である下町」で生まれ育った柴田少年にとって、かなりのアウェーな状態ですが、柴田少年の凄いところは、自分の取り柄である「勉強」を究極まで究めたことだと思います。

何事も究めることが最も大切で、そして、最も難しいことであるわけで、そこを乗り越えてきたからこそ、現在の柴田教授があるんだろうなあと感じました。

そんな柴田教授も「地元に戻れば今もアウェー」というのが、ちょっと愉快。

柴田少年のお話、本書では多々収録されているので、興味のある方はぜひご一読ください。

ちなみに本書は「厚めの文庫本」なので「チャーシューメン」あたりと同等の840円です(笑)

読書感想こらむ

子どもの頃から本を読むことが好きで、そして、文章を書くことが好きだった。

夏休みの「読書感想コンクール」は小学生の頃から入賞の常連で、大きなメダルをもらったことも何度かあった。

「将来は文筆業に就くんだろう」と周りの誰もが思っていたし、もちろん自分自身そう信じていた。

いつからだろう、文章を書くことが、ただの趣味になってしまったのは。

結局、僕は、自分自身のためだけにしか文章を書けない人間だったのだ。

まとめ

古いのから新しいのまで柴田元幸先生を楽しめる完全版のエッセイ集。

東大教授がいつも何を考えているのか、楽しめます。

いや、意外とくだらないことを考えているんだなあって(笑)

著者紹介

柴田元幸(翻訳家)

1954年(昭和29年)、東京生まれ。

アメリカ文学者で、東京大学名誉教授で、翻訳家。

本書出版時は64歳だった。

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じゅん
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庄野潤三生誕100年を記念して、読書ブログを立ち上げました。村上春樹さんと庄野潤三さんの作品をゆるゆる楽しんでいます。