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坂崎幸之助「和ガラスに抱かれて」コレクションを巡るエッセイ写真集

坂崎幸之助「和ガラスに抱かれて」コレクションを巡るエッセイ写真集

THE ALFEEの坂崎さんが集めた和ガラスコレクションの集大成。

明治・大正・昭和初期と時代を超えたノスタルジーが現代によみがえる。

趣味人・坂崎幸之助が綴る骨董市の世界とそこに集うディープな仲間たち。

著者:坂崎幸之助
書名:和ガラスに抱かれて~坂崎幸之助のガラス・コレクション
発行:2001/7/25
出版社:コロナ・ブックス(平凡社)

作品紹介

「和ガラスに抱かれて~坂崎幸之助のガラス・コレクション」はタイトルのとおり、THE ALFEEのメンバーである坂崎幸之助が蒐集した和ガラスのコレクションを、多くのカラー写真と文章で紹介するエッセイ写真集です。

ミニ自伝「コレクターができあがるまで」に始まって、「しょうゆびん」「リキュールグラス」「あられコップ」「コップ」「レース皿」「びん」「文房具」「コンポートなど」「灰皿」「おもちゃ」「かんざしなど」「ウランガラス」と続くカテゴリー別のコレクション紹介、「夢の蔵出し」「ガラス撮影騒動記」と体験談まで幅広く収録。

巻末には著者も通っている「おすすめ骨董市」のデータもあり。

本書に掲載されている膨大な数の写真と文章が坂崎さん本人による撮り下ろしと書き下ろしで、「ガラス撮影騒動記」ではその苦労話も詳細に報告されています(笑)

平凡社のコロナ・ブックス・シリーズ。

書名の「和ガラスに抱かれて」は、THE ALFEEの高見沢俊彦さんが作詞作曲を手掛けて、小泉今日子さんの歌でヒットした「木枯しに抱かれて」(1986年)へのオマージュだと思われます。

なれそめ

1990年代後半だったと思いますが、骨董の世界で異常なガラスブームみたいなものがありました。

その頃「骨董ファン」という、まさしく骨董コレクターのために作られているような雑誌が発行されていて、2000年6月に発売された号の特集は「涼と量の型ガラス」でした。

このときの特集の中で、アルフィーの坂崎さんが登場して、自慢のウランガラスコレクションを紹介しているのを読んで、「ああ、芸能人もガラスを集めるんだなあ」と漠然と感心したものです。

翌年、その坂崎さんのコレクションが書籍化されると聞いて発売直後に購入、この本を読んで僕も随分と勉強させてもらいました。

明治・大正・昭和初期という近現代の純然たる生活雑貨であるガラス製品を、こうしてコレクター目線で体系的に整理された資料って、実はなかったんですよね。

その頃は、僕もガラスのコレクションのようなものを始めていて、特に、子どものおもちゃみたいに小さなものを中心に集めていましたから、本書の「おもちゃ」の項目は何度も何度も繰り返し読んで勉強しました。

物欲をそそられる恐ろしい本であることは確かでしたが(笑)

本の壺

「和ガラスに抱かれて」はマニアックな骨董コレクターだけでなく、一般の人が読んでおもしろいエッセイ集として書かれています。

和ガラスの世界を知る

本書を読んで最初に驚かされるのは、坂崎さんが蒐集した和ガラスコレクションの圧倒的なボリューム感です。

どんだけガラスが好きなんだ!っていうガラス愛が写真だけで伝わる、絶対的物量の世界が、この1冊の本の中には詰め込まれています。

次に、その膨大なコレクションを細かくジャンル分けしている繊細な仕事ぶりに、再び驚かされます。

いきなり始まる「しょうゆびん」のディープな世界にやられた!と思う読者も少なくないはず。

その「しょうゆびん」にも様々なデザインのものがあり、中には非常に希少なものも含まれているということを嬉々として綴る坂崎さんのコレクターぶりはハンパありません。

茶色の樽型のしょうゆびんは、とても珍しいものです。無色のものはだいたい相場が決まっているのですが、それでも数はあまりありません。あるときその茶色が出たんです。(略)とにかく他の人に見られたらそれまでだ。「何だ何だ、待って待って!」って急いでそこに向かい、あっという間に手に入れました。(坂崎幸之助「和ガラスに抱かれて」)

すごい臨場感が伝わってくる文章も素晴らしい。

単にガラス雑貨と言っても種類が多いので、普通のコレクターは蒐集の対象を絞り込むのが普通ですが、坂崎さんのコレクションは、近現代の和ガラスだったら手当たり次第に入手するという、ある意味でミュージアム的手法をいかんなく発揮しています。

そもそも普通の家庭では、既に収蔵できないレベルですから、この物量は。

でも、おかげで、ここまで体系的な和ガラスの資料本が完成したんだと思います。

骨董市の世界を知る

坂崎さんの文章は気取りがない上に、語り口調の読みやすいものなので、読み物として楽しいという特徴があります。

肩肘張らないエッセイって、こんな本のことを言うんだろうなと思います。

特に、ガラスのお宝を探して各地の骨董市を訪ねる体験談は、コレクターだからこそのおもしろいエピソードがたくさん。

「どう見ても明治のものだろうと思われる型吹きの小さな乳白のコップ六個が川越の骨董市でかなりの安値で出」ていて、一緒に行っていた師匠格の骨董屋さんに「すぐ買ってきて!すぐに買わなきゃだめだよ」っ怒られたなんていう話が随所に登場していて、坂崎さんの骨董市巡り、きっと楽しいんだろうなって、すごく感じてしまいます。

坂崎流の骨董市の流儀は「一回値切ってみて断られたらそれ以上値切らないこと」だそうで、「値切りの目安は、ぼくはだいたい一、二割かなって思ってます」とのこと。

骨董コレクターあるあるですが「遠くの朝市にも、荷ほどきの時間に間に合うように暗いうちに出かけていきました」なんて書いているのを読むと、本当にコレクターなんだなって思います。

お金持ちのコレクターの中には、親しい骨董屋さんにまとまったお金を渡しておいて「適当に買っておいてくれ」なんて人もいるらしいですが、坂崎さんは自分の足と目と言葉で、好きな骨董品を探し歩いている

坂崎さんにとって骨董市は「日頃のめっちゃくちゃな毎日から解き放たれる、ちょっとした幸せなひととき」なんですね。

和ガラスの魅力だけではなく、骨董市の楽しさということも、ぜひ、本書からも学びたいものです。

骨董仲間の温かさを知る

本書には、坂崎さんの骨董仲間が随所に登場して、話を盛り上げてくれます。

興奮すると声をひっくり返して叫ぶ、ガラスの師匠「W島」さん、坂崎さんのツボをよく知っているR子お姉さん、ガラス瓶コレクターとして著名なS司先生、寄木細工・箱根細工のコレクターである考古学者のK子先生、、、

坂崎さんの周りには、いつでも温かい骨董仲間が集っているようです。

業者の人もコレクターの人も、偉い学者さんも芸能人も一般庶民も、骨董という世界に入ってしまえばみんな仲間。

坂崎さんのエッセイには、そんな仲間に支えられてきたガラス収集の歴史が語られているような気がします。

どんな世界でも同じかもしれませんが、趣味にはやっぱり仲間の存在が大きいし、楽しい仲間と一緒だからこそ、趣味は一層に楽しいものなのかもしれませんね

読書感想

坂崎さんの「和ガラスに抱かれて」を読んでから、僕が集め始めたものがあります。

それは「古いおはじき」です。

もともと、ままごと道具みたいな子どものおもちゃが好きだったんですが、本書を読んでから意識的に古いおはじきを集めるようになりました。

なにしろ小さくて場所を取らないので、庶民コレクターにぴったり。

小さな貝に彩色した江戸時代のおはじきとか、ラムネ瓶の形をした明治時代のおはじき、アルファベットや数字をプレスしたもの、ガラスをぶつ切りにして転がしたようなもの、戦争中の陶器製のおはじき、戦後間もない時代のおはじきなど、おはじき集めも始めてみてから、なかなか奥が深いものであることを知りました。

僕をおはじきの世界に導いてくれた坂崎さんに感謝です。

それにしても、坂崎さんの綴るエッセイの楽しいこと、おかしいこと。

実は、本書は楽しいだけではなくて、ガラスコレクターならではのマニアックな指摘も多々掲載されています。

レース皿は和ガラスか、中国や東南アジアで製造されている今ものか、あるいは「古渡り」なのかという、レース皿についての考察など、まるで研究者のような視点でコレクションのガラスを深く掘り下げていて、意外と研究書として実用できるレベルの内容です。

だけど、僕はやっぱりこの本は、骨董好きなおじさんの愉快な骨董体験エッセイとして読みたいと思います。

物欲をそそられることは間違いないけれど、読み終わってすごく温かい気持ちになることができる1冊だと思うから

「骨董市ってどんな世界かなあ」と考えている骨董初心者未満の方にお勧めしたい、和ガラスの入門書です。

ちなみに、坂崎さんの和ガラスの世界は、ウェブでも楽しむことが可能です。

THE ALFEE 坂崎幸之助 和ガラス コレクション展 [データベース]
https://sakazakiwaglass.blog.fc2.com/

まとめ

読んで楽しい、観て楽しい、充実のエッセイ写真集。

意外と身近な近現代の和ガラスの世界。

本を読んで、骨董市に出かけよう。

著者紹介

坂崎幸之助(ミュージシャン)

1954年(昭和29年)、東京生まれ。

THE ALFEEのアコースティックサウンドのキーマンで、ギターの収集家としても有名。

カメラ収集のほか、魚類や爬虫類の飼育もたしなむ趣味人。

本書発行時は47歳だった。

ABOUT ME
じゅん
じゅん
札幌在住の文化系社会人。文学散歩とカフェ読書を楽しんでいます。札幌中央図書館の2階辺りに棲息中。