庄野潤三の世界

「小川洋子の陶酔短編箱」~庄野潤三「五人の男」収録

「小川洋子の陶酔短編箱」あらすじと考察

小川洋子編著「小川洋子の陶酔短編箱」読了。

題名どおり、小川洋子の選による短編小説のアンソロジーで、庄野潤三の「五人の男」が収録されている。

一流の作家陣によるマニアックな作品群

短編と短編とが出会うことでそこに光が瞬き、どこからともなく思いがけない世界が浮かび上がって見えてくる。『陶酔短編箱』がそういう一冊になってくれるのを、心から願っている。しかし本音を言えば、実は何の心配もしていない。素晴らしい作品が一箇所に集まれば、彼らは無関係ではいられなくなる。必ず互いに作用し合う、と確信しているからだ。(小川洋子「私の陶酔短編箱」)

アンソロジーの魅力は、どの作家の、どの作品を収録するかということに尽きるが、本書に収められた16篇は、いずれもマニアックな作品ばかりが集められているのが特徴だろう。

作家に関しては、一流どころに間違いなく、葛西善蔵や泉鏡花、梶井基次郎、木山捷平、井伏鱒二、武田泰淳、庄野潤三、武者小路実篤と、純文学の人気作家の名前が並んでいる。

川上弘美や岸本佐知子、日和聡子、小池真理子など、現代の人気作家が、歴史的人物と一緒に名を連ねることで、アンソロジーの魅力が生きてくる。

問題は作品の選定だ。

庄野潤三の「五人の男」は、確かに名作だが、知る人ぞ知る作品というか、夫婦の晩年シリーズしか読んだことのない新しい読者には、馴染みが薄い作品に違いない。

そう思いながら、他の作家の作品を読んでいくと、一癖も二癖もありそうな作品が、ずらりと並んでいることに気付く。

短編小説というのは、小説家の代表作とはなりにくい反面、作家の好きなものを自由に書くことができる分野ということもできる。

時間が経つと、入手が難しくなってしまうのも短編小説の特徴だから、古い時代の作品を収録した、こういうアンソロジーは貴重だと思う。

もし彼ら五人の中の一人の逢びきするとしたら誰がいいだろう

垂直であれ平面であれ、とにかく移動を拒否しているのは「五人の男」たちだ。彼らは庄野潤三さんの記憶の中にどっしり根を下ろしている。名前も知らず、会ったことさえないにもかかわらず、男たちの根は深く、切り倒したとしてもすぐにまた新芽を出す。彼らは絶対に枯れない樹木なのだ。もし彼ら五人の中の一人の逢びきするとしたら誰がいいだろう、と私は空想する。漢字に弱いあの人がいいか、それともがらがら蛇を愛するあの人か…。しかもただの逢びきではない。荒神様の前でズロースについて語り合うのだから、やはり肝の据わった男でなければ成り立たない…。(小川洋子「私の陶酔短編箱」)

編者がどうしてこの作品を選出したのか。

そんなことを想像してみるのも、アンソロジーの魅力というものだろう。

書名:小川洋子の陶酔短編箱
編著:小川洋子
発行:2014/1/30
出版社:河出書房新社

ABOUT ME
やまはな文庫
元・進学塾講師(国語担当)。庄野潤三生誕100年を記念して、読書日記ブログを立ち上げました。いつか古本屋を開業する日のために、アンチトレンドな読書ライフを楽しんでいます。