庄野潤三の世界

NHK趣味どきっ「本の道しるべ」読書を語ると人となりが分かる

NHK趣味どきっ「本の道しるべ」読書を語ると人となりが分かる
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NHK出版
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NHKの「趣味どきっ」で読書がテーマとして取り上げられたのは、2020年10月から11月にかけてで、番組名は「こんな一冊に出会いたい 本の道しるべ」だった。

文化系の男女から人気のある菊池亜希子さんがナビゲーターで、毎回、読書好きの著名人が自分の好きな本を紹介するという番組だった。

コロナ禍の中、「ステイホーム」が合言葉となって、「おうち時間」が増えたことから、読書に対する注目度が上がっているということらしい。

ここでは8人の読書好きが登場しているが、本に対する向き合い方は様々である。

例えば、作家の平松洋子の場合、「一度に7~8冊の本を並行して読むのが常」で、六花亭のお菓子の小さな空き缶に付箋紙を入れたり、旅先から持ち帰った紙片を栞として使ったりと、独自のスタンスで読書を楽しんでいる。

アイドル時代に「当時人気があったジョン・アーヴィングやポール・オースターといったアメリカ文学や、村上春樹さんを好んで読んでいました」という渡辺満里奈の本棚には、食に関する本が多く並び、「池波正太郎さんの食エッセイはかなり読みました」とコメントしているが、好きな本として、リチャード・ブローティガンの「バビロンを夢見て 私立探偵小説1942年」が入っているところがうれしい。

普段は分からない人となりが読書から見えてくる。

本書は、そんな素敵な本だ。

菊池亜希子と「ザボンの花」(庄野潤三)

「大切な本は、そのときどきで変わりますが、今、選ぶなら」と前置きのうえ、紹介してくれた一冊。昭和30年代、3人の子どもがいて、東京郊外に暮らす家族の物語です。菊池さんが一言で説明すると、「すごく美しく情景を切り取った『サザエさん』」なのだとか。「今、こういう物語を自分はつむいでいる真っ最中と思わせてくれる大切な小説です。大きな事件が起こるわけではないんですが、幸福ってこういうことかな?って感じます」(菊池亜希子さんの今、お気に入りの5冊と、大切な一冊)

菊池亜希子さんの好きな本の中には、きっと庄野潤三の小説が入っているのだろう。

ずっと前から、なんとなく漠然と、そんなことを考えていたから、大切な一冊が「ザボンの花」だということを知ったとき、「やはりな」と思った。

庄野潤三の小説には、昭和レトロな喫茶店と同じ、ゆったりとした時の流れがある。

菊池亜希子は「読書は洋服選びと似ている」と言う。

無理をするのではなく、自分が読みたいものを読めばいい。

そんな寛容なスタイルも、庄野潤三の小説に出てくる登場人物のようだ。

穂村弘と「長いお別れ」(レイモンド・チャンドラー)

例えば、武井武雄だと、母子手帳とか広告も手がけているので、本という体裁ではないものにも広がっていきます。そういう『紙もの』ってあるでしょう? 古書店には、知らないだれかがつくったスクラップブックとか古い手紙とかあるし、アートブックフェアに行けば一点ものの作品もある。そういうのは、絵画を買う感覚に近いんです。(穂村弘「モノとしての本と読む本と」)

歌人・穂村弘の読書の幅は広い。

絵本やタイポグラフィ、写真集や画集から始まった本の話は、心理学やハードボイルド小説、少女漫画へと広がり、やがて、本ではない「紙もの」の世界へとつながっていく。

お気に入りの本は、大島弓子の少女漫画「綿の国星」で、第一歌集「シンジケート」の帯の推薦文は、大島弓子に依頼して書いてもらった。

レイモンド・チャンドラーの「長いお別れ」もお気に入りの一冊で、「無意味なシーンの描写」がおもしろいという。

チャンドラーの小説から「日常ってそういう徒労の連続で、それが現実」と教訓をモノにするあたりは、歌人の繊細な感覚に裏打ちされたものだろうか。

読書を語ると、その人が分かる。

人に知られて恥ずかしくない読書を心がけたいものだ。

書名:NHK趣味どきっ こんな一冊に出会いたい 本の道しるべ
発行:2020/10/1
出版社:NHK出版

ABOUT ME
やまはな文庫
元・進学塾講師(国語担当)。庄野潤三生誕100年を記念して、読書日記ブログを立ち上げました。いつか古本屋を開業する日のために、アンチトレンドな読書ライフを楽しんでいます。