読書感想文

行方昭夫「サマセット・モームを読む」分かりやすい文学講座を書籍化

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行方昭夫「サマセット・モームを読む」読了。

岩波セミナーブックス「サマセット・モームを読む」は、2008年に開催された岩波市民セミナー「サマセット・モームを読む」の講座を書籍化したもので、講師である行方さんの解説によって、モーム作品をより深く理解できるような内容となっている。

採り上げられている作品も「人間の絆」「月と六ペンス」「サミング・アップ」「かみそりの刃」「赤毛 大佐の奥方」と代表作が並んでいるので、これからモーム作品を読んでいくにあたっても、非常に実用的な解説書として使うことができそうだ。

理知的で話の面白さを得意とするモーパッサン流の代表はモームというのが定説です

近代の短篇小説は、ロシアのチェーホフを代表とする、情緒的で人生の漠然たる感じを伝えるものと、フランスのモーパッサンを代表とする、理知的で話の面白さを得意とするもの、とに大別できます。イギリスの短篇でのチェーホフの系譜の代表はキャサリン・マンスフィールドで、モーパッサン流の代表はモームというのが定説です。(「赤毛 大佐の奥方」)

僕が普段愛読している庄野潤三の短篇小説には落ちがないものが多い。

ストーリーで読ませるのではなく、人生の味わい深さを伝えることに重点を置いているからで、その点、庄野さんはチェーホフ流の作家ということになる(実際に庄野さんはチェーホフを愛読していた)。

モームは「イギリスのモーパッサン」と評されるほど、巧みな物語の語り手(ストーレー・テラー)であった。

モームが、その作品の中で描こうとしたものは、「矛盾の塊」である人間の本質を暴露することにあったという。

善人の中にひそむ悪、あるいは、悪人の中に存在する善良さ、人間はそうした矛盾を抱えた生き物である、というのがモームの人間観だった。

モームの短篇でもっとも有名なものは「雨」ですが、「赤毛」もそれと並ぶと私は考えています。

モームの百点を越える短篇の中でもっとも有名なものというと「雨」だと思いますが、「赤毛」もそれと並ぶと私は考えています。南海もののひとつです。物語の語り手としてのモームの冴えを示していると同時に、モームの人間観、男女関係に対する見方を露骨にまで示している傑作です。(赤毛 大佐の奥方)

セミナーの中で、講師の行方さんは、物語の梗概を簡単に示した上で、作品の持つ問題点を具体的に示しながら、自分の考え方を説明していきます。

この講座の進め方が非常に分かりやすくて、まだ読んだことのないモームの作品を読んでみたいと思わせる作りとなっている。

講師による考察の後には、会場の参加者からの質問に答える質疑応答があって、この質疑応答が講座への理解をより深める内容となっているので、とてもありがたいと思った。

(質問)「モーム慣用句辞典」は、今も手に入りますか?

昭和四十年に大学書林から出た本で、著者は荒牧鉄雄という方です。モームの英語には慣用句が多いのですが、以前は普通の英和辞典には慣用句があまり出ていなかったので、こういう辞典の需要があったのです。現在はどの英和辞典にも慣用句が多く出るようになりました。付録の全短篇の解説は時に主観的な断定がありまして、かえって面白いですよ。入手困難ですが、図書館にはあるでしょう。(「赤毛 大佐の奥方」)

セミナーでは、モーム作品の解説のみならず、モームに関する参考書の話まで出ているので、かなり実用的である。

映画化されたモーム作品のことなど、モーム愛好家であれば、きっと喜ぶだろうという話題がたくさん出てくるので、モームが好きだという人や、これからモームを読みたいと思っている人には、非常にお勧め。

実は、今回、行方さんのモーム関連著作を、何冊かまとめた読んだのだけれど(「モームの謎」「モーム語録」など)、この「サマセット・モームを読む」が、最も実用的だと感じた。

さて、この後は、実際にモームの作品を読んでいくこととしよう。

書名:サマセット・モームを読む
著者:行方昭夫
発行:2010/6/29
出版社:岩波書店(岩波セミナーブックス)

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じゅん
庄野潤三生誕100年を記念して、読書ブログを立ち上げました。村上春樹さんと庄野潤三さんの作品をゆるゆる楽しんでいます。