行動経済学という言葉を知っていますか?
行動経済学は「経済学」に人間の心理や行動を反映させた、新しい経済学です。
おもしろくてカンタン、「イチキュッパ」は本当にお得か? 長蛇の列でも並ぶ人がいるのはなぜ? BGMがゆっくりだと売り上げが増える? 人の心で動く経済の話。(表紙より)
書名:マンガでわかる行動経済学
著者:ポーポー・ポロダクション
発行:2014/12/25
出版社:サンエス・アイ新書
作品紹介
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「マンガでわかる行動経済学」は、行動経済学とは何か?を紹介する、行動経済学の入門書です。
経済学とは、お金の流れを論理的に考える学問のことですが、実際のお金の流れは、人間の心理によって大きく変わることが知られています。
例えば、所持金100万円の人がもらう1万円と、所持金100円の人がもらう1万円。
経済学上は、どちらも同じ1万円の価値でしかありませんが、実際の価値観は、状況によって大きく異なるはずですよね。
そういうことをきちんと分析していくのが、行動経済学です。
近年、こうした行動経済学の視点は、様々な分野で有効だと言われています。
「マンガでわかる」とタイトルにありますが、実際は補足のために四コマ漫画が挿入されている程度で、実際はきちんとした文章で説明されています。
なれそめ
僕の仕事は、組織の中の人事管理ですが、最近は、人材確保や人事配置にも行動経済学の視点を求められることが多くなりました。
人事上で最も効果のある取組は「給料を高くすること」だと、一般的には考えられていますが、必ずしも給料の金額を上げるだけで優秀な人材が集まるわけでも、組織の効率性が上がるわけでもありません。
少子高齢化が進む中、どこの組織にとっても人材確保は最重要課題となっているので、おそらくどこの組織も、これまでにない斬新な取組が求められているはずです。
そんなことを考えて、読み始めたのが行動経済学の本です。
「マンガでわかる行動経済学」はタイトルのとおり、初心者用の入門書です。
この本を入り口にして、少しずつステップアップしていくことで、行動経済学の世界を楽しむことができるようになりました。
最初は仕事で必要だからという理由で入りましたが、なかなか深みにはまりそうな世界ですよ(笑)
本の壺
心に残ったせりふ、気になったシーン、好きな登場人物など、本の「壺」だと感じた部分を、3つだけご紹介します。
最初に提示された数字の影響を受ける
私たちはなにかを予測するときに、最初に提示された数字の影響を強く受け、その後の判断に影響をおよぼすことがよく知られています。提示された数字がまるでアンカー(船のいかり)のように働き、その数字の海域にとどまってしまうので、次の予測に影響を与えて(調整して)しまうのです。(「アンカリング効果」)
よくあるのがセール品で、元値の隣に割引後の金額が書かれていると、その割引率が大きいほど、僕たちはお得な買い物だと思い込んでしまいます。
定価が適正価格かどうか分からなくても、とにかくお得だと思い込んでしまうわけです。
(セール価格には「赤文字効果」と呼ばれる色彩心理も影響しています)
そういえば、僕が現在の新築分譲マンションを購入したとき、200万円の値引きで購入しました。
全戸完売後にキャンセルが出て、すぐに売却したいとの説明でしたが、結局この200万円値引きが背中を押して、僕はこのマンションを購入しました。
冷静に考えてみると、200万円値引き後の金額も、あらかじめ決めていた予算を大きく上回っていたのですが、不動産の割引額って大きいから、めっちゃアンカリングの効果を受けてしまいます(笑)
経験の最後の部分を記憶しやすい
これは行動経済学でいう「ピークエンドの法則」です。経験で得た「よい」「悪い」という印象は、その時間の長さではなく、感情のピークとその経験の最後に焦点が当たり、快苦の状態を記憶しやすいというものです。(「ピークエンドの法則」)
先日、大きなプレゼンテーションで緊張して、後段グダグダな説明になってしまいました。
我ながら落ち込んでいるとき、僕の提案を聞いていた取引先の代表の方が「素晴らしい内容だ」と絶賛してくれて、結局、その取引は成功しました。
同席していた上司も「素晴らしいプレゼンだった」と称賛してくれましたが、これは明らかにピークエンドの効果だと思います。
結局、最後に輝いているということが、いちばん大切なことなんですね。
都合の良いことしか見えない
見たいものだけ見るというのは、都合よく現実を歪めて解釈することにつながります。たとえば自分の部署に1人だけ女性が配属されてきたとします。もともと女性に対して偏見を持っていると、女性はさまざまな行動をしているのにもかかわらず、自分の固定観念と合致するところを見かけると、それだけを抽出し「女性はやっぱり○○だな」という結論を持ってしまいがちです。(「確証バイアス」)
ビジネスを進める上で一番怖いことは「確証バイアス」に流されてしまうこと、つまり先入観とか固定観念にとらわれることだと考えています。
都合の良いことも悪いことも含めて、できるだけフラットに物事を見極めるように努めていますが、それでも実際の生活の中では様々なバイアスがかかってしまいます。
僕の場合、特にお気に入りの部下に対する確証バイアスが強い傾向があって、「彼ならきっとやってくれる」「彼女なら大丈夫」という判断に流されがちです。
それだけに、仕事の分担や人事配置を考える際には、いつも以上に固定観念を捨てて、客観的な事実と向き合うようにしているのですが、人間の確証バイアスというのは、なかなかに逆らえないほど強いみたいです、、、
読書感想コラム
経験値として分かっているようなことでも、理屈で理解するとより納得できる。
人間ってなかなか面倒くさい生き物だなあと思いますが、僕のビジネスは人間を相手にしているので、人間が何を考えて、どのような行動をしているのかということを理解することは、やはり重要なことだと思います。
もちろん、だからと言って、無意味に「アポフェニア」に振り回されないようにすることも必要です。
アポフェニアとは、無秩序の中に意味を見出す知覚作用のことですが、人間は「意味のないもの」に不安を感じ、意味のないものの中に、どうにかして意味を見出そうとします。
秩序化することによって、未来を予測することが可能になると考え、安心感を得ようとしているわけですが、そもそも無秩序で意味のないものに意味を見出す価値なんてないはずなんですよね。
ただし、理論的に理解しておくことで、自分の行動を一定程度制御できることは確かだと思います。
経済も感情で動いているということを理解すれば、損をしなくてよい場面で損をすることはなくなる。
とりあえず、ビジネスマンの方は読んでみてください。
きっと仕事に役立つ情報が見つかりますから。
まとめ
人間の心理を反映させた新しい経済学が行動経済学。
具体事例を用いた分かりやすい解説と、解説を補足するイージーなまんが。
ビジネスシーンを分析する上でお役立ちの発見がいっぱいです。
著者紹介
ポーポー・ポロダクション
「人の心を動かせるような良質でおもしろいものをつくろう」をポリシーに、遊び心を込めたコンテンツ企画を心がけている。
色彩心理と認知心理が専門で、心理学を活用した商品開発や企業コンサルタントも。
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