読書感想文

カニグズバーグ「Tバック戦争」自分の考えを発表しないという権利

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E.L. カニグズバーグ「Tバック戦争」読了。

12歳の少女クロエは、クラスの「髪の毛の誓約書」に署名したくないという理由で、フロリダのバーナテッドおばさんと一緒に過ごすことになった。

バーナテッドは、自動車を使ってホットドッグなんかの食べ物を売る、移動式の食品販売の仕事をしており、クロエもバーナテッドの仕事を手伝わなくてはならない。

ザックが経営するこの店で、バーナテッドは非常に優秀な店員だった。

しかし、あるとき、バーナテッドの売り上げを上回るライバルたちが現れた。

仲間の女性店員たちが、Tバック姿でホットドッグを売り始めたのだ。

港湾で働く男性客は、Tバックの女性からしかホットドッグを買わなくなってしまい、バーナテッドには大きな打撃となる。

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さらに、人気の「Tバック食堂」の噂を聞いた教会関係者が反対運動を始め、マスコミも巻き込みながら、小さな町は「Tバック派」と「反Tバック派」で二分されてしまう。

今や、会社の中では、ただひとりTバックを着用していないバーナテッドは、仲間たちからは一緒にTバックを着用して「連帯」するように求められ、教会関係者からはTバック反対運動に署名するよう求められるが、どちらの立場にも属することなく、自分の立場を守り続ける。

「わたしは、着たいと思っている人なら、誰でもバックを着る権利があると思っている。それと同時に、わたしが着たくないのであれば着ない権利がわたしにはある、と思っている。しかも、着ている人たちを応援しない権利も、わたしにはある。(略)わたしが何をどう考えようと、自分の意見に対して権利があるように、自分の考えを発表しない権利も、わたしにはある

かつて、弟(クロエの父親)と一緒に「ホウレン草の丘」というコミューンで暮らした過去を持つバーナテッドは、集団(組織)から裏切られることの恐ろしさを経験しており、最後まで自分自身を貫いてみせる。

それは「Tバック派」「反Tバック派」のどちらにも組しないという中立的な立場ではない。

どちらにも関わらないこと。

それがバーナテッドの生き方だった。

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クラスの「髪の毛の誓約書」に署名したくなくて、ウソをついて自分の町から逃げてきたクロエは、もう「署名したくない」とはっきりということを怖いとは思わなくなっていた。

本当に大切なものは、中途半端な「連帯」とかいう「絆」ではないということに気付いていたから。

社会を分断しかねない群衆心理の危うさ

本作「Tバック戦争」は、カニグズバーグが1993年に発表した作品である。

原題は「T-Backs, T-Shirts, Coat, and Suit」。

主義や主張に属することのない個人の大切さを「Tバック戦争」という奇抜な題材で扱っているが、背景にある中世の魔女狩りやベトナム反戦運動など、社会を分断しかねない群衆心理の危うさも、しっかりと描かれている(むしろストレートすぎるほどに)。

コミューンやベトナム戦争といった1970年代カルチャーがある一方で、Tバックやローラーブレイドなどの1990年代カルチャーが重要な素材として登場しており、バーナテッド世代とクロエ世代との意思の疎通といったところも、物語のポイントとなっている。

思春期の、いわゆる「難しい年頃の少女」であるクロエの微妙な心理描写は、さすがにカニグズバーグであって、「Tバック戦争」という社会的事件と相対したときの少女の繊細な心の揺れ動きにも注目したい。

書名:Tバック戦争
著者:E.L. カニグズバーグ
発行:1995/6/8
出版社:岩波少年文庫

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じゅん
庄野潤三生誕100年を記念して、読書ブログを立ち上げました。村上春樹さんと庄野潤三さんの作品をゆるゆる楽しんでいます。