日本文学の世界

井伏鱒二「木山捷平詩碑」庄野潤三も参列した除幕式の思い出

井伏鱒二「木山捷平詩碑」庄野潤三も参列した除幕式の思い出

井伏鱒二『文士の風貌』を読んでいたら、庄野潤三の名前が出てきた。

仲良しの二人だから、いろいろな場面で出くわしていたらしい。

もっとも、今回は亡くなった木山捷平の話である。

『文士の風貌』は、上京以来の七十余年に出会った文士たちについて、井伏さんが書いた文章を一冊にまとめた随筆集である。

単行本は、1991年に福武書店から刊行されているが、僕が読んでいるのは福武文庫版(1993年)である。

庄野さんの名前は、「木山捷平詩碑」という文章の中に出てくる。

昭和45年(1970年)11月14日に、木山捷平の詩碑の除幕式があった。

地元の参列者が集まる中で、東京からは井伏さんのほか、浅見淵や小田嶽夫、藤原審爾、庄野潤三などが出席していたと書かれている。

このときのことは、庄野さんも何かの随筆で書いていたはずだ。

雨が降ったり止んだりしていたので、参列者は除幕の行事を大テントの中から見たとある。

木山君のお孫さんで四つになるのが白いベレー帽を被り、傘をさしかける人に手をひかれながら碑の前に出て行った。大勢の人が見ているので歩を運ぶのに一生懸命になっていた。幕は時雨にぬれていたが、とにかくお孫さんが除幕の主役を無事に果たしたことを実証したい。みんな碑に向って拍手した。(井伏鱒二「木山捷平詩碑」)

碑が立てられたのは、岡山県笠岡市の古城山の頂だった。

普段は、城山とか城山公園と呼ばれているところらしい。

笠岡の湾内に突き出ている小高い山だから、干拓場と海上が一望できると、井伏さんは書いている。

碑面には、故人自筆の文字が刻まれていた。

杉山をとほりて
杉山の中に
一本松を見出でたり
あたりの杉に交じつて
あたりの杉のやうに
まつすぐに立つてゐるその姿
その姿がどうもをかしかりけり

そして、一行明きくらいで少し低めに「木山捷平」と彫ってあった。

この詩碑のことも、井伏さんの別の随筆か何かで読んだことがあるような気がする。

小説と違って、随筆というのは短くて数が多いから、記憶がごちゃごちゃになりやすいのかもしれない(と、頭の整理が悪いのを、随筆のせいにしておく)。

東京から参列した木山さんの友人たちは、代わる代わる碑の前に出て、傘をさしながら地味に抑えて祝辞を述べた、とあるから、このときに、庄野さんも祝辞を述べたものだろう。

雨の中の除幕式というだけで、人々の記憶に残りそうなところである。

まして、場所は遠くに海を見下ろす山頂の杉林の中だから、いかにも後世まで語り継がれそうな話だと思った。

いずれにしても、今から50年以上も昔の話である。

岡山県には一度も行ったことがないので、いつか行ってみたいと思う。

そのときには、城山にある木山捷平の詩碑にも、ご挨拶をしておこう。

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じゅん
庄野潤三生誕100年を記念して、読書日記ブログを立ち上げました。庄野潤三さんの作品を中心に、読書の沼をゆるゆると楽しんでいます。