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ジョン・ダニング「死の蔵書」本格派ハードボイルドの文学ミステリー

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ジョン・ダニング「死の蔵書」読了。

本書は、古本ミステリー小説である。

古本ミステリーとは何か?

古本業界に関わる人物が殺害され、古本業界に関わる人物の中、高価な古書を巡って事件が展開し、初版本コレクターでもある読書好きの刑事が事件の解決に挑む。

この小説のおもしろいところは、主人公の刑事クリフォードが、単なる読書好きのインテリ刑事というだけではなく、凶暴で強靭な悪党と格闘になっても、相手をボコボコにしてしまうほど、タフでワイルドなファイターだということだろう。

古本の中でも、とりわけ「文学とミステリーが好き」というだけあって、アメリカン・ハードボイルドの流れをしっかりと汲んだ主人公と言えそうだ。

犯罪に関するトリックにも趣向が凝らされていて、単なるハードボイルド小説に留まらない本格派ミステリーとしての楽しみも、しっかりと持っている。

謎解きが好きな人であれば、クリフォードと一緒に事件の謎解きに熱中することができるだろう。

などと、いろいろな特徴を並べてみたが、本書最大の見どころは、何といっても古本や古本業界に関する見識の広さである。

ミステリー小説としての一面の裏側に「古本小説」としての一面を持っている。

ジョン・ダニング「死の蔵書」ジョン・ダニング「死の蔵書」

例えば、主人公クリフォード刑事のアパートメントは、まるでデンヴァー市立図書館の別館のように、どの部屋の壁も本でぎっしり埋まっている。

並べられた本はいずれも初版本ばかりで、純文学だけではなく、新本同様のレイモンド・チャンドラー『湖中の女』のように、千ドルの値段が付くような高価な探偵小説まである。

荒んだ刑事の心の傷も、この部屋に入るとたちまち癒えた。

最初に殺されたのは、古本の掘出し屋ボブだった。

クリフは事件の手がかりを探して、ボブが出入りしていた古本屋を次々に当たっていく。

コールファックスの書店街には、実に様々な古書店が並んでいた。

クリフが掘出し屋ボブの姿を最後に見たのは、「シールズ&ネフ書店」でスタインベックの美本を見つけて、買おうかどうしようか迷っているときだった。

この店のシールズ・ルビーはもと麻薬中毒患者だったが、本の知識が豊富で、本屋としての見識があって、クリフの良き相棒として活躍してくれる。

「ブック・ヘヴン」は、スティーヴン・キングとその追随者—ディーン・R・クーンツやクライヴ・バーカーなど、いわゆる小君主(キング)たちの本を専門に扱っている。

今の時代、簡単に見つかって、かなりの値段で売れるのは現代文学であって、スティーヴン・キングの初版本にマーク・トウェインの初版本と同じ値段がつき、しかも、その十倍は売れるという。

主人公のクリフは、こうしたキング・ブームに「私の理解を超える何かがあるのだろうか」「『呪われた町』のような作品が、十ドルから千ドル近くまで値上がりした理由も検討がつかない」「ヘミングウェイの『老人と海』なら同じ金額で五冊買うことができるし、トマス・ウルフの『時間と河について』なら六冊買える」「ラドヤード・キップリングやジャック・ロンドンの著者書名付きの初版本でも、それより安く手に入る」と疑問を呈している。

クリフのスティーヴン・キングに対するこだわりは尋常ではなく、「こんな子供だましが何千万部も売れているのが、実は一番の恐怖かもしれない」「この手の本を買う連中は、実はあまり本が好きではないのだ」「キング・ファンやクーンツ・ファンが、じっくり本を選んでいるところなど見たことがない」と断言した後で、「この商売で肝心なのは、スティーヴン・キングを山ほど仕入れておくことだ」というルビーの言葉を紹介している。

クリフの、こうした古本に対するこだわりや文学に対する見識が、やがて事件を解決へと導いていくことになるのだが、謎解きをしながらアメリカ文学に詳しくなることができるという意味では、読書好きの人にとっては二度も三度もおいしい小説と言えるだろう。

ジョン・ダニング「死の蔵書」ジョン・ダニング「死の蔵書」

フィッツジェラルドのサイン入りの『楽園のこちら側』、ヴィヴィアン・リーのサインが入った『風と共に去りぬ』、トマス・ウルフとヘミングウェイが互いに相手の本にサインをしたという『天使よ故郷を見よ』と『武器よさらば』、酔っぱらったスタインベックが献詞をつけた『怒りの葡萄』。

クリフの謎解き以上に、次々と登場する珍しい古書にワクワクしてしまう読者も多いのではないだろうか。

次々に読みたい本が増えてしまうという、ちょっと珍しいハードボイルド小説だ。

書名:死の蔵書
著者:ジョン・ダニング
訳者:宮脇孝雄
発行:1996/2/29
出版社:ハヤカワ文庫

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じゅん
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庄野潤三生誕100年を記念して、読書ブログを立ち上げました。村上春樹さんと庄野潤三さんの作品をゆるゆる楽しんでいます。