日本文学の世界

小沼丹「小さな手袋/珈琲挽き」精選随筆集の名作が20年ぶりに新装復刊

小沼丹の随筆選集『小さな手袋/珈琲挽き』が、みすず書房から新装復刊された。

本書は、もともと、みすす書房「大人の本棚シリーズ」として、2002年2月に刊行されたものなので、今回20年ぶりに装幀を改めて復刊されたということになる。

小沼丹のプロフィール

ユーモアとペーソス溢れる作品で知られる小説家・小沼丹は、1918年(大正7年)9月9日、当時の東京市で生まれた。

早稲田大学文学部英文科を卒業後、英文学研究に勤しむ傍らで小説を書き続け、1954年(昭和29年)、『村のエトランジェ』で頭角を現す。

1955年(昭和30年)、『白孔雀のいるホテル』で芥川賞候補となるが、受賞には至らなかった。

この時期、「第三の新人」と呼ばれる作家群が連続して芥川賞を受賞する中で、小沼丹は、芥川賞を受賞できなかった「第三の新人」の一人だが、1969年(昭和44年)に『懐中時計』で読売文学賞、1974年(昭和50年)には『椋鳥日記』で平林たい子文学賞を受賞するなど、実力派作家としての高い地位を築いている。

1996年(平成8年)11月8日逝去。78歳だった。

若い頃から井伏鱒二との親交があり、井伏鱒二没後には、追悼文集『清水町先生』を刊行している。

『小さな手袋/珈琲挽き』について

芥川賞候補作家として知られる小沼丹は、随筆の名手としての評価も高い。

生前、『小さな手袋』『珈琲挽き』と二冊の随筆集を刊行しており、この二冊は講談社文芸文庫にも入っている。

没後に刊行された『福壽草』も入れると、小沼丹の随筆集は全部で三冊となるが、本書『小さな手袋/珈琲挽き』は、作家が生前に刊行した二冊の随筆集の中から精選された作品が収録されている。

編者は、小沼丹と生涯の盟友であった作家の庄野潤三。

昭和40年に発表された名作短篇「秋風と二人の男」に登場する二人の男は、庄野潤三と小沼丹のことだが、庄野さんは晩年まで小沼丹との思い出を作品の中で綴った。

公私に渡り、互いを支え合った文学仲間だったといえる。

随筆の名手として名高い庄野さんは、小沼丹の随筆を高く評価していた。

多くの随筆作品を遺した庄野さんが精選した随筆集だから、その純度は極めて高い。

もっとも、編者の庄野さんも、収録作品の選定にはかなり苦労したらしい。

本書には小沼の生前、最後に出た随筆集『珈琲挽き』からの四十六篇に、最初の随筆集『小さな手袋』から選んだ十五篇を加えたものを収めた。小沼が本に入れた随筆はみなよいものばかりで、選ぶというのは困難な作業であることがよく分った。(庄野潤三『小さな手袋/珈琲挽き』)

精選された作品集の中から、さらに精選された選り抜きの作品が収録された随筆集。

それが、本書『小さな手袋/珈琲挽き』である。

新装復刊『小さな手袋/珈琲挽き』を読んで

今回、新装復刊された『小さな手袋/珈琲挽き』を早速買ってきて読んでみた。

小沼丹の随筆集は、「大人の本棚」版も講談社文芸文庫版も、我が家の本棚には並んでいるけれど、新たな装幀となった本を読むのは、やはり楽しい。

随筆集を読むときは、まず目次を眺める。

その中から、気に入りそうな題名の作品から読み始める。

再び、目次に戻って、面白そうな題名の作品を探す。

こうした作業を繰り返した後で、読んでいない作品を読み進めていく。

随筆集は、そんな読み方が楽しい。

今回、僕が最初に読んだ作品は「古本市の本」という作品である。

高田馬場駅前の古本市で「現代ユウモア全集」の端本四冊を買ったときの話で、戸川秋骨、牧逸馬、佐々木邦が二冊だった。

戸川秋骨の「ケエベル先生」という作品を読んだ感想が、主に綴られているが、この作品ひとつを読んで、小沼丹の随筆はやっぱりおもしろいということを再認識した。

古い全集の端本を入手する楽しさを学び、「現代ユウモア全集」なる全集を読んでみたいと欲し、久しぶりに戸川秋骨を読んでみようかという気持ちになる。

次に目に付いたのが、親友・庄野潤三のことを書いた「庄野のこと」で、ロンドン滞在時に庄野さんから届いた手紙のことが綴られている。

ロンドンにいる小沼丹との手紙のやり取りは、庄野さんの長編小説『野鴨』の中にも登場している。

『野鴨』は、つい最近まで読んでいた本だから、ちょっと愉快な気がした。

それから「小山さんの葉書」という作品を読んだ。

太宰治の愛弟子・小山清を偲んで書かれた随筆である。

「倫敦のパブ」は、ロンドン滞在時に訪れたパブの思い出を綴った回想記。

やばい。おもしろい。楽しすぎる。

小沼丹の随筆には中毒性があるのか、読み進めていくうちに止まらなくなってしまう。

ひとつひとつの作品が短いから読みやすいし、上質な文学作品としてのまとまりがある。

大人の男性としての嗜みがあって、思わぬところでくすりと笑わせるユーモアがある。

気品高いのに、勿体ぶっているわけでもないから、親しみやすい。

最初に単行本『小さな手袋』が刊行されたのは1976年で、『珈琲挽き』は1994年である。

そんなに古い作品集が消えてしまうどころか、装いも新たに刊行されるというのは、小沼丹の随筆作品の普遍性を物語っているということだろう。

いつまでも読み継がれていくべき、日本の名作随筆集だと思う。

時代を超えて、今また、小沼丹が復活したのだ。

そう考えるとうれしい。

書名:小さな手袋/珈琲挽き
著者:小沼丹
編者:庄野潤三
発行:2022/4/8
出版社:みすず書房

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じゅん
庄野潤三生誕100年を記念して、読書日記ブログを立ち上げました。庄野潤三さんの作品を中心に、読書の沼をゆるゆると楽しんでいます。