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ボブ・グリーン「アメリカン・ビート」普通の人々の暮らしの中の物語

ボブ・グリーン「アメリカン・ビート(和訳)」おすすめ抒情派コラム

ボブ・グリーンのコラム集「アメリカン・ビート」を読みました。

普段の暮らしの中の何気ない物語っていうやつが大好きです。

書名:アメリカン・ビート
著者:ボブ・グリーン(井上一馬・訳)
発行:1991/9/4
出版社:河出文庫

作品紹介

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『アメリカン・ビート』は1985年に刊行されたボブ・グリーンのコラム集です。

本国アメリカにおける『American Beat』刊行は1983年なので、2年後には日本に紹介されていたということになります。

「collection of columns」というサブタイトルからも分かるとおり、ボブ・グリーンの執筆したコラムの中から選ばれた34編のコラムが収録されています。

今回は河出文庫版を参照しています。

(目次)タフガイ・コンテスト/化粧室の歌/サムシング・ブルー/リムジン車/思い出の指輪買います/シナトラ・ジュニア/お尻のコピー/帰らざる日々/さようならジャック/両親のこと/ビートルズ/殺人者スペックとの対話/野球そして人生の真実/ニクソンの孤独/処刑を見にやってきた/父が退職した日/教育の現場/ジョン・レノンが死んだ夜/あるバスの運転手/日記をつけていた一年間/セールスマンの人生/クリスティ・マクニコル/『コスモポリタン』誌「今月の男」/『女の子の引っかけ方』/一九六八年の真実/不良少女J・C/ヒュー・ヘフナーを訪ねて/空港で出会った女性/ダンスは苦手/残念ながら出版できません/大リーグのオーナー、ヴィーク/おとり記事/オーディション/心の支え/訳者あとがき/解説(川本三郎)

初出は、アメリカ・シカゴの地元新聞「シカゴ・トリビューン」に掲載された新聞コラム。

わが国でのアメリカン・コラム・ブームの火つけ役となった、ボブ・グリーンの記念碑的傑作コラム。失脚後のニクソン、大量殺人者スペック、ビートルズ、ヒュー・ヘフナー、クリスティ・マクニコルなど有名人だけでなく、自分は癌だと告げる若い女性、有名な大歌手を父に持った平凡な息子、初恋の女性、野球少年など、ごく普通の人々の人生ドラマを的確な筆致で鮮やかに浮き彫りにして、コラムの面白さを満喫させてくれる35編。(背表紙より)

なれそめ

僕が「コラムニスト」という職業に始めて関心を持ったのは、ボブ・グリーンのコラム集を読んだことがきっかけでした。

初めて読んだボブ・グリーンは、『ボブ・グリーン 街角の詩』(1989年、NTT出版)で、それからボブ・グリーンの著作を集めましたが、ボブ・グリーンのコラム集は、同時期に複数の出版社から刊行されていて、順番がすごく分かりにくかったです(笑)

年代別に整理すると次のようになります。

1983年『アメリカン・ビート』(河出書房)
1986年『アメリカン・ビート2』(河出書房)
1986年『チーズバーガーズ』(文芸春秋)
1988年『アメリカン・タイム』(集英社)
1989年『アメリカン・ドリーム』(集英社)
1989年『アメリカン・スナップ・ショット』(河出書房)
1989年『ボブ・グリーン 街角の詩』(NTT出版)
1990年『アメリカン・ヒーロー』(集英社)
1990年『チーズ・バーガーズ2』(文芸春秋)
1992年『晩秋のシカゴ~ミシガン大通りから』(集英社)

1980年代後半の日本におけるボブ・グリーン人気を示すように、いくつもの出版社から毎年のように傑作コラム選が出版されていました。

小説でもノンフィクションでもない、いわゆる新聞コラムが、ここまで人気を得たというのは、かなり珍しいことだったのではないでしょうか。

本の壺

心に残ったせりふ、気になったシーン、好きな登場人物など、僕の「壺」だと感じた部分を、3つだけご紹介します。

思い出の指輪売ります

キャロルは手の中で指輪をしっかりと握りしめて、列に並んでいる人々の人生について思いをめぐらせた。高校時代あれほど希望にあふれていた少年や少女は、いったいどこへ行ってしまったのだろうか。記念指輪を買ったときの誇りは、どこへ消えてしまったのだろうか。あの少年や少女が今すっかり年輪を重ねてここにいる。そして今日の糧のために、過去のかけがえのない思い出を売らなければならない羽目におちいっている。(『思い出の指輪買います』)

たくさんあるボブ・グリーンのコラムの中でも、特に好きな作品のひとつに『思い出の指輪あります』があります。

今、30歳となっている彼女は、宝石会社の新聞広告を見て、高校卒業記念の指輪を売ることを決意します。

彼女の生活がどんなものなのか、詳しい解説はありません。

ただ、宝石会社の指輪買取会場となっているホテルにはたくさんの人たちが列を作り、「世の中ってもっと楽ちんなものかと思っていたわ」なんて会話を交わしています。

やがて、彼女の順番がやって来て、彼女は思い出の指輪をたったの45ドルで売り払い、ホテルを後にします。

ドラマチックなストーリー展開もなければ、難しい社会への提言もありません。

思い出の指輪を手放さなければならない女性の姿が淡々と映し出される中に、読者は多くのメッセージを読み取ることになるのです。

来年の夏は野球をやらないよ、とブレットは言った

だれもがいつかは、そのことを思い知るのだが、ある者は人より早く知る。ある晩、ブレットは両親に、来年の夏は野球をやらないよ、とぽつりといった。その目は夏がはじまる前のように輝いていなかった。それが両親にとっては、いちばんつらかった。ブレットの目は、もう前のように輝いていなかった。(野球そして人生の真実)

ブレットは9歳。

憧れのリトルリーグに入って野球を始めますが、実力主義のチームの中に、彼の居場所は見つかりません。

一度もプレーに参加することなく、彼の夏は終わり、彼は「人生とは決して公平ではない」という真実を知ることになります。

人生の新しいサウンド・トラックだったビートルズ

ビートルズのことを考えるとき、それが、ニュースの声が繰り返しニューヨークでの狙撃事件について報じた1980年12月の夜のことであってはならない。ニュースの声が同じようにかけがえのない人間の死を告げる夜は、それ以前にもくさるほどあった。私たちの記憶は、そんな悲劇で満ちあふれている。(ジョン・レノンが死んだ夜)

ジョン・レノンが殺害された夜、著者は青春時代を振り返っています。

彼らの世代の青春時代には、常にビートルズがあったからです。

ビートルズの音楽を聴いていると、彼らは「なんでもできる気がした」し、ビートルズの新しいレコードは「人生の新しいサウンド・トラックになっていた」時代。

「ビートルズは、私たちの人生のいちばん幸福だった時代のナレーターをつとめてくれたのだ」と綴られているように、ビートルズは、ある時代にとっての共通言語であり、共通体験でした。

ジョン・レノンの死によって、「ビートルズの再結成は二度とあり得ない」という単純な事実と、彼らは理解しなければならなかったのです。

読書感想こらむ

ボブ・グリーンの作品は「新聞コラム」です。

新聞という媒体に掲載される以上、そこにはなんらかの公共性がなくてはならないし、社会的メッセージが含まれていることも必要ですが、ボブ・グリーンのコラムには、難しい警告や指摘は出てきません。

街角に生きる人たちの姿をスナップ写真のように描いて、短い物語の中で再現するだけ。

だけど、ボブ・グリーンがそうして取り上げる人たちのささやかなドラマは、現代社会の中で、多くの人たちが忘れかけていたドラマであり、あるいは、多くの人たちが知らなかったドラマであったりします。

街角の人たちに光を当てることで、「我々は忘れていない」というメッセージを、ボブ・グリーンは発していたのではないでしょうか。

誰かが書かなくてはいけない。

そんな使命感が、このコラム集の中には漲っているような気がしました。

まとめ

『アメリカン・タイム』は、ボブ・グリーン初めての傑作コラム選。

本当のドラマは、普通の人々の普通の暮らしの中に隠れている。

新聞コラムを超えたヒューマン・ストーリー。

著者紹介

ボブ・グリーン(コラムニスト)

1947年(昭和22年)、アメリカのオハイオ州生まれ。

『シカゴ・トリビューン』や『エスクワイア』でコラムを連載。

日本で『アメリカン・タイム』が刊行されたとき、彼は38歳だった。

井上一馬(翻訳家)

1956年(昭和31年)、東京都生まれ。

ボブ・グリーンのコラム集で人気を集める。

『アメリカン・タイム』刊行時は29歳だった。

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じゅん
じゅん
札幌在住の文化系社会人。文学散歩とカフェ読書を楽しんでいます。札幌中央図書館の2階辺りに棲息中。